え、俺の了承は?
俺のカバーストーリーはこうだ。
元々農村を訪れる時に考えていたものに加えて、アイちゃん情報から色々と混ぜて作り上げたので問題は無い。
たぶんおそらくきっと。
出身地は遥か彼方。
日出島国。
謎の国、現実にはない俺が勝手に作った架空の国。
どうやら本当に東方には国が在るらしいが、本当にある国名だと知り合いがどうこうと問題になった時に困る。
多次元世界基準で和の文化は東方で島国に存在する法則があるようだからね。
あれだ、日昇の場所を目指して神道系が逃れていった説的な流れがあるのかもしれぬ。
そこで修行からの帰還の旅の途中に訪れた魔境で不運に陥る。
恐らくは転移魔法陣のトラップと思われるものに巻き込まれて、この国の森の中へ飛ばされた。
その森で糧と今後の生活費を稼ぐ為と修行を兼ねて数日に渡って素材を集め戦闘をこなしていた。
持っている技術については幾つか明かしても良いけれど書類には残さない事を約束して貰った。
技術の習得段階なども黙秘とし、限定的に有用な技術だけを開示する。
まずコレクターに役立つであろう採取に鑑定の二つを持っている事。
さらに、薬学、錬金も使用できる事を告げてある。
薬を作っているので今更隠す意味が無い。
戦闘に関しては剣術と槍術があって、さらに身体強化という技術を持っている事にした。
以上強ち嘘でも真でもない俺の来歴が作り上げられた。
異次元倉庫はどうしたのと思うでしょ。
実際クリスティーナさんにはジト目で見られたけど、敢てそこはこの袋ですと革製の袋で押し通そうとした。
無理だったけど、そういう話にしてもらう事にした。
だって前情報がなかったんだよ。
魔道具ってのは基準があるのだそうだが、革袋だと容量は多くないのが普通だそうである。
法則的には袋→鞄→枠鞄と許容量増えるらしいのだ。
つまり、革袋の収納量の限界を軽く超えていると。
そりゃ嘘でもちょっと無理があった。
ただまあ、何事にも例外は存在するし師匠から餞別に譲り受けた特別な物として今回他の職員を黙らせて貰う事にした。
暗黙の了解ってあると思うんですよねってことでクリスティーナさんも最後は納得してくれたようだ。
それとクリスティーナさんとは十分に話し合ったのだけれど。
納品するのは先に出した月神草と魔獣から取れた素材以外に関しては、組合側でどうしても必要な物だけに止める事にした。
ちょっと良い物があるからと言って、不要な物を納品するのも如何なのだろうねと思った事と、依頼があって後出しの達成が可能だからと他の冒険者の稼ぎの糧を奪うのは宜しくない。
特に採取系をうけるコレクターで生きている人ってのも少ないなりに居るだろうしさ、ニュービークラスだと戦闘力評価が低いとなれば回されるのは街の雑用、その次にくるのが採取である。
採取系は危険な仕事を始める入口になっているので機会が減ればニュービーが育っていく環境が失われるし、稼ぎにも関わるってことは生活に影響がでる。
だから無茶したら恨まれちゃうよ、そんなのは御免被りますわ。
ええ、最初全部ぶちまけちゃえなんて思ってた事なんてないよ。
そんなこんなで、今俺が居るのは倉庫である。
まず六裂熊とかの魔獣の素材で必要になりそうな物以外を出した。
こっちの人は大鼠も森狼とかもいけるらしいが俺にはちょっとね。
他にも肉が大量にあるから食べない分は全て納品となった。
今の流れは、俺が素材を次々と並べていくでしょ、シエスタを終えた組合職員の方々、例えば素材カウンターの奥に普段いる職員の皆様や、書類整理専門の人、営業担当なんて方もいる、そんな方々がクリスティーナさんの招集で一斉に検品、査定、書類作成、金額の準備など担当して作業を進める。
一部肉や薬草などで鮮度が命の物には専任者が必要な処理を次々に施していく。
見事に訓練された流れ作業である。
魔獣暴走やなんだかんだと大量に物を捌くのはお手の物だそうだ。
でもそれを取り仕切るクリスティーナさんは何者なのだろうかね。
そんな中でやはり全員が一瞬固まったのは六裂熊の素材を出した時だった。
まず大きい。
普通の奴はまだ見てないけど20歳で魂位も魔獣とすれば高かった。
体がデカいと中身もデカくなる。
当然、胆嚢とか高級素材もデカい。
胆嚢なんて1gで100エール、つまり1000円もする高級品だ。
それがどう見ても数kgの塊で存在している。
毛皮も1デシ単価が120エールという高値がついているのだが、成牛三頭分、1200デシはあるだろう。
敷物にでもされるのかもしれないな。
当然組合職員達はその高額な素材の値段も知っている。
それ故に固まったのだろうな。
うん、決して小さな革袋から飛び出た駒のような感じではないと思う。
言い含めておいて貰ってよかったです。
六裂熊を出した後で説明を受けたのだけれど、こうした高級品はオークションに掛かる可能性が高くなるので最低限の支払いを済ませて後日差額を貰えるのだとか。
そうしないと組合に納品してくれなくなるから謂わば代行サービスなのだろう。
「有難う御座います、これで、これで薬師組合の買い付け担当に一泡吹かせてやれそうです」とは拳を握りしめた説明をしてくれた営業担当職員だった。
彼に一体どんなストーリーがあったのかは判らないけれどその頭の禿げ具合から相当のストレスが溜まっているのだろう。
少しでもそれが晴れるならば幸いである。
魔晶石の価値は魔力貯蔵量と残存魔力量で決まる。
魔晶石は謂わばリサイクル可能な充電池と同じだ。
但し、魔力を込めなおせるのは魔力操作などの技術が必要になるし、ロス率が大きいらしい。
無論電池と同じように摩耗するので何時かは壊れる。
更には使い捨てにする魔術利用などもあるのだとか。
あ、因みに俺は充填のロス率ゼロでいけます。
討伐ランクが同じシングル推奨で魂位も同じだったとしても、種類によっても個体によっても大きさも貯蔵量もかわってくる。
「これの量500、残500ね」
「満額通して」
こんな風に検査と査定が繰り返されている。
残存魔力が9割までならば満額支払い、そこから1割下がる毎に支払額が1割引かれ、3割までは減っていくのだとか、一応救済措置としてそれ以下でも3割で買い取りはされている。
俺のは殆どの魔石が満タンだと思う。
一撃で倒しているのが多いから減る暇はなかっただろう。
専門の職員が検査して質の良いと査定された魔晶石は領主を通して国へ納められる事になる。
国が魔石を大量に欲しがる理由だが、魔道具に使用するなど以外にも理由がある。
この世界の国々の多くと同様に、この国の貨幣は魔晶石と金を使用して併わせて鋳造されている。
最高金額貨幣から順に100,000エール晶金貨、10,000エール晶金貨、1,000晶金貨がある。
此処までが1g500エールと定められている金を貨幣価格と同じだけ使用し魔晶石を囲むような見た目で作られている。
実に長ったらしいので大金貨、中金貨、小金貨と呼ばれていたりもする。
一般人が見るのは普通に1,000晶金貨、小金貨までだろう。
次に100エール晶貨、10エール晶貨、1エール晶貨となる。
100エール晶貨などにも一応金は使われているのだが呼び方が変わっている。
金の使用量が極端に減っていく為に金貨とは逆に、金の回りを囲むのが魔晶石に変わる。
中心に小さく金色の輝きがあるだけなので大晶貨、中晶貨、小晶貨と言われている。
こうして、魔晶石が使われている一番の理由は偽造防止の為なのだとか。
鋳造方法は王家の秘匿する方法なのだそうだ、閉じ込められた職人とか王族とか居そうであるブルブル。
錬金やなんだかんだと魔術を利用して作っていて酷い事は無いとはアイちゃん情報である、よかったよ。
此処にもファンテクありだが、硬貨の中にマイクロチップを埋め込んだような仕組みで、魔術が反応して本物のお金同士なら光沢が増して、偽物には反応しないのだそうだ。
一目瞭然ってやつですな。
仮に偽造するにもコストが貨幣を大幅に上回るように作られているから、コストもそうだがリスクも高くつくらしい。
お祭り騒ぎのような状態になっているが、出す物は出したのでとクリスティーナさんと共に控室でカードの手続きをとなった所でオッサンが現れた。
通路の先から熊のようなガタイがエンカウントだよ。
キャッキャウフフじゃないんだけど、クリスティーナさんと楽しく喋れるかなあと思った矢先に襲撃である。
「おい兄ちゃん、ありがとう。
んでちょっと話があるんだが」
「今からカードの手続きがあるんですけど」
「そうか、クリスティーナ、終わったら店までたのまあ」
嵐の様に現れたオッサンは手を振りながら笑顔で去っていった。
え、俺の了承は?




