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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
17/51

取調室

「どうぞ、お掛けになってください」

「はい、では失礼して。

 あの、どうしてこの部屋に連れてこられたのでしょうか」


 告白ではないよね、判っているさ、そこまで頭は沸いてないよ。

 まだ出会って数分、いくらアイちゃんの予言があったと言えどこんなにも早くヒロインが現れて俺に告白する筈がない。

 雰囲気がシリアスだし。


「クロウ様、採取品などの買い取りをご希望されておられましたよね」

「ええ、出来れば。

 森で採取してきましたので」

「それが此方にお通しした理由で御座いますね」


 溜息を吐かれてしまいました。

 美人に本当に残念ねえって顔をされると五臓六腑をナイフでズタボロにされるダメージを負うよ。


「冒険者について詮索は本来はしないのですけれど、こちらはクロウ様の為と言う事でご理解頂きたいのです。

 まずクロウ様、高級アイテムバックもしくはそれに類する物か技術をお持ちでしょう。

 でなければあの量であの品質の月神草が現れません」


 クリスティーナさんが親指を曲げながら理由を説明してくれる。

 あれ、高級アイテムバックの高級ってどういうこと。


(時間停止機能のついた位階:宝以上の収納アイテムの事です。

 あの状態を時間停止だと見抜くとは、なかなかこの方の観察眼が優れていますね。鑑定に頼っていません)


 あちゃあ。

 まあ奥地で取れるからなあ。

 時間は経ってて当然か。

 保存方法は気を付けた感じで出したんだけどなあ。

 それよりも素材自体を鑑定したのかは解らないけど、技術の点を疑われたか。

 正解は技術の時空魔術ですらなく、能力の異次元倉庫になるんだけどね。

 あ、時空魔術も当然バレたらやばそう。


「この後に出される素材が何であろうと不思議は御座いませんので私達組合側は問題ございませんが、あの場で続けて素材をカウンターに出して頂いていれば何かしらかの不利益がクロウ様の身に降りかかる恐れがありました」


 また指が曲げられていく。これ何本ぐらいいきますかね。

 片手で済みますか。

 いや親指からいったから折り返しもありうる。

 ま、まあ、全部出して売り払おうとか思ってたりはしないよ。

 ほら六裂熊も出さない方がいいかなぁなんて考えていたし。

 見た目と違って意外に慎重と評される俺だからね。

 え、全く信用がないって、おっかしいなぁ。

 アハハハ。


(軽快な自虐的乗り突っ込みですか)


 しー、アイちゃんには隠し事できないんだからね。


「噂が広がれば、人によっては外見だけを侮って害を為そうとする者が現れても不思議ではありません。

 もう一人の担当は既に情報の拡散防止の合図をおくり対処させています。

 先ほどのブーン氏も薬品を譲ってもらった人間に害をなすような方では無い点はご安心を頂いて大丈夫でしょう。

 また元高位冒険者だけあって、この問題にも気づいておられると思います。

 あの方ならこの話を言い触らしたりはしないでしょう。

 ですが確実にご理解頂いた方がいいかと思いました、将来性のある方には特に」


 拡散防止って措置で三本目ですかね。

 さらに理解しなさいねって事で四本目。

 外見だけみてってのがちょっと悲しいけど、それってクリスティーナさんにはバレてる系ですか。

 いやそれはないよな。

 なんだろうな、ステータスは判らないはずなんだけどなあ。


「恐らく何故と思われているかと思いますけれど、受付嬢の第六感といいましょうか。

 多くの冒険者の方を見ておりますから違和感が御座いました。

 例えばですが、クロウ様から血などの匂いが全くしない事。

 汚れが無く冒険者らしくないのに戦闘に支障のない服装。

 戦闘において激しく使われたと思われる傷がある槍。

 濃密な魔力生体障壁。

 丁寧な言葉遣いだけども貴族ではない。

 周囲をつぶさに観察している。

 少なくともこれだけ奇妙な印象を読み取れる冒険者を、今までの受付業務では見かけた覚えが御座いません」


 うわぁ、第六感って蓄積した経験値からくるものも含まれるっていうけれど、こうも分析されるとマジっすかとしか言えないわぁ。

 受付嬢ってみんなこんなんですか。

 これ笑って誤魔化せないよなあ。

 逃げるってのはうーん、逆に此処に連れてきてくれてるってことは考慮してくれているってことだし。

 頭を抱えたいなあと思っていると、机のライトがピカッって光った。

 魔道具かなこれ、ファンテクだね。


「お茶が届いたようですのでお待ちください。

 宜しければ素材を出しておいて頂けますか」


 そう告げて席を立ったクリスティーナさんは扉に向かう。

 もう指を曲げていく説教タイムは終了でしょうか。

 心はちょっとバキっと逝ってます。

 ちょっとご褒美だなんてオモッテナイヨ。

 美人のジト目は意外と悪くないけどさ。


 さて、お言葉通り或る程度の素材は出してしまった方がいいかもしれない。

 だって後々になって六裂熊とか出したら怒られそうじゃないか、いや確実にクリスティーナさんはプンスカするタイプだと思うんだ。

 それは冗談だけど、受付嬢でこの観察眼をもってて仕事ができてとなれば味方にしておきたい。

 ならいっそのことぶっちゃけていけばいいんじゃね。

 ステータス的な所は明かせないけどさ。

 そうだ、そうしよう。

 そうと決まれば中身の確認だな。

 村に行った時よりも増えているし。


 治癒草、英雄草、雫露草エトセトラ……

 傷薬でも何種類もあるし、どうするよ。

 魔力回復する草とか大丈夫かね。


(異次元倉庫ではありませんが、それに似た技術持ちと既に思われていますし、マスターの意見に賛成です。

 あのタイプの女性は面倒見がよいタイプですよ。

 冒険者は実力主義ですのでたとえニュービーから始まろうと受付嬢が仲介する仕事をこなすので問題はないかと。

 出す素材は強化に使える物やマスターが自分で使う分の薬剤用を除けば希少種を除いて全部だしても問題はないかと。

 新たに格納アイコンに位階を示すランクを表示します――実行――表示終了しました)


 危ない、位階で分類するところの逸より上の素材が結構あるぞ。

 武器とかもあるし、森に落ちてた奴か遺品とかもありそう。

 討伐した魔獣や魔物の素材は六裂熊の物で胆嚢がギリギリで位階:特に分類されるようだ。

 1gで100エールにもなる超がつく高価な物だ。

 他の魔獣素材はこれよりは下の分類になる。

 うーむ、まあこれ位の敵も倒せないと今の季節に月神草は手に入らない訳だからいいか。

 だが、ちょっとまて、確かに出してと言われたから此処に出してもいいんだけどさ。

 この部屋に収まり切れないわ。

 ちょっと冷や汗が出た。


「はい、どうぞ」

「これはどうも。

 有り難く頂きます」


 ああ、お茶って落ち着くわ。


「あのぉですね」

「ああ、大丈夫ですよ。

 先程もライトで知らせが来たようにこの部屋には防音の魔術を展開しておりますから」


 小声で喋りかけたら防音処理までされていると教えてくれた。

 凄いな組合の取調室じゃない会議室。

 違う違うそうじゃない。

 其処に関心している場合じゃないよ。

 もう決めたんだし、ここは開き直ればいいじゃないか。

 所謂ぶっちゃける。

 ちょっと美人にぶっちゃけるって危ないフレーズだな。

 告白するよりも気を使うわ。


「クリスティーナさんが推察された通り、様々な素材を持っておりましてですね」

「種類も沢山あるのですか。

 それは興味深いですね」

「特に一番大きな物が、ちょーっとばかり大きすぎて」


 机の上に出したら、確実に机が壊れるもの。


「あら、この部屋も狭くはないですが。

 多少大きい素材があるなら無理なのかしら」

「ええ、六裂熊が一頭、その他諸々」

「えっと六裂熊が一頭ですか」

「はい」


 お、このお菓子もおいしいなぁ。

 ハーブティーによく合う。

 ちょっとお茶は熱いからフーフーしないとね。

 へへ、話したらすっきりしたよ。

 どうしようも無い事で悩んでも打ち明けたら楽になった感じかな。

 ハハハハ。


「……は?

 いえ失礼をしました。

 あの、疑う訳では無く確認なのですが六裂熊が一頭ですか」


 いや、俺も相当間抜けな感じで喋ってるけど。

 美人な人が唖然としている顔はレア中のレアだと思うんだ。

 ここは能力を使ってでも心の中にスクリーンショットだぜ。


(保存しました、ええ)


 いや、ちょっとした出来心です。


「はい、丁度出くわす機会がありまして、実は――」


 とまあ、冷静を装って村近辺から云々とその時の事を簡単に説明はしておいた、修行云々とね。

 ちょっとクリスティーナさん驚愕していた気がする。

 あれ、やっぱり倒せる強さを持っている様には見えないかね。


 それとアイちゃん冗談なので許してください。

 網膜の中妖精さんにでジト目で睨まれる趣味はないよ。

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