連行されそう
「ブーンさん、ダメですよ」
「いや、まあ解っちゃいるさ、自分の足だからな。
でもよ、手足口病で熱出してる娘に何もできねえ父親ってのは悲しいじゃねえか」
「診療所も困ってるんですがね」
隣の受付担当のお姉さんの様子からも困ったという感じが伝わる。
しかし手足口病ってあの手と足と口に発疹ができるあの病気だろうか。
あれは辛いんだよね。
発疹が口の中にもできるから食事も取るのが大変になる。
食べれたとしても良く煮込んだお粥か饂飩で、それでも痛みが生じるほどだ。
「店は一応閉めてるんだ。
やっぱり行くしかないな、今の薬草地図を見せてくれ」
「いやいや、今の時期に確実に生えている場所なんて大物の生息域ですよ。
現役時代のブーンさんならともかく」
「どっちにしても暫くは休業だぜ」
元冒険者さんか、確かに強そう。
つーか筋肉達磨っていうのはこういう人を差す言葉だと思う。
あれかな鍛冶屋さんとかだろうか。
坊主にはこの武器だなとかバンバン背中を叩いているイメージがある。
「ええええ、そんなぁ。ワイルド&キャッツが閉まってるなんて奢ってもらう予定の今日の夕食がぁ」
え、夕食って何。
え、ハゲなオッサンでどう見てもソッチ系にしか見えないのに食事処なのかよ。
それに奢ってもらうって何それって冒険者は金蔓ってやつですか。
でも其処まで悲壮な表情になるほど楽しみにしていたってことなのか。
「仕方ねえじゃねえか、手足口病だからな。
ありゃ感染する可能性のある病気だ。
娘の看病をしているんだから俺もも料理はできねえし、嫁さんも看病だから、暫く店は開けられないだろうよ」
しかも料理担当ですか、いやホールに立たれても怖いけど。
残念がっている受付嬢の様子からも美味しい料理を出すのだろうと思われるのだけど。
あれ、クリスティーナさんも残念がってないか。
つかハゲのオッサンよくよく聞いていれば、結婚してるのかよ、まあ顔はワイルドな顔立ちだけど悪くはないのかね。
「えーと記入はこれでいいですかね」
「あ、はい。
星印の箇所は埋まっておりますね。
はぁ、あ、すいません」
「いえ、クリスティーナさんも予約か何か入れられたのですか」
「まあその組合統括が受付に慰労として偶にワイルド&キャッツで宴会を開いてくれるのですけど、それが明々後日の予定だったもので」
それは悲しいかもしれない。
そして其処まで受付嬢達のハートをキャッチする料理に興味が沸くね。
食べてみたい。
「ではこの内容で登録させていただきますが、技術などは登録されませんか」
「はい、まあソロでやっていきますから」
ソロでやっていくというか、やらざるを得ないというかね。
自分の特殊性からすればパーティーとか無理。
テンプレ奴隷パーティーぐらいしか秘密を守れないだろうけど、それもちょっとな。
そんな内情は置いて置いて、今はそれよりもだ。
「あの、隣のカウンターで言われているのってこの月神草ですよね」
「え、あ、はいこれです」
「お、おい兄ちゃん、その月神草は納品するやつか」
強面のオッサンが素早く反応してガシッと両肩を掴む。
テンプレで強面に絡まれるのは判るがなんか違うくね、これ。
オッサン手が震えてるし。
ただならぬ雰囲気で只でさえ恐ろしい顔が鬼神のような表情になってんぞ。
「勿論ですよ、隣でそんな話を聞いてて納品しない素材は出しませんよ」
「うぉおー、ありがとう、ありがとう」
オッサン感極まって叫んで、泣き出したよ。
「おい、アイツ、ブーンの親父を泣かせてるぜ、何者だ」
「まじかよ、野獣を泣かせるとかすげえ」
まてや、このオッサンが感極まってるだけだって。
なんでテンプレな冒険者対決すっとばしてやっつけた事になってんだよ。
変なとこだけ抜き取ってテンプレ終了てきな扱いは止めろ、都合の良い部分だけ抜き取るマスコミか。
それとオッサンの野獣って二つ名似合ってるな、ちょっと羨ましい。
店名のワイルドはそれでか、じゃあキャッツが奥さんなんだろうな。
「クロウ様、あの失礼ですが、この量を納入して頂けるのでしょうか」
クリスティーナさんがちょっと引いてる。
まあカウンターに出したのが束というか山だからな。
でも都市部で必要な量ってなればこれ位はいるんじゃねえかな。
「えーと一応、少ないですけど成分抽出済みの薬も作ってあるのですけど」
「え、冒険者志望の薬師さん、いえ体つきが、やはりこれは……」
「なに薬があるのか、譲ってくれねえか。
急ぎだから煎じて飲ませようかと思ってたんだが」
あれ、錬金とかそこまで珍しい技術じゃないよね。
薬品系の納入なんかも記録には残っていたし。
(マスターの見た目と年齢的な問題ですね、17歳で登録されていますから。
その年齢で錬金に薬剤生成の技術を習得して販売できる程に一流になるのは大変ですから)
あー自分の年齢設定忘れてたよ。
「その、一応鑑定なりしてもらった方がいいと思います。
一応先日開拓村で使ったので問題は無いと思いますけど、俺の手製ですからね」
こ、こんな感じで誤魔化しておこう。
手製ってのも後からバレたら大変だしね。
「おう、クリスティーナ鑑定してみてくれや」
おお、クリスティーナさんは鑑定技術持ちですと。
美人で笑顔が素敵で可愛らしいのにさらに優秀とか、おい天よ二物三物を与えるとか良い仕事してるじゃない。
「はい、えっと。
――確かに、月神草を使用した解熱薬ですね。
位階:優です」
「まじかよ。
優なら支払いは何とかなるか。
値段は幾らになる」
「組合で買い取りする価格なら一瓶1000エールでしょうか。
一般店で販売されているとすれば優クラスで2000エールはするかと」
やべえ、優でもまだ位階は高かったか。
偽装レベルもっと下げればよかったなり。
逸から二段階さげたんだけどな。今更だが。
これだと、年齢設定やっぱおかしいわ。
でも鑑定でも材料と位階ぐらいしかわからないのね、回復効果もついてますぜ、其処までは偽装してないんだけどな。
しかし一瓶10000円か、高いのか安いのか。
魔術効果上乗せで確実に熱が下がるし、体力も回復する。
魔法薬だから妥当な値段かね。
そう考えると安いのかもしれない、材料は全部魔物の森の中だもんな。
――ガシッ
あれ、なんだこの手の感触は。柔らかくてふんわりしてて離せないだとっ。あれ薬どこ行った。
「クロウ様、宜しければカード刻印が終わるまで其方の会議室などに足を運ばれませんでしょうか。
ええ、ダイジョブデスよね、ウフフフ」
俺のお手々を握りしめて離しませんよと主張しているのはクリスティーナさんの両手だった。
うわー目つきが獲物を狩る雌豹になっているよースッゴイ笑顔だけど。
オッサンは瓶をデカい両手の中にしっかりと守るように握りしめて此方を凝視しているし。
「その薬は1000エールでいいですよ。
あとその、ハイ伺います」
「助かったぜ坊主、後で礼するからよ」
1000エール晶金貨を俺に渡して礼を述べるや否や走り去るオッサンを見送った。
そしてふわふわの手を離せないという状態で選択肢の用意されていない俺には、ハイとはそう答えるしかなかった。
決して柔らかな肌触りのせいではないとだけ述べておきたい。
それにしても17歳の見た目っていう若造の俺の薬で良かったのかね。
(鑑定結果は重要視されていますので問題は無いでしょう)
組合に加入して速攻で問題というか事件を起こしたなぁと反省である。
どうやら脇が甘いのは性分だと思っていたが、此方に来て更に酷くなったようだ。
因みにブーンを俺が撃退して、後日お礼参り宣言をされたと何故か曲解した噂話が流れた。
お前ら本当にスポーツ誌かなにかのマスコミかよ。