ヒロインさんが現れたかも
突然だが、俺ってば若返っちゃってます。
いや、今更だけど。現状の自分をちょっと確認しておかないとなと思ってさ。
鏡なんて無いから魔法でチョチョイと錬金して見たらあら吃驚。
んな訳で偽装ステータスでは17歳ってことにしました。
なんでこんな事をしているかと言えば今俺はテンプレなる冒険者ギルドへを訪れているからだ。
六裂熊を倒して魂位も上がったし、まあ此奴を倒せるならば普通の街で美味し物を食べたりしたいなと思い立ち、ならばあの飛行船を見てみたいとこれまた思いついた欲望のままに移動を開始した。
行き当たりばったり、ノープラン、無謀、計画性の欠片もない考えとか言わない。
因みに大きく村を迂回したのは言うまでもない。
だって感動的な別れだったのに恥ずかしいじゃないか。
街道だと獲物が少ないので、ってあれ俺の思考基準が野蛮になってないか?
戦闘漬けだったせいだろう、まあいいや。
気を取り直して。
軽く魔獣を屠りながら薬草なんかの採取をしつつ、草原や森を抜け領都を目指した。
大した敵も現れず、街道方面でお姫様が盗賊を装った私兵に襲われたり、姫騎士がクッコロしたり、奴隷商人に置き去りにされた美少女奴隷が餌食になりそうになったりなどという美味しい、いやテンプレな出来事なんて一切無く到着した。
平和で何よりだな、うん、でもテンプレさんが息をしていない。
美少女キャラとの出会いが無い。
集まるのは薬の素材や魔獣や魔物の素材のみ、レアボイスなんかは当然手に入らないのだ。
異世界だからな。
コレクエだったら美少女カードをゲットして仲間化したり育成したり、レアボイスを手に入れたりしたのに……アイちゃん以降その手の話が全くない。
(テンプレとはお約束って意味ですよね。
大丈夫ですよマスター、私以外にも素敵な出会いはきっとあります)
などとアイちゃんに慰められる始末である。
そんな事している間に領都についた。
例の飛行船は数がそんなにないらしいので今は王都に行っているのだとか、残念。
領都であるブランデンブルクは村と違って石造りの町並み、地震が無い事を前提にした建物だよな。
つか町並み綺麗ね。
水道橋があったりするし何だか思った以上に清潔でよかった。
神様がいるだけあって、ファンテクが凄いのだろう。
テンプレだが例のスライムさんが頑張ってたりする仕様だな。
通行税は村長さんに貰っていた推薦状で無料になった。有難う爺ちゃん。
冒険者組合、テンプレな響きである。
だが、この世界の冒険者組合はラノベの内容とちょっと違う。
よくある国を跨いで自由な冒険者云々と言った国家に縛られない組織ではない。
まず、国が運営する管理組織として冒険者協会が存在する。
国際間での情報の共有などはこの協会を通じて国が行う訳だ。
冒険者の格付け、納税についてもこの組織が携わっている。
利権ズブズブな匂いがします。
協会の下についているのが冒険者組合なのだが運営組織も多数ある。
運営するのは王族領地の国営、領主の領営が主で、殆ど無いが街の公営、商人などが組織をゆるされて作った民営がある。
冒険者は基本根無し草ってのはこの世界でも変わらないので其れなりの運営がされているとの事。
こんな事になるのは医薬品の原材料となる薬草類の採取に魔法素材や武器防具の素材などになる魔獣の素材を自由にさせる訳が無いってことだね。
それに国だって、建前上は移動制限が掛かって無くとも、戦力となる冒険者に他国に渡られたくない。
移動されれば損失になるのだから無茶な経営はしないし、サポートも充実する事になる。
ある程度の強さになれば貴族級の待遇などは当然になる訳だ。
一躍有名になってと無謀な挑戦をするドリーマーが後を絶たない理由でもある。
当然死傷率は高い。
さて識字率が低いと話した事があったかと思う。
故に冒険者が少しでも良い依頼を受けようと頑張って勉強している姿が此処にあったりする。
テンプレの一つに冒険者組合で依頼書を見て取り合いをするような描写があるよね。
いや創作なんでいいけど、あれ識字率の低いアホの多い設定だとどうなのよと思ってた。
実際は頑張って勉強してんだな。
むさ苦しい不良系の兄ちゃんにキツイ系のお姉さん達が文字の勉強をしたりするのは依頼で誤魔化されない為であり、計算を覚えるのも同様だ。
それに上に行けば護衛の仕事やなんだと腕っぷしだけではどうしようも無いっていう現実を都市にやって来て知るからとの事。
世知辛いよ。
「20エールの果物の袋を7つ買いました、支払いは200エール、お釣りは幾ら」
「お、おう、えーとだな20が7、20、40、60」
「フフフ、間違えたらお昼奢ってね、100エールのでいいわよ」
「120、140、160、180、200、フーッハッハ、騙そうったってそうはイカナイ。
答え、お釣りは無しだ」
計算を教わっている若者が指を数えながら足し算していく。
指の数え方を間違えてるから途中で100エールと言わなくても素で間違えている。
やべえ、コミカルすぎるわ。
問題を出してズルをしたお姉さんもちょっと苦笑いである。
「お昼はあなたの奢りよ、もう一回この表をみて。
ほら、順番に数えてみて」
「ああん、くそおぉぉ、テメエキタネエ」
「待ってよね、引っ掛けようとしたのは確かだけど、指を最初から折ってなかったからどのみち計算間違えてるわよ」
「そんなわけあるか、20から始まって、40で一回目だろ?」
「違うわよ、それだと20を8回になるでしょう」
「だぁあ、間違えてるのが後でわかりゃぶん殴りに行けば済む話だろうがよ」
「何の為の勉強よ」
同感だ。
あーでも一応九九の表っぽいのはあるんだな。
恐らくは簡単に覚えられるようにと2足す2みたいな表記になっててややこしいのだと思う。
頑張れ兄ちゃん、失礼かと思ったがサンプルとして鑑定させてもらったんだが、魂位だけみたら結構な強者だ、脳筋やめればさらに上にいけるだろう。
それに、そのお姉ちゃんは兄ちゃんに気があるぞ。
文字を教わってる人もいる、某高校で最初の英語の授業がアルファベットの書き方だったと聞いた時が余りにも衝撃的だったから此れ位では動じない。
知らないなら学べばいいのだよ。
とある友人が言っていた、生涯学ぶことは無くならないと。
本当にそう思う。
真面目な冒険者という言い方は酷いけど、向上心がある連中はこうして休養日に訓練や勉強をするのだそうだ。
まあこんな理由から冒険者組合でのやりとりは基本的に受付嬢から依頼を受ける形となる。
元々、冒険者協会は口入屋という斡旋業や酒場での傭兵の依頼のやり取りを一括して管理する為に設立された経緯がある。
認可制にして冒険者組合を設立し利権を確保したわけだ。
そこにやってくるのは文字の読めない、計算の出来ない農村から出てきた若者となる。
必然的に受付が対応せざるを得なかった、いや現状でも変わらないのだろう。
さっきの兄ちゃんなんかだと必然的に魔獣の討伐ぐらいしか仕事が回せないと受付が判断すれば回ってくるのはその手の仕事だけだ。
知識や技術を磨くのは良いことだ、それだけ選択肢が増える。
「いらっしゃいませ、領営冒険者組合ブレーブスへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
シエスタな時間帯だからだろうか、受付の窓口は二つしか開いていなかった。
そして一人は対応中である。
決して、そう決して顔とか山脈とかで此方に並んだ訳では無い。
「冒険者の登録についてお伺いしたいんですけれど」
一応情報では酷い条件は無かったが、一応登録してやっちゃった的なのは困るので確認しておく。
「では説明の担当を私、クリスティーナがさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
流石スマイルゼロ円、所々に笑顔が入ってくる。
「ご説明させて頂きますね。
当冒険者組合はこの地を治める辺境伯であるノルトマルク家が運営しています。
組合では冒険者の格付けや納税金額については協会基準を採用しておりますからご安心を。
また登録されたからと言って組合に拘束権は存在しませんので領地からの移動、同盟国への移動にも制限はありません。
仕事は私達が受付が担当して相談の上で提示した依頼をこなしていただきます。
基本的な選考基準はバスター、ハンター、コレクター、ガーディアン、シーカーの五種類。
仕事や実力を評価させて頂いていて、其々でニュービーのランクワンからランクテン、シングルランクワンからランクテンその後ダブル、トリプルと星とランクが増える程に優秀な冒険者となります。
受付の場所は担当する種類やランク毎に変わります。
今はシエスタですから人が少ないですけれども」
担当が付くのは上になってからかな。
説明が私達ってことはニュービーはその場その場で対応って所だろうか。
「仕事の斡旋以外に冒険者組合に登録して頂いていると協会組織を利用した銀行機能のご利用が可能となります。
また私共の組合員のみですが、訓練所の利用、各種教育、資料の用意、パーティーメンバーの斡旋といったサービスをしています。
またカードを提示して頂く事で格付け毎に率は変わりますが領内の、武器、防具、道具、医薬品などの店舗での割引、宿泊、医療施設利用の割引、武器、防具、馬車、網などの低価格での貸し出しを行っております。後はリタイア時の職の斡旋なども御座います」
「充実してますね、他の組合より凄そうです」
これは本心からの声だ。
予想していた情報よりもこの組合は色々と充実している。
(ノルトマルク家が優秀であると言う事でしょう。
このサービスを行うことで冒険者が他に流出しないようにしているのでしょう)
にこっと笑顔を向けてくる、流石窓口を務めるだけあって戦略級の破壊力だ。
この笑顔は勘違いをする冒険者を大量に生産して組合への強力な貢献者という名の恋の奴隷を生み出しているに違いない。
妄想だけど本当にありそう。
「ありがとうございます。
続いて登録者の義務ですが、魔獣暴走に対しての討伐参加義務、戦争避難時における防衛招集に答える必要があります。
こちらは協会規約ですので拒否する事が出来ません。
当組合では領主一族からの指名依頼には拒否権がありますのでご安心を。
次に買い取り業務ですが、ダンジョンその他での採取品、素材の当ギルドでの売却ですね。
自分で使われる分は問題ありませんが、値段の交渉は受け付けておりますので、組合運営の為に義務化して此方へ売却して頂けるようお願いしております」
まあ普通か、人類間の戦争なんて魔物が居る世界でもやるのね。
出来れば戦争の方への参加はしたくないけれど、避難時の招集だからまだましか。
それにしても領主からの指名依頼は断っていいんだ。
何があったのだろうね。
ちょっと笑いながらだったから変な依頼でもしているんだろうな。
買い取りの義務化は仕方がないか。
それだけのサービスも提供していると言う事だし。
「加入前に得た素材でもこちらで買い取りしてもらう事は可能ですか」
「はい、可能です。
依頼のある素材などでしたら査定も上がりますよ」
おお、結構あるからな。
どうするか迷ってたけど売るのもありか。
でもニュービーでいきなり六裂熊はどうなのだろうね。
「登録はなされますか」
うむ、問題は無い、何より後ろの職員も含め美人だらけである。
大中小特と果実が豊富でって、違う、充実したサポートが見込める。
ハニートラップに引っ掛かった訳じゃない、判断は冷静に。
「はい、勿論お願いします」
「ではこちらの用紙を、代筆も致しますがどうなさいますか」
「大丈夫です」
「では登録情報のご記入を。星印の部分は必須ですので、その箇所は全て記入してください」
必須項目は星印の場所ね。
えーと名前はクロウっと、年齢は17歳、男性、種族は文人族、魂位とか技術は書かなくてもいいのか。
「技術などを記入頂いておきますと、お勧めする依頼やパーティーの斡旋などを行う際に参考にさせて頂けてより良いサービスが出来るようになりますね」
とお姉さんのお話し中だったのだが、隣のカウンターでのやり取りが気になってしまった。
「無いのか、どうしても月神草がいるんだが」
「恐らく薬師組合も」
「ああ、丁度開拓村で入用になったからって在庫分を売った後だった」
「一応既に採取依頼は出しているのですけど、タイミングが悪いというか。
森に無いことはないのですが月神草の時期はこれからですし、農村地域で林檎熱が方々で発生しましてね」
「ったく、採取ってのは人気がねえからな。
臨時で復帰するしかねえか」
なんだろう、何処かで聞いた話というか、あれか。
しかし領都でも林檎熱が流行ってるのか。