ちょっと村まで
草の匂いを目覚ましに起きるなんて学生時代以来だ。
流石空調付きのマント、暑くも寒くもない快適だね。
野営なのにぐっすりだった。
すっかりと薪も灰に変わり、木々の間を抜けた朝日が風に揺れる、そんな気持ちのいい朝だ。
あー、これが異世界で鳥の鳴き声がギョエーとかキョキョキョとか人を食べそうなのじゃなければ尚の事良かったのに。
(おはようございます、マスター。
本日は如何されますか。
現在時刻は日の出から30分程経過、午前5時15分です)
この世界の時間の基準はもっと大らかだ。
地球基準換算でどれぐらいになるのかでアイちゃんには教えてもらう事にしているが、この世界では大都市ならば時を告げる鐘が鳴る。
現代社会だと迷惑行為になりそうな時間とかでも平気で鳴らすとか。
3時に朝焼けの鐘が一回だけ鳴らされる。
夜警の交代なんかで必要になるのだそうだが、神を崇める宗教団体などではこの時間に起きて礼拝を開始するのだとか。
正気か、宗教団体が無かったら鳴らない時間帯じゃねえか。
6時頃には次の昇日の鐘が響き渡る。
この時間を目安に朝食を食べたり、朝市などが開いたりして一日が始まる。
都市の門が開くのもこの時間になるのだとか。
9時頃に鳴らされるのは始まりの鐘。
登城する者などや大店の商店など一般の店が開店するのはこの時間からになる。
授業開始の鐘みたい。
よくダッシュして部屋に飛び込んだ。
12時頃に中天の鐘が鳴り昼食を取る。
良かった一日三食スタイルだ、二食とか言われたら泣けるからさ。
朝が早いだけあって休憩や食事はしっかりとれるのだそうだ。
15時頃の憩の鐘。
貴族なんかが茶会を楽しむ時間。お八つって奴だね。
生八ツ橋が食べたくなった。
貴族の仕事は食べて話して踊って、飲んでみたいなあれかな。
一般人には縁が無いかと思いきや、お昼休憩の終わりの時間だったりする。
シエスタだそうだ。禁止してる領主なんかもいるそうだけど、日差しのキツイ場所なら悪くない制度だ。
18時頃の月待の鐘。
この時間で普通の店は閉まり出す。
代わりに夜の酒場などが始まる時間。
終業時間となって一般の人も帰宅して夕ご飯を食べる。
21時頃に帳の鐘が鳴る。
一日の最後の鐘。
就寝しましょうねという合図になる。
普通の酒場も戸締りをする。
魔術道具なんかもあるおかげでか、不夜城は在るらしいけど。
さて昇日の鐘云々といってもそんなのは都市部の話である。
農村に行けば日が昇る前から行動して色々な作業に移っていることだろう。
今日は一番近い場所にあると地図に載っていた集落である村へ行くのだ。
店があれば覗いてみたいので、本当は少し大きな町へ行く方がいいのだけれど、まだ知識だけの状態で大きな町へ行くのは心配である。
慎重派だからさ。
なんと言っても社会構造に違だ。
民主主義国家なんて存在していない。
国の土地は全て王様の物とか領地は領主の物なんてのが当たり前、凶暴なジャイアニズムである。
まあ、其れなりの統治をしなければ物扱いされている人達も離散したりするので、今から向かう村なんかも見るだけでそこの治世の良し悪しや、領主の質も判ると言う事になる。
さて、さくっと結界と忌避の魔術の木の板を処理して、異世界初の村人第一号との遭遇へいざ向かわん。
エンカウントを重視しながらも森の中の道なき道をテンポ良く進んでいく。
昨日と同じく、無駄に爆散させないように注意しながら獲物を屠る事を心がけよう。
木々の間で視線が通ったらしく、大牙猪がブフゥッと鼻息荒く突っ込んでくる。
結構デカい癖に頭の位置が低く、下から上に突き上げるように牙を振い、甘い突きだと牙で往なす為突進を喰らう事になる。
それに正面からの突きだとたとえ脳に一撃をいれようが勢いの乗った突進で槍を痛めかねない。
弓でもあれば先制攻撃も可能だが、無い物ねだりは出来ません。
現状で一番理想的な方法を上げるならば槍を構えて、すれ違い様に首へ突き立てる事。
次に攻撃を大きく避けて足に一撃を入れる事で突進力と逃走方法を奪う事になるだろう。
猪だからと直進するだけじゃないので早く避けすぎてもダメではあるけれどね。
此処まで言っておいてなんだけど、俺の選ぶ方法は足を止めず突進に向かっていく事である。
牙は材料として販売できるので傷をつけないように気を付けながら石突で地面に縫い付けるように叩き伏せる。
鼻面の上から叩きつける事で大牙猪の突進を抑え込みながら転倒させ、バランスを失った所へ首筋に刃を滑らせて断ち切る。
本当だと木があるから刀の出番なんだろうけど、折角生えた槍の技術だもの大切に育て上げねば。
解体その他諸々はアイちゃんにお任せしながら次の獲物へと走り出す。
森を抜けて、草原に出たところで目に入ったのはイッツ、ファンタジーと言いたくなる代表格だった。
そう、飛行船だ。しかも帆船式である。
プロペラ仕様でないことはちょっと悲しいけど浪漫はある。
まあ、目に入ったと言っても、何かポツっと見えるなと思って視覚を能力で引き上げてズームをかけたから、凄く距離はある。
地図の情報からすれば恐らくは領都か。
(飛行船は領都と王都間を定期的に運行していますので間違いないかと)
いやーワクワクするよね、是非とも乗ってみたい。
乗ったらドラゴンとかワイバーンの襲撃とかありそうなイベントが目白押しだけど。
(定期運航している範囲内ではまず無いようですが、数年に一度は彷徨い出た野良の下位竜と遭遇したり大型の鳥と遭遇して不時着する事故は起きていますね)
そうか怪鳥とかいるよなあ。
今も索敵で分かっているから良いものの弾雀が突っ込んできているんだよね。
何が凄いって錐揉み飛行でえぐり込む様に嘴で攻撃してくる。
しかも群れで。
森の中と違って編隊飛行までやってくるのだけど、数の暴力とは恐ろしい。
何が厄介かって的が小さい上に多方向からの同時攻撃までしてくるのだから性質が悪いわ。
あー散弾銃が欲しいっス、面倒くさいッス。
って思わずっすとなるほど大量にいるっす。
あれか、丁度餌を刈りに行くのに森に居た奴らの集団の一部に出くわしたか。
一匹は大体拳二つ分ぐらいなのに、100匹いりゃあ脅威だわな。
加速の世界に居るからこそ魔力生体障壁値は然程減っていないけど、これ倒すのって物理だけだとキツいね。
と言う訳でここは魔法でもいいのではないかと判断した。
絶対零度的な魔法とかで動きを止めて仕留めるのが理想か、でも使えるけど、まだ使えないのだ。
加減ができない。
というか殺すだけなら焼き払えの一言で火炎放射的に焔で良かったりするんだが。
火を使う魔法というのは文字通り焼いてしまう事になる。
なので狩猟を中心とした冒険者の間では使えない魔法の代表格に上げられる。
だって折角倒してもお宝が焼けていたら買い取り価格に響く。
ダンジョンアタックや討伐だとか戦争には向くのだろうけれどね。
と言う訳で、思考加速中に審議中。
礫を生み出して散弾とかも考えたが、肉に石が入り込むという事で却下。
集塵機能を誇るサイクロンなんかで不可視の刃で切り刻めば、って切り刻んでどうするよとこれまた却下。
水の弾丸や刃でも形成してと思ったけれど、そこで閃いた。
魔力を込めて魔法を発動する。
飛んで火にいる夏の虫ならぬ、水に飛び込む雀の音。
心に染み入るな。
発動した魔法は直径が2m程ある水流。
ズボッズボッズボッと飛び込んでくる。
フハハハ、入れ食いとは正にこの状況。
水の中は攪拌されていて逃れる事は出来ないのだよ。
まあ、殆どの弾雀が魔力を伴った水に突撃したことで気絶してたけどね。
最後に止めに電撃を放ってジエンドである。
これで雀の焼き鳥が喰えるな。
しかもビックサイズだから捌いても小さく無い。
此方の世界でも弾雀は害鳥の一種、しかも繁殖力が高いとか。
日本でも昔は普通に国産の雀が田舎の焼き鳥屋さんで販売されていたけど、今は輸入だって言われたらちょっと産地をみて止めとこうかと思うレベル。
個人的には雉肉の焼き鳥とか好きです。
こっちでは放鳥とかしてるのだろうか。
(王侯貴族の狩猟会があるため一部では森を禁猟指定にして繁殖させているようですね。
あと魔獣ではない鳥類の狩猟は放鳥種以外は禁止になっています、密猟はされているようですが)
まあ何処かの大国の様に乱獲なんて言葉じゃ済まないような事さえしなきゃいいと思うけど。
日本でも他国を非難できないよな、絶滅するまで狩ってってのはあったみたいだし。
ま、人間が増え過ぎれば必然的にそうなってしまうのだろうけど。
他の何かを食べて生きる生き物の業ってところか。
しかし密猟とか世界が違っても人間やることは一緒なのね。
(害虫被害との関連性などもあるので販売目的の密猟には重罪が課せられますね)
この世界の文明度が不思議になってきた。
そこまで考えてるのが不思議。
(神託のお陰でしょう)
あーなるほどね。
ま、それを生かすも殺すも人間次第ってことだろうな。
などとアイちゃんとの会話を楽しみながら草原から村へと足を進めながら先ほどの戦闘を振り返る。
数に対処する為には広範囲に広がる魔法も研鑽しないとやばいね。
あれが更に強い魔獣からの攻撃で魂位が上だったら怪我では済まないだろう。
最終手段として切り札になる爆発系とか強力な手札は必要だな。
連投終了
久々の投稿なのでちょっと修正点が出るかも知れません
早速のブクマ有難う御座いますね
励みしてに頑張ります