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第四章 〈凶狂卿〉カクナルグ〈2〉

 商店街のアーケードを歩きながら、紀里香が(すもも)にたずねた。


「率直にききたいんだけど、私ってそんなに威圧的かな?」


「え?」


「あなたのクラスメイトもそうだけど、みんな私に敬語をつかうのよね。私、自分でも気づかないところでみんなを(おび)えさせてるのかなって、ちょっと気になって」


「そ、そんなことないです!」


「あなたも敬語じゃない」


「紀里香さんも敬語ですよ。……こわいとかそう云うんじゃなくて、紀里香さん、すごく大人っぽくって落ちついてるじゃないですか。だからついこちらも(えり)を正してしまうと云うかなんと云うか」


「私は田舎の山奥からでてきた、ただのかっぺよ。……て云うか、しのぶやのどかがタメ口きく方が許せないわね」


「あはは。しのぶクンがあの調子で紀里香さんに話してるとこ2年の男子に見られたら、しのぶクン、まちがいなく2年の男子全員敵にまわしますよ」


「……なるほど。それはいいアイディアかも」


 紀里香の瞳が妖しく光る。(すもも)があわてて首をふった。


「ええっ!? 紀里香さん、なに企んでるんですかっ!?」


「のどかはともかく、あの白馬鹿にはいっぺん長幼の序を叩きこんでやる必要があると思っていたのよ」


「紀里香さん!? なんかこわいです!」


 (くら)い瞳で口元に歪んだ笑みをうかべた紀里香が我にかえった。


「え? あ、冗談よ、冗談。……(すもも)さん、モモカワススムって名前に心あたりある?」


 紀里香が本題を口にした。紀里香の言葉に(すもも)がほんの少し緊張する。


「……私の父ですけど」


 紀里香が小さくうなづくと感情のこもらない声で告げた。


「……モモカワススムは一昨日の夜、死んだわ。悪魔に殺されて」


 昨日、陰陽省から当麻斗(とまと)や紀里香へ届いたメールに、坐浜(ざはま)フォレストタウンで発見された3体のミイラの氏名が記されていた。


 そのうちのひとりがモモカワススムだった。めずらしい名字なので紀里香にはすぐピンときた。坐浜(ざはま)フォレストタウンで殺されていたと云うことは、なんらかの情報を得て(すもも)たちを追いかけてきたとみてよい。


 しかし、今更そんなことを云って(すもも)(おび)えさせても仕方がないので、必要最低限のことしか語らなかった。


「もう二度とあなたのお父さんがあなたたちの前へ姿をあらわすことはないから安心して。弁護士か警察を通じてあなたのお母さんにも報告があると思う。もっとも、悪魔に殺されたなんて云えないから、死亡理由は適当にデッチ上げられてると思うけど」


「そっか……よかったあ。もう私たち、あんな男の影に(おび)えて暮らさずにすむんだ」


 心底安堵(あんど)したようすでつぶやく(すもも)の顔を、紀里香は複雑な心境でながめていた。


 紀里香にとって悪魔は親の仇であり、残忍な殺人鬼である。そんな悪魔の犯した殺人によってか弱い母子へ平穏がもたらされたと云う皮肉に釈然としなかった。



   3



(……トマトさん?)


 中間テスト最終日。最後のテスト時間のこり10分と云うところで、紀里香の脳裏に遠隔型監視式神・聴駆追烏(きくおう)からの映像がうかんだ。


 十一御門(といみかど)当麻斗(とまと)が血相を変えて大通りへと駆けていた。


 聴駆追烏(きくおう)の監視下に悪魔の姿をとらえれば、自動的に紀里香の脳裏へその映像が受信されるよう設定されているが、陰陽師としての任務時間外の今は意識的に聴駆追烏(きくおう)とのアクセスを遮断(しゃだん)していた。


 しかし、脳裏に当麻斗(とまと)の映像がうかんだと云うことは、聴駆追烏(きくおう)のアクセスコードをもつ当麻斗(とまと)が紀里香へその映像を見せたということだ。その証拠に、あまたある聴駆追烏(きくおう)の監視下に悪魔の姿はない。


 大通りへでた当麻斗(とまと)がタクシーを拾って西へ向かう。聴駆追烏(きくおう)がその背中を追いかける。


(なにかあったんだ)


〈ガトリング・トマト〉ほどの陰陽師が、ただの〈悪魔狩り〉で紀里香をわずらわせることはない。今が中間テストの最中だと云うことも知っている。


 それでも、当麻斗(とまと)聴駆追烏(きくおう)に自分の背中を追わせていると云うことは、紀里香にもあとからついてきて欲しいと云う無言のメッセージだ。


(今、スマホつかえないのはキツイな)


 超常能力をもつ陰陽師だが、紀里香たちにテレパシーのような能力はない。飛行型運搬式神・吠蝶(べいちょう)にメッセージを吹きこんでおくることはできるが、それなら電話やメールでこと足りる。


 おそらく、当麻斗(とまと)からメールがきているはずだが、今すぐチェックできないことがもどかしかった。


(吸ケツ鬼? ……でも、ベンデュラムをもつモヘナに動きはないわね)


 聴駆追烏(きくおう)でモヘナのいる鹿香(かのか)家をさぐるが、モヘナが家からでた気配はない。


 紀里香がテストのこり2問の空欄を埋めることも忘れてやきもきしているうちに、テスト終了のチャイムが鳴った。


 紀里香はうしろからまわされてきたテスト用紙を前におくるや否や、中間テスト終了の安堵(あんど)感に沸く教室の雰囲気には目もくれず、カバンを手に席を立った。


 女子トイレへ駆けこみ、スマートフォンをチェックすると、当麻斗(とまと)や鳴鳥市へ派遣された陰陽師から同内容のメールがきていた。


「鳴鳥市斑雲山、ホテル雉屋へ悪魔たちが侵攻中。獣人4体。援護求む」


悪魔(アイツ)ら本気でこの世界に橋頭堡(きょうとうほ)をきづこうって腹づもりね。絶対そんなことさせない!」


 紀里香が1年の教室へ向かって駆けだした。

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