第一章乃 はち
美しい紫だった。
鮮やかで透明感があって、まるで絵のすべてが
綺麗な水の中にあるような。
私の中の真実の紫と同じようでいて、
決定的に違うのは、
背後に漂う、そこはかとない哀しみが
感じられたからだろうか。
その作品は、どマイナーな萌え漫画雑誌の
短いフルカラー作品で・・・。
だけど、目にした一瞬で好きになった。
この作品を描いた漫画家に強い興味を持った。
偶然と幸運が、私をこの漫画家に近づけた。
たまたま出ていた即売会の隣が女性作家で、
性格は全然合わなかったが、作品はお互いに
評価できるものだった。
彼女作家Sは、商業誌デビューを目前に控えていて、
そのために、ある編集プロダクションの
社長兼代表編集者が付きっ切りになっていた。
編集Oは、私の作品も気に入ってくれて、
何かと世話を焼いてくれるようになった。
私はダメ元で、件の作品と作家について聞いてみた。
その作家は、絵師としてやや異なる職に就いていたが、
漫画に関しては、自分が1から育てたんだと
編集Oは言い、ほどなく私はその作家に会える事になった。
厚底眼鏡、ざんばらな髪、よれよれのTシャツに
擦り切れたジーンズ。
典型的な売れない漫画家がそこにいた。
しかし、私にはすぐに判った。
身に纏う透明な水の雰囲気、背後の漂う密かな哀しみ、
あぁ、この人だと。
しばらくすると、押掛けアシスタントが
その作家Kの下に居候するようになった。
押掛けアシは、男女の関係になってさえ良いと
思っていたが、そんな素振りさえなかった。
作家Kの萌え絵は、少女愛に溢れていたので、
ローティーンに興味が無いわけではなかったと思うが、
当時すでに身長165cmあり、作家Kより背が高かった
ローティーンに食指が動かなかっただけかもしれない。