第一章乃 ご
水溶性カラーインクというモノを知っているだろうか?
透明感が高く、重ね塗りで複雑な色を生み出せる絵の具だ。
特にホルベインのドローインク、
ウルトラマリンディープがお気に入りの色で、
これにカーマイン、ヴァーミリオンとセピアを重ね合わせて、
夕空の色を再現することが、当時の私の命題だった。
小学校の高学年になった頃、
写真の実績もあり、顧問に教頭先生もいたので
写真部を立ち上げた。
部室は、準備室が完全な暗室になるので
フィルム現像に役立つという理由から
理科室を使わせてもらった。
理科室には、ホルマリン漬けや人体標本といった
変わったものもあるので、他者が近づかないのも
私には嬉しかった。
私はそこで、相変わらず写真を撮りながらも、
それを基に絵を描く事に没頭した。
写真は、事実という素晴らしい資料であると
割切り、自分の中の、かつて楠の上から見た
夕焼けの紫という真実を表現する為に、
絵筆を重ねることにした。
その頃、幼馴染の彼とは、
私達だけの秘密の場所で、漫画を読み耽った。
我が家の森の中、小さなお堂のあるポツンとした
空き地に、ワンボックスカーが置かれていた。
お堂の管理人が置いていたもので、
中は運転席以外は、座席も無く、
ただ大量な漫画が壁のように床のように
積んである車だった。
私達は、2人で車の中で、壁になっている
漫画を読んだり、彼が持ち込んできた漫画を
読んだりしていた。
そして、やがて私の絵に空だけでなく、
漫画がレパトリーされていった。
彼は漫画は描けなかったが、批評家としては
とても厳しい先生だった。
お蔭様で、受験も無い中学に上がる頃には、
カラーイラストと結構厚めの個人同人誌を
発行するまでに至った。