第一章乃 よん
もっとも欲しいのは美しい紫だった。
夕焼けと夕闇の狭間、赤と緑の間にある
美しい色。
F-1を手にしてから、数ヶ月が経ち
教頭先生の推挙から、
県展に出した写真は大人の部に混じって
優秀賞を取った。
その時の写真は、オレンジの夕焼けが照り返る
田んぼの中で作業する男の人を撮った物だった。
上下からグラデーションする綺麗なオレンジだが、
本人には納得できるものではなかった。
だが同時に、これが自分の当時最高の作品で
あることも自身で判っていた。
それ故、自分の写真の限界をすでに感じていた。
写真はその時の事実を映し出すが、
自分が木の上から見た「紫」は、
すでに事実以上の真実になってしまって
いたのかもしれない。
すこし別の話をしよう。
幼稚園から一緒の男性の幼馴染がいた。
夜逃げした後も連絡を取り合った、
唯一の存在でした。
幼馴染は、身長も体格も子供離れした
正に巨人でありながら、体重を感じさせないほどの
軽やかな動きをする、九十九乱造の様な人だった。
性格は、自分本位だけど、決して自分勝手ではなかった。
私は彼の肉体的部分に憧れ、
彼は私の頭脳的部分に憧れて、
お互いを尊重しあう関係でした。
それほど尊敬した存在でありながら、
お互いに恋愛関係に発展する可能性が全く無かったのは、
彼が完全に3次元の女性に興味が無く、
2次元に全力を注ぐ、いわゆるオタクだったから。
そう、写真の限界を感じた頃、
絵筆を執ろうと考えたのは、彼の影響が無かったとは
やはり言えないと思う。