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世界はやさしいね  作者: 玻璃乃月
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最終話

「世界はやさしいね」

いつも、そう言い続けていた彼女。


この半年、自分の消えゆく生を自覚しながら

まだこの言葉を言える。

彼女の心の中は、どの様な模様だったのだろう?


彼女の来歴や私の生い立ちを考えれば、

今でも私は、世界が優しいとは思えません。

それでも、その生い立ちがあったから

女将と一緒に居られたのだと思い、

この宝物をくれた世界に感謝はしています。


前話を打っている時、指が震えて中々進めませんでした。

女将は、病院から帰宅後すぐに話してくれ、

その時覚悟はしたのですが、それでもまだ

整理しきれてはいないのでしょう。


2014年12月頭、彼女はベッドから起きて来られず、

静かに息を引き取りました。

前日遅くまでPCに向かい、何かしていましたが

それが何かは解りません。

翌日、病理解剖の後、お母様と手続きを行い、

彼女の希望通り、海に散骨しました。

今は、大好きであったポイントや世界中の海を

のんびりと漂っている思います。

ただ火葬前に、少しだけ遺髪をいただき

庭の桜の木の根元、ゆきのお墓の隣に埋葬しました。

世界の海を旅しながらでも、時々私たちを見守って

くれると嬉しいと思って。


思えば、分け隔ての無い人でした。

大人だから子供だから、男だから女だから、

日本人だから、話さないものだから、

果ては、生き物だからそうでないモノだからと。

「人間なんてものは生まれたときから、

 色々な事を感じ、色々な事を考えるものだ。」

そういう持論があり、生まれたての子にさえ個を重んじて

対応する為、周りの大人たちからは奇異に取られていた。


子供と同じ目線で話し、猫たちを1人2人と表し、

風や星と話し、桜や月とお酒を酌み交わす。

私には見えない何モノかと談笑している時もある。

こう書くと、ただの電波じゃないかと思われるだろう。

実際にそういう面もある、彼女の目には私に見えない何かも

映っていたのでしょう。

お山で出逢った様々なモノたちの話などは、

この後、機会があれば書いてみたい不思議に満ちています。


もちろん区別はきっちりしていました。

大人と子供、男女など、出来る事に厳しい区別があったように思います。

好き嫌いもはっきりしていて、しかし否定をしない人で

嫌いだから否定するのではなく、相手の考えは尊重するが

自分はこうだからと伝え、近づくなと言う。

それでも近づく相手には腕力を含め、示威行為も辞さない。

そんな果断な面もありましたが。


彼女は、何をもって「世界はやさしい」と位置付けたのでしょうか?

こうして、彼女の自伝を追ってみても、私には解りません。

明らかに普通ではない人間性も、その出自と激しく翻弄され、

短く閉じた人生を考えれば、無理からぬと思います。

それでも尚、彼女にとって何が世界をやさしいのだと思わせたのか?

その一因が、私たち家族であり、係わったすべてのモノたちであれば

と思います。


だから、最後まで読んでいただいた皆様へ

あなたの世界が優しいものでありますように改めて贈りましょう。


「世界はやさしいね」

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