第一章乃 さん
父は、とてもユニークな存在だった。
私がカメラが欲しいと言った時、
彼は、こう返した。
「半分出そう、今までの君のお年玉を貯金してある
そこからね。
後半分は、自分で働いて出しなさい。」
資産家の父からすれば、大した金額ではないだろうに
これも教育というものだろうか?
私は、木の上から夕焼けを眺めるのが好きだ。
様々な複雑に織り成す色相を見るのが好きだ。
いつの頃からか、それを記憶だけではなく、
物理的に残したいと思うようになった。
最初に思いついたのはカメラだった。
これが良いと思ったのが、何故かフィルムカメラで
Canon NewF-1というカメラを購入する決心をする。
決して安い買い物ではないため、父に相談したところ
前述の回答であった。
半額分を私は、肉体労働で稼ぐこととした。
すでに巫女としてのやることは身に着けていたので、
小学校が終わると、脇目も振らず帰宅し、
自宅の神社にて、見習いさん達に混じり、
見習い給料を時給換算して、毎日2時間働くことで、
数ヵ月後には、このカメラを手にすることができた。
折り良く、小学校には新しい教頭先生が赴任した。
かの方は、県展で常連の写真家でもあった。
考えれば、タイミングが良過ぎるだろう。
カメラ購入までに、誰かが手を回した事を
今では確信している。