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第一章乃 に
驚くようなエピソードを書いておこう。
当時、家族で月に数回
都心へ食事をしに行った。
その時、都心に向かう足は、
自家用ヘリコプターだった。
普段は、運転手付きの自動車に乗る父が
この時は、自分で操縦桿を握り、
嬉しそうにしているのを見るのが、
私は好きだった。
何代か前の当主が道楽者で、
自家用としては、日本で2台目のヘリコプターだと、
祖母が自慢げに話していたのを覚えている。
だが、そんなお金持ち時代も
長くは続かなかった。
こんな田舎にも開発の波が押し寄せ、
集落の長であった父は、
行政と組んで、半官半民の土地区画整理組合を立て
周辺住民に損のないようにと戦った。
もちろん、田舎のボンボンが
都会から来た海千山千の弁護士や、
地上げ屋に勝てるわけもなく
中学に入り、しばらくした頃、私たちは夜逃げした。
広大な屋敷の天井を見て寝る生活が、
更に広大な夜空を、公園の滑り台の下から
見上げる生活に変わった。