第二章乃 ろく
部活勧誘集会で、煽ってしまった手前
漫研幽霊部長という訳にもいかず、
新規部員たちに絵を教えたり、会報を発行したりと
活動をすることにした。
どういう訳か、1年だけではなく2年の部員が増えたりして
活況を呈する漫研で、私は誰かに何かを教える事を
いつのまにか楽しむようになっていた。
それでも自身は、コミケなどのイベントには行かない。
Sに会いたくなかったし、色々と思い出し
切なくなりそうだったから。
だが、少し様相が変わってきた。
兄は、2歳年上だが学年で言えば1つ上だ。
分家に住まわせてもらっていたが、
高校は、有名私立大学の付属高校に進学し、
頭は良かったんだなと安心していたが、
何故かエスカレーター式の大学に進学せず、
某(ある分野では有名な)工業大学に進むと言い出した。
それまで便宜を図ってくれた分家も呆れ、
費用を出し渋っているという。
母と私のように夜逃げ旅をしたわけでもなく、
分家でぬくぬくしていただろうにと私は思ったが、
それまでのなに不自由ない暮らしからの一変は、
それなりにストレスだったのだろうと
母に泣きながら懇願され、仕方なく
同人誌売上げ貯蓄の多くを使い、費用を工面した。
私は自分の些細な生活を守るため、
新たに稼ぐ必要に駆られた。
そうして私は、不純にも生活費のために
再び絵筆を取った。
ブランクはあっても、絵筆を取れば、本気になってしまう。
本気で描く絵は、やはり楽しかった。
いまだにコンピューターが怖く、掛け網まで丸ペンで
一本一本描き上げた時、やはりこれが好きなんだなと思った。
コスプレも本気で型紙から製作を始めた。
この年、170cmある巨大霊夢を見た人は覚えているかもしれない。
もっとも覚えられているのはボリューム感のある身長より、
ボリューム感がまったく無い残念なバストだったかもしれないが・・・。
ともあれ、久しぶりに参加したコミケでそこそこの売上げを出し
なんとか生活は安定した。
ちなみに、Sはおろか嘗ての知人にはほとんど逢わなかった。
もっとも読者の方には、お待ちいただいていた方もいて、
有形無形の励ましをいただいた。
自分が何をしたいのか、何を成せるのか
再び考え始めた。




