第二章乃 ご
「ゆき」という子は、まだ実家に住んでいた頃
私の部屋に遊びに来てくれる真っ白な毛並みの
赤目で細身の雌猫さん。
泣いていると必ず現れて慰めてくれる、
酷く落ち込んでる時は、獲物の鳥をプレゼントして
くれる優しい子です。
と言っても、自宅では猫を飼っていたわけではなく、
社にたむろっている様々な動物の内の1種で、
自由に生きていた子たちの1人なのですが。
しかし不思議なのは、ゆきを外では見かけなかった事。
鳥を捌き、一緒に食べる時も、
捌き方を教えてくれた母が同席することがあったのですが、
最近になり、母とその時の話しをしても
ゆきの事を覚えていなかったり・・・
もっとも神社ですし、全国には八百万の神々が
いらっしゃるのですから、
ゆきがどなたかの神使であっても驚きませんが。
実際、母屋には落差3mの滝のある池があり、
滝上には、大きな白皮の青大将が住んでおり
時々下半身はとぐろを巻いたまま、
首を伸ばして池の水を飲んだりしていた。
中学に上がる頃には、自分的には忙しく
ゆきが部屋に来ていない事に気付けなかった。
だが、作家Kが亡くなったとき
とても落ち込んでいるのにその姿を現さなかったので
心のどこかで「あぁ、彼女もいないんだ」と
小さく想ったのを思い出します。
それからすぐに夜逃げに走り、
約1年実家周辺に近寄れなかった間に、
母屋のあった場所は数十件を擁する住宅地に変わっていて、
近辺を散歩する私を物悲しい思いに駆らせる。
私を子の様に想ってくれて、
後姿を見せぬように去ったか?
或いは、大人になる私に見えなくなったか?
今は無き地、今は会えぬものたちに
想いを馳せよう。




