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第六話 揺曳な義憤

 人と人が理解を深めるには、幾つかの手段が存在する。

 酒酌み交わす、情を交わす――そして、殺し合う。大まかにあげるとすれば、凡そこの三つに収束する。

 共に酒を飲むにしろ、肌を重ねるにしろ――殺意と言う名の熱情を絡め合うにした所で、それぞれに大した違いなどは無い。

 そもそも、人が神ならざる一の身である以上、本当の意味で自分以外の他者を理解することなど出来はしないのだ。

 それ故に、人間は生きてゆく上で真摯に――必死に模索し続ける。

 自己の意識の外部に漂う、理解の範疇外に浮遊する他者と言う名の異物(・・)と分かり合おうともがくのである。

 ――例えそれが、報われなくとも。


「俺は――アンタを絶対に許さないからな!」


 昨日に試合を済ませた、翌日の事である。

 ――暁の直後、とでも言うべきか。

 敢えて表現するのであれば、既に目が覚め朝食前の体力造りに勤しみ、一通りの基礎トレーニングを済ませてから自室への岐路へと着いていた時間帯に――陽向へと、そんな台詞が投げ掛けられた。

 陽向の目の前には、進路を塞ぐように立つ――青年が、一人。

 例の如く、彼は此処の闘士であるということには間違いなさそうだ。体付きは貧相でなく、長年の肉体労働によって培われたのか――自然な筋肉がついているようであった。

 顔は――残念ながら、陽向の記憶の中には存在しない。と言うよりも、陽向自身がルームメイト辺りとしか交流が無いため、周囲で蠢く下級闘士の中に顔見知りなどは居ない。

 前回の試合が終了した後、陽向へと擦り寄ってくる闘士の姿も確かに見て取れたが、陽向はそのような連中を徹底的に無視していた。

 シュウやバレット、エルといったルームメイトたちのように、共に鍛錬や勉強を行い切磋琢磨し合う関係ならばまだしも――楽して白星を挙げるために、人が積み上げた勝利への方程式を下卑た表情で掠め取ろうとの画策しかしないような輩に差し伸べる手は無い。

 試合外での実力(・・)を用いた諍いを起こすことは、闘技場の運営によって厳しく禁止されており――それを破れば、相応のペナルティーも課せられる。

 それ故に、場外で陽向へと暴力による干渉を行う者は現れないが、同級や一級だけではなく――下級闘士に分類される二級や三級の闘士に絡まれることも、少なくはなかった。

 ――曰く、新入りの癖に生意気だ。

 ――曰く、先輩よりも目立ってるんじぇねぇよ。

 ――曰く、零級闘士の分際で、一丁前にファンが付いてるのが気に喰わない。

 ――曰く、特に女に人気があるのも気に喰わない。闘技場外に存在する、『零落皇子(プリンス)・ヒナタファンクラブ』の存在も腹が立つ。グッズの売れ行きが好調なのも、けしからんなどなど。

 そのようなものが存在していたこと自体――陽向には、初耳である。そして、グッズとやらの売上マージンは幾らか寄越すべきである、と。

 兎にも角にも、其処までは行かずとも新人戦より順調な快進を続けるシュウたちも、うだつの上がらない先輩連中のやっかみを受けることになっていたということは言うまでも無い。

 故に陽向は最初、突如目の前に現れた青年も、謂れの無いイチャモンを付けに来た、その手の人間であると考えた。

 額から垂れる――運動後の汗を、首より掛けた手拭いで拭き取る陽向へと、只ならぬ様子の青年は怒気を孕んだ視線で()め付けてくる。

 何やら、とある先週の早朝に起こった遣り取りを陽向の脳裏へと彷彿(ほうふつ)させる光景であるが、どうやら本日の相手は以前とは違い単身で乗り込んでいた。

 爽やか――とまでは言い難いものの、折角順当に訓練を済ませた後の朝食を期待していた矢先、謂れの無い雑言である。多少の苛立ちも許されよう。

 よって陽向は、名乗りもしない者を――最低限の礼儀すらも弁えていない輩を相手にする価値など無いと言わんばかりに、目の前の青年を造次(ぞうじ)の内に視界から外し、歩みを進めることにした。

 されど、青年はそんな陽向の態度に更なる憤りを覚えたのか――ダン、と一歩を踏み出し、陽向の鼻の先に顔を突き付けてもう一度口を開いた。


「俺はッ! アンタの事を、絶対に許さないからな!」

「――君が何を言っているのか、私には全く理解できないのだが……」


 直接的に危害を加えられてはいないにしろ、こうも詰め寄られては帰ることすらできないと、陽向は溜息交じりに返答した。

 このまま陽向の進路を塞ぐ青年を突き飛ばしても良いが、それでは何の解決にもならず――今後も、面倒なことになると思案した。

 ならばいっそ、この場で要件を聞いた方が早いだろう。


「そもそも、君は誰だ? 初対面の人間を相手に話を聞いてもらいたいときには、自分から名乗る。それは、一大人として――人としての常識であると、私は思うのだが?」

「クッ! ……フォスターだ」

「成程、フォスターか。存じているとは思うが、お初にお目に掛かる――私は陽向だ」


 一応なりとも、歯噛みしながらも名乗った青年へと、陽向も自身の名を告げる。

 よって、陽向はこの怒気を隠そうともしない青年――フォスターに、少しばかりの時間だけ付き合うことにした。

 陽向から、拝聴の意志を確認できたためか――フォスターはその場から一歩退いて、相変わらずの厳しい目つきのままで言葉を紡いだ。


「アンタ――ジョージを覚えてるだろ!? 忘れただなんて、言わせないからな!」

「……無論、新人戦において闘士として起用された、私の初めての相手だからな。そもそも、まだ彼と戦ってから二週間も経っていないのだぞ。老人でもあるまいし、流石に忘却するには早過ぎる」

「ッ……! 戦い!? アレが闘いだと、アンタはそう言うのか!?」

「ふむ、私の記憶に間違いは無いはずだ。あの試合は、闘技場によって組まれた公式のものだが――それが、どうかしたのか?」

「そのジョージはな……アンタに(なぶ)られた後、一命は取り留めたものの――クソッ!」

「弄られたとは、人聞きの悪い。よもや、身体に障害でも残ったと言うのではあるまいな?」

「あぁ! 身体はすっかり元通りだよ! 障害も何も残らず、アンタに潰された部分まで綺麗さっぱり治っちまったよ! ハッ、俺も闘士になるまで回復魔法なんて受けたことも無かったが、全く持って此処の医療部とやらの連中は凄腕だな!」

「それならば、良かったではないか――別段君の話からは、問題になる箇所などは見受けられないが?」


 自嘲気味にぽつぽつと語り出したは良いものの、今一要領を得ないフォスターの話に頭上に疑問符を浮かべて、陽向は小首を傾げた。

 以前の戦闘により負った傷は容易く修復され、日常生活どころかこれからも闘士として稼ぐことにすら支障はきたさない。

 それの何処が問題なのだと聞き返す陽向の言葉に、フォレスターは目を真っ赤にして喰らい付く。


「身体は戻ったさ! だがな――ジョージは! アンタに植え付けられたトラウマまでは、拭い去ることが出来なかったんだよ! 二回目の試合の後も、医務室でアイツ言ってたよ……。闘技場に立つと、新人戦を思い出して足が竦んで身体が震えて、頭の中が紅色の鬼火と銀色の恐怖で一杯になって――何にも出来なくなっちまうって! 肉を潰された瞬間を、骨を砕かれた感触を、臓物が破裂する音が……頭から離れないってよぉ。不可視の圧力による追撃で、完全に身体も心もダメになっちまったってよぉ!」

「君はそれが、私のせいであると糾弾するのか?」

「だって、そうだろ!? 完膚なきまでにジョージの事を叩きのめしたのは、間違いなくアンタじゃねぇかよ!」

「それでは、フォスター――あの新人戦の場において、私は黙ってジョージに刺されて地に伏せるべきだったとでも言いたいのか?」

「……俺だって、そこまでは言わねぇよ。闘士になった以上、勝敗は出てくるんだ……ダチが負けたくれぇで、その対戦相手にグチャグチャ言うつもりはないさ」

「ふむ、君とジョージは友人なのか」

「あぁ……俺とアイツは同じ村の出身で、幼馴染なんだよ。俺たちの家は貧しくて、食っていくことすら厳しくなったから一緒に闘士として出稼ぎに来たんだよ」

「成程――君とジョージの境遇は理解した。しかしその友人の為に対戦相手であった私に、君は現在進行で絡んでいるではないか?」

「そうじゃねぇ! 俺だって、ジョージの敗北自体に文句があるわけじゃねぇよ!」

「それでは、何が君にとって問題なのだ――そろそろ朝食の時間も迫っているので、手早く要件を済ませてはくれないか?」


 結論を迫った陽向へと、かっと目を見開いて――フォスターは、叫んだ。


「アンタ新人闘士として入って来たけど、最初から強かったじゃねぇか!? 元々、どっかでならしてた(・・・・・)クチなんだろ、な!? だったら、ジョージにあそこまでする必要なかっただろ! 俺だって、コレが逆恨みだってことくらい分かってんだよ! それでも――それでも、どうしても黙ってられなかったんだよ!」

「君が何を勘違いしているのかは知らないが、私が人を討ったのは――闘士になってからが初めてだ」

「嘘を……嘘を吐くなァァアアア! そんな奴が、初めっから魔法が使えたとでも言うのかよ!?」

「魔法スキルについては、闘士登録の翌日に同室の者より教わったものだ。そもそも、それまで私は魔法というモノすら……」

「もういい――もう結構だ! なァ、アンタやっぱり何処か良いトコの()なんだろ? 強いにしたって、アンタは他の強靭なだけの男たちとはどっか違うもんな……。それなら、それでいい……最初っから強かったってのも、頷けるさ」

「フォスター――人の話を……」


 完全に熱暴走を起こしたかのようなフォスターは、陽向の言葉に耳を傾けようとしない。

 それ以前に既に彼の鼓膜は、加害者(・・・)として認識されている陽向の声を受け付けることすら拒絶しているようであった。こうなってしまっては、文字通りお話になどなりはしない。

 徐々に人通りも多くなってきた通路においても、それは当然のように周囲の視線を集めることになる。


「でもよォ! だからって、弱い奴を必要以上に痛めつけて楽しいのかよ!? 確かに此処は、力が全ての闘技場だ! 残虐な()り方を喜ぶ奴等だって、闘士の中にも客の中にも大勢いるさ! だけど、アイツは――ジョージは、家族の為に! 貧しい兄弟を養うために闘士になったんだ! それをお前はッ!」

「――何をしているッ! 揉め事を起こすなッ!」

「コラッ、貴様ら! こんなところに集まるんじゃないッ!」

「さっさと解散せんか! もう朝メシの時間だぞッ!」


 気が付けば――今にも陽向へと掴みかからんばかりに白熱するフォスターは、騒ぎを聞き付けて飛んできた管理職員や筋骨隆々な闘士たちに押さえ付けられ、その場から退場する羽目に陥っていた。

 それと同時に、人だかりも三々五々と散ってゆく。

 その場を目撃し、フォスターからの糾弾を聞いていた者の中には――遠巻きに集まってこそこそと話しながら、陽向へと露骨に訝しげな視線を送っている輩も存在していたが、其処まで構っている余裕など今の陽向には存在しない。

 ――正面から人の眼も見ずに好き放題に言う輩のことなど、考慮するに値しない。

 何より――朝の栄養補給を求めて、己の腹が鳴っている。空腹による、身体からの救難信号である。

 睡眠や性行と同じく、食事とは快楽であるべきなのだ――鬱蒼とした気持ちで食物を口へ運ぶよりも、気の置けない仲間たちと談笑しながら胃袋を稼働させた方が良いに決まっている。

 既に食堂へ足を運んでいるであろうルームメイトたちの姿を思い浮かべながら、陽向も食卓へ着かんと歩みを進めた。


「だが――君たちは、それも承知で闘士になったのだろう?」


 ――自分の意志で、と。

 何があっても構わないと、そんな自分自身との契約に基づいて。

 ならば選択肢があっただけ、成り行きのままに強制された己よりは余程マシであろう、と――今は見えない二人へと、陽向は小さく問い掛けた。

 さて――真に非道(ひど)く自分勝手な物言いをしているのは、果たしてどちらの方であろうか、と。

 次の試合まで、後六日――対戦カードを告知するための掲示板には、陽向の対として()の名が記載されていた。


        *


 ☞ 鍛錬が行われました。ステータスが上昇します。


 ┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━


  【力】20 → 25

  【技】20 → 25

  【耐】10

  【体】15 → 20

  【魔】25 → 30

  【精】25 → 30

  【知】25 → 30

  【速】20 → 25

  【運】5


 ┗


 ☞ ステータスの上昇に伴い、新たなアビリティが発現します。


 ┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━


  【木鶏(もっけい)】環境に対して、極めて順応性が高い。

  【白眉(はくび)】知識の吸収率、技能の習得率が極めて高い。

  【謫仙(たくせん)】成長性が極めて高い。

  【明珠(めいしゅ)】アビリティ及びスキルの発現率が、極めて高い。

  【帝釈天(たいしゃくてん)】運以外にボーナス及び成長率UP。

  【末那識(まな)】既存のアビリティ及びスキルが、変化しやすい。

  【阿那含(あなごん)】外的要因により、判断を誤らない。

  NEW!【月天(がってん)】夜間、自身の全ステータスにボーナス。


 ┗


 ☞ 新規アビリティ習得により、新たなスキルが発生します。


 ┏〖 ひなた の すきる 〗━


  【愛河(あいが)

    自身の魔力を物理エネルギーを有した現象に変換し、操作する。

  【折伏(しゃくぶく)】物理攻撃成功の際、対象の耐久をDOWNさせる。

  【我空(がくう)】自身の身体能力を一時、飛躍的にUPさせる。

  【空華(くうげ)】自身の魔力を練り上げ、幻影体を創造する。

  NEW!【火雷(ほのいかづちの)大神(おおかみ)黒雷(くろいかづち)

    自身の魔力に威力依存で、

    対象の耐・魔・精を考慮せずに雷撃による損害を与える。

   

 ┗


 ☞ リザルトを終了します。

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