第四話 銀と不実
――闘士と言う者の立場は、初めに陽向が思っていたほど悪いものではないようである。
確かに、自身の肉体を駆使しながら勝利と言う名の鎬を削るという性質上、生命の危機とは切っても切れない関係であるということは紛うこと無き事実である。
そして命を賭ける環境でありながらも、陽向たちのような新人にとっては、得られる見返りも相応とは言い難いかもしれない。
しかしながらそれはあくまで、新人闘士である陽向たちが最下級であるため……らしい。
陽向が小耳に挟んだところによると、闘士はその強さによって幾つもの階級ごとに分けられているとのことであった。
そして基本的に対戦カードは、闘士が持ち得る付近の階級の相手からのみ選出される。これは、極端に実力差のある者を相対させないための処置である。
どうやらこの闘士という見世物においては、公式に賭博行為も行われているようで、その為の目安・調整だろう――無論、階級の上昇に伴い、それなりに例外も生まれてくるのであるが。
入り立ての新人が初めに割り振られる零級から始まり、一級、二級、三級……と、そのような具合で位は上がってゆく。
そして肝心要、闘士の階級の上げ方は至って単純明快――試合に勝つ、ただそれだけである。
此方の階級では何勝する、其方の階級では何連勝するなどというもの。強さが昇級と密接に絡み合っていることは、言うまでも無い。
更に階級条件によっては――既定の白星を獲得する前に何敗する、何連敗するなどということにより降級すらもありえる。
突き詰めれば、闘士になる者など――食い詰め者か、己の力を磨きたい、示したい者。後は、徒に生命の危機を楽しむ数奇者と相場が決まっている。
当然持たざる下級闘士の頃、底を彷徨っている内は大した恩恵など得られないが――それは、昇級に伴い徐々に改善されてゆくのである。
勝利により得られるものは、喝采と栄誉だけではない――闘士になる者など、誰も彼も非物理的な物だけでは満足しないのだから。名声で腹は満たされない。
闘士は一戦勝利する度に、ファイトマネーとも言うべき褒賞が与えられる。それは基本的に金銭によって授受されるが、上級闘士ともなればそれ以外もあるとのこと。
加えて、級が高ければ高いほど、その闘士の持ち得る権限、権利、自由が拡大してゆくのだ。
食べる物や着る物、住む部屋のグレードアップに始まり――特定施設の使用許可、より高品質な武器防具の貸与・購入。
逃亡・脱走防止措置として、闘士は闘技場の管理している範囲からは出歩くことを禁止されている。出生技能関係なく、働き次第で高給を得られると謳いわざわざ集めた者たちである。現実を見せつけられたからと言ってすぐさま逃げられては、闘技場側としても経営に差し支えると言うことだろう。
それはさて置き、一定以上の級と成れば段階を踏んで自由も得られることになる。街などへの外出はおろか、そこまで行けば希望次第では闘士として解放され、引退も可能となってくる。
何より、級ごとにファイトマネーの額は設定されており、当然より上の級ほどその金額は高い。そして、闘士たちはその受け取った金を自由に使うことが出来るのである。
それにより、ある程度の旨みを知った闘士たちは、引退などすることなく金を稼ぎ続けるという形になっていた。
故に、闘士たちは死に物狂いで自身の階級上昇に努めることとなる。いつまでも下級で燻っていると、何時まで経っても金は貯まらず――敗北続きでは、治療班による回復魔法があるとは言えいつ命を落とすやも知れぬのだ。
少なくとも、陽向はそんな切羽詰まった状態などは御免被りたい。
上へと上がれば一度に入る額も大きくなり、得られる選択肢も増えてくる――だからこそ、より迅速に昇級を目指して、陽向は鍛錬を続ける。
――此方の世界でも幸いと言うべきか、日付においては週や月が採用されていた。
試合は、基本的に七日に一度――つまり一つの試合を済ませた後、その闘士には次の闘いへの準備期間として、丸六日間の時間が与えられる。場合によって多少の前後はあれど、凡そ大きくは異ならない。
その与えられた時間をどう使うのかは、闘士へと委ねられる。
肉体を鍛える、魔法の勉強、スキルの研究、休息――何を行っても良い。全て、自由――行動の結果は、自己責任である。
それ故に、陽向は次の試合へと向けて、地道に鍛錬を重ねていた。
主に午前中は、身体能力の強化や闘法の訓練。午後は、魔法やスキルの勉強である。
手が空いており都合がつけば、同室の者たちも誘って鍛錬や勉強を共にした。
シュウと得物を打ち合わせ、バレットの拳を掻い潜り、エルとスキルを練り上げた。
無論、ルームメイトとは言え常に行動を共にするわけではなく、早朝の体力造りや図書室へは一人で足を運ぶ。
そう言った具合に、陽向は初めての準備期間を過ごしていた――闘士として生き延びるには、それが当然のことであると考えて。それは陽向から見た同室の者たちも、後悔しないように鍛錬を積むというようなスタンスを貫いていた為に、その行動をすんなりと肯定し、施行していた。
されど、全ての人間がそのように考えるわけではない。
事の始まりは、次の試合を翌日に控えた――早朝のことであった。
陽向が何らかの意図によりこの世界に送られ、闘士としての初仕事を熟し終えてから早六日の事である。
「お、おい! お前ッ!」
一人基礎体力の向上に励んでいた陽向は、朝食前に次なる鍛錬に移ろうと訓練場へと赴いた時――そんな声を、掛けられた。
陽向は声の聞こえた方へと首を向け、それを発した声の主へと視線を向ける。
――すると、陽向の視線の先には三人の男が存在していた。小男と病的な痩躯と小太りが、一人ずつ――その表情は何処か卑屈に歪められ、精一杯の虚勢すら張り付けられている様だ。
恐らくこの時間帯に訓練場に居るのだから、彼等が闘士であることくらいは予測できる。早朝ではあるものの、他にも自主的な朝練を行っているであろう人影がちらほらと見て取れる。
そして、この第一訓練場は下級の闘士が唯一使用できる訓練場であるため、基本的により上の階級の闘士は訪れない。彼等には、更に広く整った設備が敷かれている訓練施設を宛がわれているらしい。
ちなみに、掃除夫などがこの時間帯に足を踏み入れることはまず無い。
故に、今陽向の目の前に立つ三人が其処まで上の級である可能性はないだろう、と――陽向は、冷静に思案する。
何のために陽向へと声を掛けてきたのかは知らないが、大した用ではないだろうと。
しかしながら、そんな陽向の様子が気に障ったのか――男の一人が、怯えと苛立ちを綯交ぜにした声を荒げる。
「お、お、お前だよ! き、聞いてるのか!?」
「だ、黙ってないで、返事くらいしろッ!」
「オイ! 先輩を無視してんじゃねぇぞ! な、何とか言えよ!?」
「ふぅ……」
唐突な恫喝に、陽向は一瞥と共に溜息を一つ。
自ら先輩と名乗ったには、陽向の予想通り彼等は此処の先住闘士なのだろう。
それでも、無礼者に利く口は持ち合わせていないとばかりに、陽向は背を向けて鍛錬の続きを行おうとしたとき――、
「む、む、無視してんじゃないぞ!」
「このガキ……な、ナメた態度取りやがってッ!」
「生意気な野郎だ……!」
三者三様に、陽向の態度が気に障ったようである。
このまま無視し続けても良いが、こうも近くで耳障りな声を喚き散らされては陽向としても気が散ってしまう。
よって嫌々、仕方なしに――そんな表情を微塵も隠そうとせず、陽向は三者へと向き直った。
やや鋭い視線を載せたそれは目の前の男たちを、一瞬びくりと強張らせたようであったが、お構いなしにと陽向はぬるりと口を開く。
「――私に、何か用か?」
「や、やっと、話をする気になったか! 散々、無視しやがって――この前入ったばっかの新人の癖にッ」
陽向の返事に喰い付いたのは、三者の内――無駄に偉そうな小男であった。
「下らない生活指導が用なら、私は戻らせてもらうぞ」
「なっ! おまっ、お、お前ッ!」
「早く要件を述べてくれ――明確に、具体的に、迅速に、そして簡潔に。私は明日、試合を控えているのだから忙しいのだ」
「そっ、そう! それだよッ! 試合……明日のお前の試合だよ!」
どもりながら――睨み付けながらも、決して陽向には視線を合わせずに、男は一気呵成に捲し立てる。
「自分の対戦カードくらい、もう知ってるよな!?」
「まぁ、六日前の試合の翌日――五日前の朝には、確かに掲示板へと張り出されていたからな。勿論、私も確認は怠らなかった」
「な、なら話は早ぇ! ――そうだ! 明日のお前の対戦相手は、この俺――独楽鼠のカルバンだ!」
「……こま、ねずみ?」
聞き慣れぬ単語に陽向が首を傾げると、待っていましたと言わんばかりにカルバンと名乗った小男が喜色する。
「そ、そうだ! お前よりも上である第一級闘士である俺には、その|二つ名が付いてるんだ!」
「ふむ……成程。疑問なのだが、その二つ名とやらはどのようにして決まるんだ? まさか、自分から名乗ってるわけではないよな――それはあまりにも、恥ずかしく無いか?」
「なッ、なんてこと言いやがるこのガキっ!」
純粋な疑問と言うか、感想を口にした陽向に、カルバンは顔を真っ赤にして憤慨する。
そしてそれを慌てふためきながら、やせっぽちと小太りが宥めすかせる。
「こ、この格好良さは、あんなガキには分からんだけさ!」
「そうだぜカルバン! き、気にスンナよ! アイツはきっと、お前の二つ名に嫉妬してるだけに違いないさ!」
「そ、そ、そうだよな! 全く、何処までも人のコトをコケにしやがって……!」
「…………」
何時までこんな茶番に付き合わなくてはならないのだろうか――そろそろにと、陽向が無為な時間の経過に嫌気が差してきた所で、どうにか持ち直したカルバンが声を張り上げる。
「はっ、ははっ! こういうものはな、周りから付けられるもんなんだよ! 何度も試合を重ねていくことによってだ!」
「何度も……? では、カルバン――お前は、ずっと一級に留まっているということか。二階級には、上がれずに」
「あッ、おまっ、ち、違ぇよ! 俺は人より堅実なだけだ! 確実に上の階級で勝てる力を身に着けてから上るつもりなんだよ!」
「カルバンはな、お、お前みたいなちょいとばかしツラが良いだけの新人とは違うんだよ!」
「そうだそうだ! ナマ言ってんじゃねぇぞ!」
事実を指摘した陽向へと、取り巻きのガリと小デブが唾を飛ばさんばかりの勢いでがなり立てる――どうやら太鼓の持ち方だけは、一人前のようだ。
さらり、と――幾許か己の汗が染み込んだ銀の髪をかき上げて、陽向はカルバンへと本題を促す。
「お前が、堅実だってことは判った――確かに、堅実というのは悪い事ではない。しかし、それが私の試合と何の関係があるんだ?」
「お、おうよ! 関係大アリだぜ――お前、明日の試合でわざと負けろや」
訓練場には陽向たち以外にも闘士が居るためか、最後の部分だけは些か声を潜ませて、カルバンは陽向へと命令するような口調で差し向ける。
――が、当然陽向にそれを受け入れる余地は無し。
それでもカルバンは、嫌らしい笑みを浮かべながら話を続ける。
「こ、これはよ――お前にとっても、イイ話なんだぜ」
「…………」
「俺は堅実が好きなんだ。あ、明日、お前と闘り合っても――ん、まぁ、七割……いや! 八割くらいで、俺は勝てるだろう!」
「――それで?」
「ん、ん~? まだ、判らんのか? 要するに、だ! 俺としても無駄に怪我する気も、ましてやお前を痛めつけるつもりもないってワケよ。俺たち闘士は、死なない限り明日で最後ってわけじゃないだろ? どうせ一週間後には、また別の試合が組まれるんだ」
「だから、互いの為に損害の少ない八百長――試合で適度な芝居を打て、と?」
「な、なんだよ! 話が早ぇじゃねぇか! ま、まぁ、何もしなくても俺の勝ちは堅いんだがよ。そうすれば、俺もお前も無駄な体力を使わずに――」
「――断る」
短く一蹴――それ以上、効く価値無し。陽向は瞬時に判断を下し、会話を打ち切った。
そしてカルバンがそのセリフの全てを言い終えない内に、陽向は背を向けて歩き出す。
「ちょっ、待てよ! まだ俺の話はッ!」
「黙れ」
「――ッ!」
「私の前で、詰まらない事を口にするな」
短くとも、静かに――そして、確かな厳かさと苛立ちを秘めた陽向の言葉に、しんと場の空気が凍り付く。
カルバンに加勢しようとしていた取り巻きの二人も――その言葉に、口も、視線も、動かすことは出来ずにいた。
――陽向は振り返らない。ただ、訓練場の出入口へと向かい、脚を進める。
自身すらも、十全には理解できていない感情。
小さな――それでいて、確かな怒りを陽向は覚えていた。
それは、己が侮辱されたと感じたからであろうか。
それとも、命を賭して闘うということを貶められたためであろうか。
――今の陽向には、判らなかった。
訓練場を出る瞬間、陽向の背を叩く怒号が一つ。
「い、いい気になってられんのも今の内だぞルーキー! ふざけた態度で舐め腐りやがって――か、か、必ず後悔することになるぞッ!」
擦れるが如きそのような言葉など、最早陽向の心には――微塵も響くことは、なかった。
*
☞ 鍛錬及び学習が行われました。
┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━
【力】10 → 15
【技】10 → 15
【耐】5 → 10
【体】10 → 15
【魔】20 → 25
【精】20 → 25
【知】20 → 25
【速】10 → 15
【運】5
┗
☞ 外的要因により、新たなアビリティが発現します。
┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━
【木鶏】環境に対して、極めて順応性が高い。
【白眉】知識の吸収率、技能の習得率が極めて高い。
【謫仙】成長性が極めて高い。
【明珠】アビリティ及びスキルの発現率が、極めて高い。
【帝釈天】運以外にボーナス及び成長率UP。
NEW!【末那識】既存のアビリティ及びスキルが、変化しやすい。
┗
☞ 新規アビリティ習得により、スキルの統合・変化が行われます。
┏〖 ひなた の すきる 〗━
【空大】→NEW!【愛河】
自身の魔力を物理エネルギーを有した現象に変換し、操作する。
【折伏】物理攻撃成功の際、対象の耐久をDOWNさせる。
【火大】+【業魔】=NEW!【我空】
自身の身体能力を一時、飛躍的にUPさせる。
┗
☞ リザルトを終了します。