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第三話 現実回帰

 ――人の喧騒。語らう場。酒酌み交わす様子も、辺りでちらほら。


「そいじゃ、俺たち全員の初勝利を祝って――乾杯!」


 広さだけは一丁前であるような、食堂と表現するには些かみすぼらしくもあり――同時に何処か暖かな雰囲気が漂う空間に、そんな台詞が木霊する。

 それは軽薄そうな中にも、明るさと思い遣りのようなものを感じさせる――陽向のルームメイトシュウの声であった。

 本格的な凌ぎ合いを行ったばかりの――肉穿ち、魔力弾ける生々しき闘士生活一日目の夕時。

 陽向たちは、闘士たちに開放された食堂へと足を運んでいた。

 無論――この場にはシュウ以外にも、陽向と席を共にする者が存在していた。


「っかぁああああ! 勝利の後の一杯は、格別だぜ!」


 目の前に置かれた大きめのジョッキ内の酒を豪快に飲み干して、そのような台詞を吐き出したのは――厳つい禿げ頭を光らせながら、心底満足そうに顔を歪ませるバレットである。

 そして、速攻で飲み干し空となった器を横にどけて、早くも二杯目へを煽る気満々の彼へと、苦言を呈する声が一つ。


「全く――酒を煽るのも、ほどほどにしておきたまえ……。此処で酔い潰れた君を部屋まで担いで帰るなぞ、僕は御免だからな」


 既に二杯目に口を付けていたバレットへと、溜息交じりの言葉を送るのは――対戦前も、最中も、後においても乱れることの無かった金髪の七三分けを保持して、今もまた丸メガネのツルを指で押し戻したエルであった。

 それに対して、バレットは湿気たことを言うなとばかりに言葉を返す。


「あ゛ぁ? オメェは本当に糞真面目クンだなァ、オイ! こうやって俺みたいに、折角の勝利を味わわないでどうするってんだ――なァ、ヒナタよォ」

「――ヒナタ。十八歳の君にこういう事を言うのも可笑しな話かもしれないが、コレが悪い大人の見本だ――自堕落な人生を送りたくなければ、日頃から一大人としての節度ある言動を心掛けたまえよ」

「ヘッ! なぁにが、『節度あるぅ』だよ――素直に楽しい事を楽しいって言えねえのが、大人ってかァ? そうやって眉間に皺寄せて小難しそうなツラしてっから、テメェはダメなんだよ。そんなんじゃ、人生楽しむ前に枯れたジジイになっちまうぜ!」

「やれやれ……いいかい? 人間には、メリハリと言うモノが必要不可欠なのだよ。君みたいに、いつもそうやって――」

「ま、ま、ま! せっかくのめでたい場なんだ。今くらいは、いいじゃねぇか――な?」

「ふぅ……今日くらいはね」


 そんなシュウの取り成しにより、エルもそれ以上は言及せず、静かに杯を傾けた。

 しかしながら――と、加えてシュウはテーブルの上へと新たな話を放り投げる。

 その夕食のメインディッシュにも劣らぬホットな話題は、主に陽向を中心としたものであった。


「今回は皆、割と余裕な感じだったけどよ……なんつうか、ヒナタの試合は特に凄かったよな」

「ふむ……そうだったか?」

「開始の合図と同時に相手の奴を一発で吹き飛ばして、追撃だってバッチリ決まってたじゃねぇか!」


 早くも酒が回っているのか――やや高揚気味に賞賛するシュウへと、陽向は軽く手を振って応える。


「いや、何――このようなことは生まれて初めてだったものだから、単に必死だっただけだよ」

「なぁに言ってんだよ。初めてであの結果なんだから、上等じゃないか――なぁ?」


 その言葉を肯定するように、笑いながら同意を求めるシュウへと賛同する声が挙がった。

 既に、空になる寸前である二杯目のジョッキを手にして、その太い首を縦に振るのはバレットである。


「おうよ! 必見必殺、問答無用、電光石火の如きってェやつだなオイ! 速攻で最大威力の一撃――コイツに勝る戦法は無ェ!」

「そんな素敵なものでもないさ――只々、我武者羅だっただけだよ」

「ガハハハハ! 男なら、細かいコトは気にするんじゃねェよ! 初陣だってのに、相手に一撃も許さずに勝ったんだから上出来すぎるぜ!」

「相手の闘士も覚悟をして、武器を握っている環境であったからな……。流石にモタモタしている内に、斬られるのも刺されるのも御免だったからな」

「そりゃ違いねェ! 無駄に痛ェ思いすんもの、バカらしいってモンだ!」


 その言葉を境に――更なる杯に手を伸ばすバレットを尻目に、先の二人と比べると幾らか丁寧な言葉を用いて、エルも陽向へと口を開いた。


「初めの凄まじい加速は、魔法による強化(ブースト)だろう? 瞬く間に、相手との距離を失くしていたからね」

「あぁ――開始の合図前に起動していたからな。別に、規則に反する行為ではないだろう?」

「勿論だとも。開始前に相手闘士に危害を加える物でなく、自身にのみ作用させるものなのだから、別段ルール上の接触は無いさ。寧ろ、焦らず冷静に準備が出来ていた君の行為は賞賛に値するよ」

「事前にその程度のことは、私たちへと知らされていたからな――時間は有用に使うべきだと思っただけだ。昨日、魔法スキルの指南をしてくれたエルには、感謝しているよ」

「何、お安い御用さ。正直、一度聞いて使用法のコツを教えただけで、此処までスムーズに用いる事が出来るとは思っていなかったよ。ある程度の適正どころか、やはり君には確固たる才が備わっているようだね」

「そんなに手放しで褒めないでくれ――何だか怖くなってしまうじゃないか。小心者の私は、恐縮してしまう一方だよ」

「本当のことを言っただけさ。何にせよ基礎の基礎とは言え、魔法を教えた甲斐もあるってものだよ。これなら、ますます教育のし甲斐もあるってものさ」

「――お手柔らかに頼むよ」


 そのように、同席している三者から別々に――それでいて、その誰もが陽向を良くやったと肯定する。

 あの巨大な円形の戦場(・・)の中では、目の前に立っていた者を倒すことのみが陽向の思考を――精神を支配していた。

 戦闘の前は、陽向の頭を冷たく廻り。

 戦闘の最中では知覚し得る感覚の外にあるかのように、紅焔の如き熱を持って体中を荒れ狂い。

 戦闘終了後は、観衆よりの喝采を背に受けながらも、何処までも静かに――そして、冷え冷えと心の底へと広がってた。

 とは言え――済んだことを考察するよりも、今は()と一緒に杯を傾ける場であるだろうと、陽向はそのような思考を打ち切った。

 そして、切り替えだと言わんばかりに、陽向は同席する三者へと水を向けた。


「しかし、そう言う君たちも余裕の勝利だったではないか」

「余裕ってか、俺はまぁ……人間相手に剣を向けるのも初めてじゃないからな。その辺の――ある程度の勝手は、分かってたからさ」


 陽向の言葉に軽く苦笑しながらも、最初に答えた者はシュウである。


「あぁ……こう言っては何だが、手慣れている感じは見て取れたな。剣の扱いだとか、武器を持った相手の捌き方だとか」

「このご時世では決して珍しい事でもないが、俺が子供のころから住んでた地域は、治安もあまり良くなかったしよ」

「と言うことは、シュウは幼少時より得物を握って、暴漢相手に大立ち回りを繰り広げていたというわけか」

「ははっ、流石にガキの頃は其処までの無茶なしなかった――てか、出来なかったけどよ。ま、ある程度、自分の身を守れるくらいには動けるようになったぜ」

「この度の君の試合――相手を上手くいなし、ファルシオンによる剣戟は見事であったと思うがな。まるでシュウが剣を振る度に、繊月(せんげつ)が生まれているかのような錯覚を覚えたよ。そして、何の問題も無く無事勝利を手にしたではないか」

「ちょ、止めれや! そこまで言われると、なんかこっぱずかしいわ!」


 曖昧に笑うシュウであるが、陽向の目に写った限りではやはりそれは、中々に見事な様であった。

 剣を振るい、盾でいなし、鎧で受け流す――腰を据えて確実に勝利へと歩みを進めた、堅実な戦法であった。

 照れを隠すように、シュウは残りの二人へと話を振る。


「てか俺よりも、バレットやエルの方がずっとスマートだっただろ」

「オレの相手の野郎も、てんで歯応えの無いヤツだったぜ! ま、オレ様のパワーが圧倒的だったてェのも認めるがよ!」


 謙遜するシュウとは対照的に、胸を張って己の勝ちを誇るバレットであったが、その言葉に偽りは無い。

 陽向と同じように、開始直前に自身へと掛けていたであろう身体強化により、相手闘士へと一気に駆け寄ったバレットは――息つく暇も無く、敵対者をタコ殴りにした。

 彼の得物は無し――強いて挙げるとすれば、その両の手に()められた、バレットの顔と同じように厳つい手甲であろう。

 金属製の鎧を纏い、割と重装備であったシュウとはこれまた対照的に――その身に纏う防具も、バレットの動きを阻害しない為にと所々関節部などを露出させたような軽量の物であったのだから。

 対象へと一気に接近して振るわれた――暴雨の如き拳の乱打。鉄の膜で覆われた、集中豪雨であろうか。

 速く、鋭く――その巨体からは、一片の鈍重さも感じられなかった。

 開始の合図より十数秒もしない内に、相手は為す術も無く地へと倒れ伏す。

 その姿は――苛烈さはまるで、嵐を人型に凝縮したかのようであった。

 先の言葉に一層気分を良くしたのか、バレットは自身の前に置かれていた料理を景気良くその大きな口の中へと掻き込んだ。

 それを横目に、エルもゆるりと言葉を紡ぐ。


「僕の相手は――僕と同じく、積極的に魔法を運用するタイプの者だったね」

「そう言えば、君の相手も何やら魔法スキルを打ち込んでいたな」

「うん。だけど彼の技術は、お世辞にも上等と言えるものではなかったよ」

「あぁ……撃った端から、全てエルに撃ち落とされていたな」

「鍛錬が足りないのか、素質が低すぎるのか――あまりにもお粗末な出来であったよ」

「ふむ、具体的には?」

「羅列すればキリが無いが……まず、魔法一発一発の威力が低い。行使が遅い。状況に対する、魔法の選択が不適切。思考が鈍重。魔法をメインに据えるには、考えられないくらい思慮が足りていない」


 一息にそう言って、エルは自身のグラスを軽く煽る。

 その口調に悪意の類は感じられないとは言え、遠慮無しにエルは本日の対戦相手の欠点を指摘してゆくのだ。

 それにやや苦笑しながらも、陽向は続きを促した。


「数を撃てば当たる――の精神では、魔法は務まらないと?」

「いや、そうは言わないさ。しかしそれは、ある程度以上の力が備わって初めて採ることのできる手段だよ。故に、稚拙だ」

「成程、ね」

「まぁ、それよりも――バレットではないが、折角の祝賀会なんだ。今は純粋に楽しもうじゃないか」

「……あぁ、それもそうだな」


 そしてエルに促され、陽向もまた自身のグラスを小さく傾けるのであった。

 此方の世界に来て初めて――否、生まれて初めて呑む酒の味は何処か、朝陽に溶け逝く淡雪の如き泡沫の味を潜ませていた。

 ――平穏は、得てして砂の城のようなもの。


        *


 ☞ 束の間の休息により、英気が養われました。


 ┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━


  【力】10

  【技】10

  【耐】5

  【体】5 → 10

  【魔】20

  【精】20

  【知】20

  【速】10

  【運】5


 ┗


 ☞ 特定のアビリティが存在する為、統合変化が行われます。


 ┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━


  【木鶏(もっけい)】環境に対して、極めて順応性が高い。

  【白眉(はくび)】知識の吸収率、技能の習得率が極めて高い。

  【謫仙(たくせん)】成長性が極めて高い。

  【明珠(めいしゅ)】アビリティ及びスキルの発現率が、極めて高い。

  【弁才天(べんざいてん)】+【大黒天(だいこくてん)

  = NEW!【帝釈天(たいしゃくてん)】運以外にボーナス及び成長率UP。


 ┗


 ☞ 新規アビリティ習得により、新たなスキルが発生します。


 ┏〖 ひなた の すきる 〗━


  【火大(かだい)】自身の身体能力を一時的にUPさせる。

  【空大(くうだい)】自身の魔力を物理エネルギーに変換する。

  【業魔(ごうま)】物理攻撃の際、その威力を倍加させる。

  NEW!【折伏(しゃくぶく)】物理攻撃成功の際、対象の耐久をDOWNさせる。

   

 ┗


 ☞ リザルトを終了します。

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