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第一話 希望の種

 ――あの後、大部屋へと入っていた屈強な男たちは幾つかの簡素な説明を行った後、新たに闘士となった者たちへと移動を促した。

 その時に陽向は、一縷の望みを掛けて彼らの一人へと己の事情を伝えようとしたが、話しかけた時点で一笑され取りつく島すらなかったのである。

 恐らく、此処では勝者にしか発言権はおろか自由意思などは与えられないのだろう。

 故に――現在、陽向は新闘士となった者へと宛がわれる部屋へと向かったのであった。


「ま、これからよろしくな!」

「あぁ……改めて頼む」


 自身へと掛けられた声に、陽向は短く返答する。

 不幸中の幸いとも言うべきは、あの大部屋の中で唯一交流を行ったシュウが同室ということだろう。

 集団で闘士用の宿舎らしき建物へと案内され、両側に扉が幾つも存在する長い廊下を渡る内に、その内の指定された一つの前で陽向は立ち止まった。

 そんな意外と頑丈そうな扉を開いた先には、お世辞にも広いとは言い難い空間が視界に飛び込む。

 その中で目に付くものは、部屋の壁際両脇に一組ずつ展開された二台の二段ベッド――つまり、この狭い部屋を四人の人間で使えということであろう。

 一人は陽向、もう一人はシュウ――それは良い。寧ろ、数十人は居るであろう新人の中からシュウと同室になれたことは、異世界に放り出されたばかりの陽向にとっても思わぬ幸運であったのだから。

 つまり――と。


「ハッ、こんな奴らと同じ部屋に住まなきゃならんとはな! バカそうなのと根暗なのと――おまけに世間知らずのボンボンが一緒だなんて、嬉しすぎて笑っちまうぜ!」

「ね、根暗だと! 口を、口を慎みたまえ……! そ、それは此方の台詞だよ……このような野蛮な男と同じ空気を吸わなければならないだなんて……!」

「あ゛ぁ!? オイ、コラ! テメェ、誰に向かってクチ利いてんだ!? お前はドコぞの先生様かこの野郎!」

「ひっ――ば、バカにするのも大概にしたまえ! こっ、こ、こ、こっ、これだから知性の無い……や、輩は困るんだッ」


 問題なのは、陽向たちの目の前でいがみ合う二人の男であった。


「此処じゃ知性とやらが、テメェの身を守ってくれんのかァ!?」


 一人は、遠慮無しに口汚く相手を罵倒する凶暴性を剥き出しにしたような男である。

 年の頃は、恐らく二十代半ほどであろうか。

 シュウよりも更に大柄なその男は、綺麗に剃りあげたスキンヘドと傷だらけの顔に、問答無用で相手を威嚇するような目付き。口から除く歯は、まるで肉食獣の牙である。

 筋骨隆々な肉体は、その身に纏った衣服程度に大人しく収まらぬとばかりに、存在感を主張していた。


「す、少なくと、とも……ッ! 頭の中まで、き、筋肉で出来ているような野生動物みたいな君には、生涯理解しえないだろうね!」


 そしてもう一人は、先の男とは対照的にひょろりとした痩躯であった。

 年齢は、二十代前半といったところか。

 丸い眼鏡を掛けた神経質そうな目を細め、他の者と比べれば割かし上等な衣服をまとった彼は、金色の髪をぴっちりと七三に分けていた。

 一見すると軟弱なインテリのようであるが、目の前の獰猛な男相手にどもりながらも対抗しているのだから、意外と肝は座っているようであった。


「上等だコラ! 表出やがれ!」

「ふ、ふん! 今ここでやりあうのは非建設的だ――そんなことも、判らないのかね!?」


 とは言え、陽向としても此処で暴れられても困るのだ。不毛な嵐に巻き込まれるのは、御免である。

 されど、この状況を如何に処理すべきかと思考を張り巡らせていたところで――救いの手が差し伸べられた。

 一触即発と言うか、既に導火線に着火済みと言うか――鼻を突き合わせて睨み合う二人の男へと、シュウの声が掛けられる。


「まぁまぁ――二人とも落ち着けって。俺たちは、これから同じ部屋で暮らす仲間だぜ? もっと気楽に行こうや」

「……何だ? テメェは関係ねぇだろ! 引っ込んでろ!」

「そんなこと言うなって――な? 此処で体力使ったって、一圓(いちえん)にもならないだろ?」

「んなこたァ判ってんだよ! オレはオレをナメたこのネクラ野郎に一発ワカらしてやらねェと……!」

「どうせならよ、もっと気持ち良く体動かそうぜ。此処って、闘士であれば訓練場も自由に使えるって話じゃないか」

「――ハン、つまりお前が相手してくれるってコトかよ」

「お前さん、腕には自信あるんだろ? 見たらわかるぜ、なんたって強者のオーラが出てるもんな。ちょいとばかし、俺に稽古でも付けてくれよ」

「きょ、強者か……。ま、まぁ、そう言うことなら、付き合ってやらなくもねぇ――オレは、バレットだ。お前、名は?」

「シュウだ――よろしくな! そんじゃ、さっさと行こうや……てなワケでヒナタ、俺らはちょっくら身体動かしてくるわ」

「あぁ――シュウ、バレット。二人とも気を付けてな」

「ヘッ! オレは、んなヤワな鍛え方はしてないんでな!」


 そう言いつつも何処か楽しそうにするバレットを引き連れて、シュウは訓練場へと向かい、部屋を出て行った。

 この場合、シュウの口の上手さを賞賛すべきか、それともバレットのオツムの純粋(たんじゅん)さに感謝すべきか。

 兎にも角にも、要らぬ騒動が引き起こされなかったことに安堵しつつ――陽向は、己以外に部屋へと残った金髪の七三男へと対話を試みた。


「来て早々、災難だったな」

「べ、別に……あのまま対峙したとしても、僕は引けを取るつもりなどなかった……っ」

「そうか――しかし、私としてもこんな場所で騒動を起こされても堪らないからな」

「それくらい、僕だって分かっている! だから、あの野蛮人を上手い事連れ出してくれた彼には、感謝しているくらいだ」


 やはりと言うべきか――強がってはいたモノの、直にバレットと対峙していたこの男としても、あのまま明確に衝突することは避けたかったようである。確かに、あの巨体から放たれる威圧感は凄そうである。

 その証拠にと言う訳でもないが、今も目の前の七三は、懐から取り出したハンカチで額を軽く拭っている。

 さて、と――。

 このまま狭い室内で男二人、就寝の時間まで黙っているのは陽向としても御免被りたい。

 それ故に、何時まで経っても新たに口を開く気配の感じられない彼に期待するのではなく、陽向は自ら行動に移した。


「さて――同室の者として、自己紹介くらいはしておくべきだと思うのだが、如何だろうか?」

「あっ、そ、そうだな! うん、礼節的に考えて自己紹介は大切だ。僕はエルネスト――エルと呼んでくれたまえ」

「理解した、エル――先のシュウの言葉から判るだろうが、私は陽向だ」

「あぁ、よろしく頼むよヒナタ。しかし、君は何と言うか、その……」

「――変わっている、と?」

「す、済まない! その、勘違いしないでくれたまえ……別に君を貶めるつもりは無いんだ」

「何、それくらい自覚しているからな。気にしてはいないさ」


 焦るように弁解するエルへと、軽く手を振って陽向は答えた。

 それに安堵するように、エルは丸メガネの位置を指で直しながら、陽向へと語りかける。


「ヒナタはあの野蛮人などとは比べるまでも無いが、あのシュウという彼や此処に来た者たち――彼等とは、まるで違った空気を纏っていると感じたんだ」

「似たようなことを、先の大部屋でシュウにも言われたよ」

「来ている衣服もそうだが、初めは僕と同じように富裕層出身の人間だと思っていたよ」

「予想に反して申し訳ないが、そんな大層な出で立ちではないさ――先祖代々、平々凡々のそれさ。と言うか、君と同じとは……」

「そうさ――僕は、とある商家の出身でね。そこそこの商業圏を持つ家が、僕の実家なんだ」


 そう言って、エルはぽつぽつと自身の生い立ちを語り出した。


「そんな家の、僕は四男坊として生を受けてね……生まれたときには、既に歳の離れた一番上の兄が跡取りとして父の下で仕事をしていたよ。二番目と三番目の兄たちも、長男の補佐としての教育を受けていたのさ。だから僕は、子供の頃から好きなことに好きなだけのめり込んでいたよ」

「ふむ。のめり込むほど好きな事とは?」

「――魔法さ」


 問い掛けた陽向に、エルは目を輝かせて答えたのである。

 最初に印象を受けた神経質そうですらあった瞳は、その時は夢へと向かう少年のように煌めいているようですらあった。

 魔法、と――それは陽向にとっても、これまた興味深い内容である。

 それで――と。陽向はエルへと、話の続きを促した。


「幸いと言うべきか、僕には生まれながらに魔法に対するそこそこの適正と才能が備わっていたようでね。ある程度のものであれば、学習にも研究にも――そして習得にもそれほど苦労はしなかったよ」

「それは中々に、素晴らしいことなのではないか?」

「勿論、そこそこだから、僕の理解できる範疇にも限度は有るがね――と言うか、ヒナタ。君も、魔法に興味があるのかい?」

「あぁ……周囲に魔法に対する知識の深い者が存在していないこともあって、私は今まで魔法というモノにあまり関わりの無い(・・・・・・・・・)人生を歩んで来たものでね。しかしながらエルの話を聞いていると、徐々に興味が湧いてきたよ」

「本当かい!? それは喜ばしいことだよ! 魔法を知っているか知らないかで、人生の五割は損していると言っても過言では無いからね!」

「それで、だ――もし、エルに差し支えなければ、私に魔法の事を教えては貰えないだろうか」

「勿論だよ! 僕の周りでは魔法を使うどころか、碌に学ぼうとする者すらほとんど居なかったからね。魔法の素晴らしさを理解することのできる同士に巡り合えて、僕としても非常に喜ばしいよ! それでは、さっそく始めようか――こんなこともあろうかと、魔法の指南書なんかも持ってきて置いて本当に良かったよ。そういえば、此処には図書室も存在しているらしいね。是非、後で共に足を運んでみようではないか! 覚えられるかどうかは努力と適正、素質次第だけど……仮にダメでもまぁ、純粋に学問としても面白いものだよ!」


 初めの陰鬱さは何処へやら――魔法について話を振った途端に、やたら饒舌になるエルに多少なりとも面喰いながらも、陽向としても思わぬ幸運に感謝していた。

 ステータスというモノを認識していた時点でその存在自体は理解していたが、魔法と言う名の未知なる力自体の扱い方や習得方法その他諸々はこの際に入手しておくべきだ、と。

 頭の端で冷静に思考を張り巡らせながらも、陽向はエルより手渡された鈍器のような重みと厚みを備えた革張りの本の一ページ目を丁寧に捲るのであった。

 ――夜が来るのは、まだまだ先のようだ。

 訓練場へ汗を流しに行った二人が帰ってくるまでに目の前で弁舌を振るうエルを落ち着かせなければ、きっとバレットとの間に先の第二ラウンドが発生し得る未来すらも、容易く予想することが出来る。

 己の理解が先か、エルの興奮が冷めるのが早いか――色々な意味において、陽向にとっての試練はまだ始まったばかりであった。


        *


 ☞ 学習が行われました。ステータスが上昇します。


 ┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━


  【力】5

  【技】5

  【耐】5

  【体】5

  【魔】5 → 10

  【精】5 → 10

  【知】5 → 10

  【速】5

  【運】5


 ┗


 ☞ ステータス上昇に伴い、新たなアビリティが発現します。


 ┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━


  【木鶏(もっけい)】環境に対して、極めて順応性が高い。

  【白眉(はくび)】知識の吸収率、技能の習得率が極めて高い。

  【謫仙(たくせん)】成長性が極めて高い。

  【明珠(めいしゅ)】アビリティ及びスキルの発現率が、極めて高い。

  NEW!【弁才天(べんざいてん)】魔、精、知にボーナス及び成長率UP。


 ┗


 ☞ 新規アビリティ習得により、新たなスキルが発生します。


 ┏〖 ひなた の すきる 〗━


  NEW!【火大(かだい)】自身の身体能力を一時的にUPさせる。

  NEW!【空大(くうだい)】自身の魔力を物理エネルギーに変換する。


 ┗


 ☞ リザルトを終了します。

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