第十七話 至望遊戯
――降り落ちた。
――折り墜ちた。
――澱、堕ちたのだった。
空間に、部屋に、空気に、陽向の鼓膜を……そして心の臓物へと――劫火の如き熱を帯びた、涼やかな声が貫いた。
誰も、動けない。
誰も、振り返ることなど――出来やしない。
シュウもエルネストも、バレットすらも――その心を覆う薄皮を焙るかのような声に、その身の硬直を強いられていたのであろうか。
炎暑を纏う、極寒の波動。燃え上がる焔は凍り付き、凍える氷海すらも蒸発するに違いない。
自然なまでに、不自然な感触。
其れを眼の前にしては、嫉妬も、害意も、悪意も、呪詛も、祝福さえも――容易く霧散するのではとの、錯覚するも覚えるのだ。
それ故に、正面へと視線を固定したままの陽向のみが、彼女の――その姿を網膜への直撃を、許容することになってしまった。
雲鬢、艶治に色めく桜唇。流れる其れは、鶯舌か。
深緋の髪は、陽炎揺らめく神秘の絹。
明眸煌めく青蛾の様。
錘美は、容易く此処に在り。
溢れる魅力を光冠に換え、艶美の紅鏡――リュミエールその人こそが、其処には佇んでいた。
途端――闘士の為の病室が、一瞬にして宮殿へと変化を告げる。
果たして此処は、光の世界。
たった一人の女王の為、ただ一人の存在の為に――変質して、変容して、変貌を遂げるのだ。
様相に変化無し、物質に変質無し、事実に揺るぎ無し。
されど、本質こそは――間違い無く、間違いなかった。
穏やかな笑みを浮かべたまま、涼やかな口調を維持したまま――いつの間にかシュウたちよりも近く、陽向の傍まで歩みを進めていたリュミエールは、先と変わらぬ口調で囁いた。
「無様だな……ヒナタ」
この期に及んで無視できるだけの図太さは、陽向に存在し得なかった。
何より、力の喪失のためか――以前よりも、陽向へと掛かる獄炎の如き圧力を強力に感じられたのだった。
それでも、尚――それを極力悟られぬように、陽向は彼女へと言葉を返す。
「いやはや、お恥ずかしい限りで御座います――ご覧になられておりましたか」
「無様だな、ヒナタ?」
「えぇ……申し開きのしようも御座いません」
「無様だな……ヒナタぁ」
「リュミエール様も、此度の私の体たらくにはがっかり為されたことでしょう」
穏やかに、にこやかに――ベッドに腰掛けた陽向の隣へと、ゆっくりと腰を下ろしたリュミエールは、蕩けるような花の香りを混じらせて……陽向の耳元で繰り返し囁くのである。
その表情、は微笑んでいる。
その瞳は、穏やかな色に染まっている。
彼女の紅唇は、平穏そのものだ。
されど、陽向の魂は最大級の警報を鳴らし続けていたのである。
彼女は、激怒している――その様は、餓虎をも殺す。
彼女は、悲哀に暮れている――その姿は、朽木を嘆くかのように。
彼女は、嘆いている――それはまるで、愁雲に溶け逝くやもしれぬ。
そして結局、彼女は激怒していたのだろう。
リュミエールの心の中は、憤りで溢れ勝っているに違いない。
其れは事実に対して、其れは陽向に対して――そして、彼女自身に対して、と。
其れが解るほどに、陽向はリュミエールを間近に感じさせられた――透き通るような薄皮一枚の先に、燃え続ける激情の温度に依るものか。
脚を絡め、頬に指を這わせ――彼女はただ、ただ、陽向に対して同じ台詞を繰り返していた。
そうして――最後に発せられた陽向の台詞を皮切りに、リュミエールより伝わる体温が激動を告げる。
彼女の感触は、紛れも無く紅炎の様であった。
「――がっかり? がっかり、だと……?」
「えぇ」
「ふふっ、ふふふっ……うふっ、ふふふふふふふふっ」
「……リュミエール様?」
心底愉快であるかのように笑う赤烏。
その姿は、背筋が氷結するほどに美しくもあり――怖ろしくもあった。
「私が……私が何も知らぬ、と――本気で思っているのか?」
「申し訳御座いません、リュミエール様」
「そうか……そう、か……。貴様は、そうなのだな……」
「考えの及ばぬ私に、どうか御教え願えないでしょうか?」
陽向の一言は、起爆剤であったのかもしれない。
そして……破裂したのだから。
「あまり詰まらないことを訊くなよ――貴様、此処で灰に還るか?」
「――っ」
――降臨した。
光輪が――日華が、空気すらも融かさんばかりの熱を纏って、陽向のすぐ隣へと顕現したのであった。
直に晒された陽向はおろか、その他の誰もが心臓を地獄の焔で焙られるが如き様を錯覚したに違いない。
炎陽の如きリュミエールが、再度陽向へと艶めかしいまでの唇から言の葉を紡ぎ上げる。
「なぁ、ヒナタ――貴様、力を消失したであろう?」
「それを――お見通しで御座いますか」
シュウたちの、息を呑む声が――陽向に聞こえたような気がした。
「当り前であろう?」
そう言って、小さく息を吸って――一息にリュミエールは、吐き出した。
それは、少女の告白のように甘やかで。
それは、極限の祈願のように切実で。
それは、呪詛の如く粘ついていた。
そして、紛れも無く――純粋なる響きであった。
「貴様を一番見ているのは、この私だ。
貴様を一番感じているのは、この私だ。
貴様を一番理解しているのは、この私だ。
貴様へ一番恋焦がれているのは、この私だ。
貴様を一番愛しているのは、この私だ。
貴様の――髪も、瞳も、指先も。
貴様が吐き出す――言葉も、吐息も、喘ぎも。
貴様の持つ――思考も、感情も、心すらも……。
全て、全て……この私のものだ。
私は、貴様に言ったであろう?
消えてくれるなよ、潰れてくれるなよ、死んでくれるなよ――と。
確かに貴様は、此処に居る。確かに貴様は、生きている。
されど、貴様は――潰れかけている。潰されかけている。
力を失い、退化し……このまま衰退して逝くのか!?
あの程度のちんけな小技ごときに!
――ッ! 嘆かわしいッ!
泣き叫びたいほどの屈辱だ! 殺してしまいたくなるほどの侮辱だ!
あのような屑に! あの程度の泥砂に相手にッ!
……ならば。
いずれ、このまま誰やもしれぬ路傍の石に貴様が蹴躓くのであれば――。
その可能性が、僅かにでもあるのなら……。
私は我慢できぬ!
私は認めらぬ!
私は……許容などしてやるものか!
故に――此処で滅ぼしてやろうぞ。
この私が……貴様を愛するこの私が!
朽ち果てる前の最高の貴様を――焼き尽くしてやろうぞ。
皮も、肉も、骨も、神経も。
臓腑も、脳髄も、眼球も、髪も、性器も!
――身体も心も魂までをもッ!
ふふっ、嬉しいだろう? 喜ばしいことであろう?
私の慈悲で、歓喜に満ち溢れることだろう?
なぁに、私の焔は魂までも焼き尽くす。
貴様は死の間際まで、私の体温を感じるのだ。
私は貴様のことを、永劫に記憶し続けてやろう。
私の魂に、貴様の存在を刻み付けるのだ。
さぁ、私に蕩けよ――」
独り善がりな唄、抗い難い呪歌。
笑顔と共に差し出される紅の腕。炎波の先は、奈落の底か。
膨れ上がる極小の天日――それは彼女そのもので、言葉通りに陽向の魂魄までもを滅却させるに違いない。
じりじりと、ぎりぎりと空気を焦がし続け――今にもリュミエールは、陽向を灰に帰そうと撫でる。
――そこに、一つの声が挙がった。
「さ、さっきからアンタ……勝手な事ばっか言ってんじゃねぇよ!」
突然、耳内へと飛び込んできた言葉に――ぴくり、と。
陽向だけではなく、今まさに火葬を行わんとしていたリュミエールすらも――その声の主へとゆらりと視線を向けた。
「ヒナタは――ヒナタは、ヒナタだろ! アンタの、所有物なんかじゃ、ねぇぞ!」
シュウ、であった。
灼熱の呪縛を掻い潜り、生命を焼き焦がさんとする熱波を浴びながらも、息も絶え絶えに吐き出し続ける。
そうして、シュウの勇気に触発されたかのように、後の二人も叫んでいた。
「シュウの言う通りだぜ! ヒナタを殺すだと!? ッざけたことばっか抜かしてんじゃねぇぞ、このアマ!」
「そ、そ、そ、そう、そうです、よ……っ! あ、ああああなたっ、すこ、少しばかり、ご、傲慢す過ぎや、しま、しませんかね!?」
明らかに憤りを隠そうともしないバレットに、怯えどもりながらも自身の意見を主張するエルネスト。
そんな彼らの姿に、陽向の全身を熱情が駆け巡る。身体の芯が、暖まる。活力が、漲るのだ。
それでも――それが、彼女に通じるとは、限らなかった。
火に油を注ぐ、飛び火する――火の粉ではなく溶岩流の如き様で、彼女の矛先は彼等へと向かってしまった。
シュウたちの言葉を受けて、ぎちりと音を立てんばかりに――リュミエールは、眼を剥いた。
そして、笑った。
「ふふふふふっ、そうか……そう、か……。
貴様らのような塵芥が纏わり付いているから、私の想い人がこうなってしまったのか……。
くっくっくっ、成程、成程――誠に、真に……それは、許し難いなぁ」
「――ッ!」
「ぐっ……ぁ……」
「っひぃ、は……」
太陽の熱を直に照射され、シュウもバレットもエルネストも――息を止めんばかりに、苦悶の表情を浮かべていた。
――殺される、と。
彼らはこのまま、蒸発するかのように消滅する。
――陽向は、理解してしまった。
赤日の逆鱗へと触れてしまい、容易く灰へとその身を変える愚者の如く――陽向の友人が、塵へと還る。
肩口から黄丹の腕を噴出し、シュウたちへずるりとその手を伸ばす。
そうして、愉快そうに。
ある種の偏執的な妄念を抱えた声色で、リュミエールは火炎の腕を伸ばし往く。
「殺さんよ――あぁ、貴様らなぞ簡単に冥土を踏ませてやるものか。
神経の一本一本を、端から順に溶かしてくれる。
肉を焙るように焦がしてやろう。
皮は残さず、塵となれ。
容易く、あぁ全く以って容易く輪廻転生の輪に戻れるとなぞ――期待するなよ?」
憎悪に次ぐ憎悪。
非道の愉悦。
その言葉を耳にして、陽向の覚悟が――とん、と決まった。
そのまま終わらせて、なるものか。このまま倒れて、なるものか。
ある意味において、リュミエールをここまで追い詰めた責は、陽向にもあるだろう。
彼女をここまで期待させてしまった、あの日――あの言葉を、陽向は忘れたことはない。
故に――陽向は、彼女へと制止を掛ける。
生死の懸かった言の葉を載せて――。
静かに、厳かに――陽向は、口を開くのだ。
「止めろ――リュミエール」
「リュミエール?」
今尚、金赤に幾重にも展開される火炎の触手を止めて――耳を疑うかのような表情で、彼女は陽向を視線で射抜いた。
だが、引かない――それでも、陽向は引いてなどやらない。
僅かに口角を吊り上げるリュミエールへと、明確に視線を絡ませて――陽向は言葉を続けた。
「あぁ、私はその腕を降ろせと言ったのだ――リュミエール」
「ふふっ、ふふふふふっ――どうやら私は、耳を悪くしたようだな。えぇ、陽向?」
「解らぬのならば、何度でも言ってやる。その殺意を引込めろ――そう言っているんだ、リュミエール」
「くっ、くふっ。ふふふふふふふふふっ」
その瞳に更なる愉悦を潜ませて、リュミエールは陽向へと問い返す。
熱量が増す、情動が激しくなる。
「貴様――誰に口を利いているのか、理解しているのか?」
「理解しているに決まっているだろう」
「いいやぁ、貴様は理解などしていないな。力を失い、加護を失い――それで尚、この私の前に立つという行為の愚かさをな」
「それでも……」
「――それでも、何だと言うのだ? よもや泣いて詫びて、こやつ等の助命を乞うと言うのでは、あるまいな?」
「私は……貴女から引くつもりなど毛頭無い」
「くっくっくっ、うふふふふっ。一体、どのような手段を用いて、私を諌めると言うのだ?」
舐るように、弄るように――彼女は、陽向をじりじりと追い詰める。
彼女の言葉の端々には依然として、何処か陽向に期待するかのような色が見受けられた。
呼びかける――意を決して、陽向は彼女の名を呼ぶのだ。
「……リュミエール」
「何だ?」
そして、陽向は――その一言を、吐き出したのだ。
「尻をしこたまブッ叩かれたいか――リュミエールッ!」
凝縮して、炸裂するのだ。
「――っ! な、何をっ!?」
自身が何を言われたかを理解できないとでも言わんばかりに目を見開いて、彼女は陽向の前で硬直していた。
眼力を込めて、精一杯の意志を携えて――陽向は、リュミエールへと視線を捻じ込ませる。
怒涛の連撃、緩めぬ追撃。
此処が勝負の分水嶺――みすみす好機を逃すほど、陽向は甘くないのだから。
一変し、穏やかな表情を陽向は作り出す――緩急こそが、肝。
未だ動揺の色を隠せないリュミエールへと、陽向は彼女へと甘き毒にも似た台詞を紡ぐ。
「私たちを――私を此処で消すデメリットを、お考え下さい」
「貴様を燃やす、デメリットだと?」
喰い付いた――訝しげな彼女へと、陽向は言葉を続ける。
「えぇ、リュミエール様。私たちは、出会ってまだ間もありません。お互いの事を知るには、少々焦り過ぎでは御座いませんか?」
「……続けろ」
「はい――私は、無様を晒しました。そうして、それは紛れも無い事実であります」
「…………」
「私のその姿――貴女様の目には、期待を裏切るかのように見えたやもしれません」
「…………」
「確かに私は、力を失いました。今の私の能力ははリュミエール様からすれば、ただの散木に等しいでしょう――しかしッ!」
「――っ!?」
――陽向の力強い演説に、ぴくりと身を縮める姿は、本当に先と同じリュミエールであろうか。
先の衝撃でリュミエールの肩より伸びる、炎の腕が消失したのを目敏く確認していた陽向は、彼女の両肩に己の手を掛け――正面から、彼女の瞳を覗きこむ。
「――リュミエール様」
「な、何だっ」
「私は絶対に……このような場所では終わるつもりなどは、御座いません」
「そ、そのようなことを言ったところで……今の貴様程度では……」
「リュミエール様っ!」
「ひゃいっ!」
有無を言わせぬ電撃戦。
息も吐かせぬ連続口撃。
速攻――それこそが、勝負の華よ。
会話の主導権を握るコツは、極力相手に喋らせないことである。
言動には、その個々ごとに切るべき最高のタイミングというものが設定されている。
何気ない日常生活のワンシーンで用いたところでは、単なる犯罪行為一歩手前のカードでも――時と場合によっては、クリティカルに直撃するのだ。
正面から優しく、それでいて力強く――陽向は、リュミエールを抱き締めた。
もし……もしも、現時点において彼女が平常な精神状態であれば、陽向のこのような行為は決して赦されることはなかったに違いない。
されど、リュミエールは滾っていた。陽向の醜態とも言える、此度の件に。
故に、陽向が行ったことは――その激情を熱情に、熱情を情熱へと変換し、錯覚させたのであった。
そうして、そのような空気に呑まれたリュミエールは、身体を固まらせて――はっ、と我に返ったように、抱き締められたままの体制で陽向へと抗議した。
「し、しししし痴れ者っ! い、いきなり何をするかっ!?」
「……リュミエール様」
「は、離せっ! このっ、離せっ! 私を、はな……やっ! そんな処を……んっ」
「お聞き下さい、リュミエール様」
陽向は彼女の背を優しく撫ぜ、徐々にその身を解し落ち着かせてゆく。
顔を――唇を、陽向はリュミエールの小さな耳へと近づけて、吐息で撫でまわすかのように、言葉をぬるりと吐き出すのだ。
それは滑らかな媚薬に等しく、リュミエールの芯へと溶け込ませる。
「此処で私を殺してしまっては、将来的に貴女様が得られるであろう悦楽が――減退してしまうやもしれませんよ」
「ぇ、悦……楽?」
「えぇ――左様で御座います。私とリュミエール様が織り成す、未来予想図でしょうか」
「私と……貴様、の……」
「はい――如何でしょうか?」
「ぅむ……一理ある、かも……」
己が吐き出しておいて何であるが……このような陽向の糞理屈には、一理も一ミリも無いだろう――そしてそれに丸め込まれる、彼女の将来が不安である。十中八九、男で苦労するタイプ。
全力で突っ込みを抑圧しながらも、陽向は柔らかく吐息を重ねる。
話の焦点を曖昧にして、徐々に論点をずらしてゆけば良いのであるが――このようなことに手を染めている者は、きっと碌な大人にならないだろう。
一泊置いて、陽向はリュミエールの首筋を撫でながら――陽向は、ぬたりと口を開く。
「ヒ、ヒナタ……?」
「こうして……リュミエール様と触れ合うことも、出来なくなってしまいます」
「ぁ……それは、困る……けど」
リュミエールの声は、微かに戸惑いを覚えているようである。
次に陽向は彼女の太腿へと片手を回し、指先で緩やかなカーブを描くのだ。
「そこっ……! ゃ、くすぐったぃ……くぅ……」
「こうして、リュミエール様の体温を感じることも――敵わなくなってしまいます」
「それも……ぁんっ! 寂しぃ……かも……」
リュミエールの声は、微かな甘さを増してくる。
そうして遂に、陽向のなだらかに蠢く指先を――彼女の下腹部へと蕩けさせるかのように這わせるのである。
優しく、穏やかに――羽毛を抓むが如く。綿毛を捕えるように。
陽向の微量の魔力と情熱を、彼女の心と身体と熱情に溶け込ませるような気持ちで――どちらがどちらか判らなくなるかのように、真摯に、穏やかになぞるのだ。
下腹部――つまりは、臍の下辺りへと。あくまで、下腹部だけである。
「ぁ……っ! ゃ……だ、だめぇ……、そこ……だめ、ぇ……あぅぅ……」
「こうしてリュミエール様に、私の存在を刻み付けることが不可能になってしまうのですよ?」
「ひ、なたぁ……なん、か……ぽかぽか、するぅ……」
「えぇ――感じて下さい、理解して下さい、共感して下さい」
「ぃやぁ……何これぇ……。ひなたぁ……じんじん、じん、じん……来るよぉ……」
「これが、私です。今、貴女様――リュミエール様の身体を弄り、神経を刺激し、内部を揺蕩っているモノが私で御座います」
「きゅん、きゅんして……る……。も、もぅ……とけちゃ、ぅ……」
「貴女様の熱気で私が刺激されるのと同じように、私の熱で――リュミエール様も、更なる熱を孕むでしょう?」
「んっ……はぁ、は、ぁ……」
息も絶え絶え、満身創痍――陽向による揺さぶりは、もう十分であろう。
昔の人は、言いました――鉄は熱い内に打て、と。陽向は今、その言葉に最大限の賛美を送りたかった。
用法の正誤は置いといて、会話に最も大切なことは勢いである――相手が冷静になる前に、素の状態へと戻る前に結論を押し付ければ良いだろう。
撫で回していた指を外し、彼女から陽向は身体も離す。
瞳を潤ませ、頬を上気させ、唇の端からは僅かに涎が垂れているが――其れを陽向は、見なかったことにした。乙女の尊厳的な意味で。
そうして陽向は、最後の一手を討つのである。
「そのように互いの情愛をぶつけ合うことは素敵ですが――やはり、最終的には最高の状態で望みたいものです」
「はれぇ……おぁり。……もぅ、ぉぁった?」
「そのためには、私が貴女様と同じく最高峰へと駆け上がることが、最重要事項だとは御思いになりませんか?」
「ぁ……ひゃい……」
「最高の状態で最高のレディであるリュミエール様と輝く円形の舞台上で、命を賭した血飛沫舞うダンスを踊る――これ以上の愉悦は、無いでしょう! えぇ、ありませんとも!」
「ふぁ……そう、らね……?」
「御理解頂き、ありがとうございます。それでは、このまま医務室に居座るのも体裁が宜しくないので、リュミエール様のお部屋――は、まだ私には早いので、あのサロンの方へお運びさせて頂きますね」
未だ曖昧な状態のリュミエールへと、陽向はにっこりと有無を言わせぬ笑顔で提案し、腰砕けな彼女の身体下へと腕を回した。
「――失礼致します」
「へ……? ふぁ……っ!」
「それでは、参りましょう――私だけの、白夜の姫君?」
――俗に言う、お姫様抱っこである。外を歩く以上人目は気になるが、背に腹は代えられない。
現在の陽向にとっての最優先事項は、シュウたちから極力――確実に、この紅き暴君を遠ざけることだ。
第十階級闘士の彼女をお姫様抱っこで抱えたまま施設内を闊歩するだなんて、頭が沸騰しそうである――主に難易度的な意味で。
依然、彼等は呆然としているものの、これでシュウたちの安全は確保できそうだ。
そして陽向は医務室内へと残された友人へと、さり気なくアイコンタクトで任務完了――そして先の彼らの啖呵に、ありがとうの意を込めた合図を送る。
そうして陽向は彼女を抱え、室外へと脚を運ぶのであった。
「――やっぱ、お前ってスゲェわ……マジで」
退室の瞬間、陽向の耳へと届いたシュウの小さな呟きは――ほんのりと、暖かなものであった。
*
☞ congratulation!
大変お美事でございます。
ステータスに、ボーナスが加算されます。
┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━
【力】3
【技】3
【耐】3
【体】3
【魔】3
【精】3
【知】3
【速】3
【運】3 → 33
┗
☞ ボーナスにより、新規アビリティが発現します。
┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━
【三蔵】
環境適応性、知識・技術の吸収率、自己の成長性、
スキル・アビリティの発現率が極めて高い。
【四諦】
捻じ曲げ有られた運命は、好機と災禍を引き寄せる。
NEW!【毘紐天】
其れは柱、偉大なる柱。
世界の姿を維持し、反映させる――大いなる柱。
それは、超常の権現の力を纏う。
┗
☞ アビリティの発現に伴い、新たなスキルが発生します。
┏〖 ひなた の すきる 〗━
NEW!【ラーマ】
毘紐天、第七の権現――とある叙事詩の主人公。
それは薔薇色の、緋い瞳を持つ偉大なる英雄を纏うに等しい。
己の闘う意志を、確固たる力へと変化させる。
┗
☞ リザルトを終了致します――最早ナデポとか言う、レベルじゃないでしょう。
それでは、第二ラウンドの準備を行って下さい――この女の敵。




