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第九話 貪る太陽

「今日から此処が、貴様の部屋だ」

「――解りました」


 陽向はこの場所まで己を案内してきた管理員から掛けられた、ややぶっきらぼうな声に了承の意を述べる。

 新人戦より数えて四度目の試合を行った、その翌日――陽向は今まで暮らしていた宿舎とは、また別の棟へと足を運ぶ次第であった。

 それ理由は、言わずもがな――昨夜行われた試合によって、陽向たちには新人闘士としての評価における最終決定が為された。

 つまりは、新たな階級の割り振り――昇級である。

 そして、そのようにして陽向へと与えられた評価を受けて階級が上り……この場所に新たな居を構えることになったのである。

 依然として、陽向は闘士である――故にその身に与えられるのは住居は、闘士としての宿舎に他ならない。未だ、自由の身には程遠いのだから。

 ――されどこの度の評価により、新たに陽向へと与えられた場所は、一人部屋であった。

 陽向の視界――その部屋の扉を開けた先に映る光景は、紛れも無く単身用の住居だ。

 二段ではなく通常のシングルサイズのベッドに、木造りの物書き用机と椅子のセット。

 服をしまうためのクローゼットに、装備を収納するための大きなロッカー――貴重品を入れるための小さな金庫まで付いている。

 室内に存在するもう一つの扉を開くと――其処は、トイレとシャワールームになっていた。仕組みは解らぬが、シャワーの原理と同様にトイレの方も水洗であるらしい。

 陽向としても色々と突っ込みどころ満載の……正に単身用アパートの一室といった具合であるが、不便であるよりは余程マシであろう。

 通常、新人という立場を脱し、少しばかり身を上げたところで、その扱いはその前と大差無いものである。第一階級であろうと第二階級であろうと、多人数部屋でのルームシェアであるという環境が変わることは無い。

 しかしながらこの度陽向に与えられた環境は――それ程広くはないとはいえ、紛れも無く自分一人だけの為に開かれた空間であるのだ。

 要するに、陽向は一人で部屋を持つことが許された階級へと、その身を押し上げたということに他ならない。

 事実、今朝方その結論は掲示板に張り出され、新人たちが部屋の階級の上昇に伴う移動を行っている時――陽向にはわざわざ案内の管理員を迎えとして寄越し、今まで暮らしていた宿舎の上層階へと上るのではなく、更に上の階級の闘士たちが住まう棟へと連れて来られたのだ。

 ――新たに陽向へと与えられた階級は、第五階級。熟練の猛者が跋扈する、中級闘士の戦場であった。

 飛び級的な待遇は多少なりとも予想していたものの、陽向としても流石に一度に四階級も上げられるとまでは考えていなかったのである。

 朝食後に己の昇級と部屋の確認を行うためにと、掲示板の前に集まっていた新人闘士たちから陽向へと送られてきた視線に含まれていたものは、嫉妬、羨望、納得、畏怖――そして何より、安堵(・・)であった。


『あぁ――アイツと同じ階級にならなくて、本当に助かった』


 と――その目の数々が、如実に語っていた。

 それはある意味で当然とも言えようか――そもそも、新人はおろか下級闘士の中でも、魔法スキルを使える者などはほとんど存在していない。知識面・技術面としては当然のこと、適正が無い者たちが大半を占めるのだ。

 学習次第で身体強化スキル程度であれば、個人差はあれど習得も可能とのことであるが、通常は精々がその程度である。血の滲むような鍛錬を積んだところで、()に適正の無い者では、マッチ一本分の熱量へと変換させるのがやっとであろうか。

 よって、陽向以外にも――十二分の素質を有し、知識を蓄え、闘士になる前からある程度以上の魔法スキルを有していたエルネスト。瞬間束縛からの一撃必殺とも言える魔法スキル輝く刃(光剣デズモンド)を顕現させたデズモンドは、新人としては十分以上の力を有しているのだ。

 無論、純粋に戦闘技術が洗練されているシュウや、下級としても圧倒的なパワーとスピードで蹂躙するバレットの登場も――闘技場の経営側としては、豊作の一言に尽きるだろう。

 事実として、陽向だけではなく――シュウとエルネストは第二階級、バレットに至っては第三階級にまで足を掛けていた。

 皆揃って飛び級を果たした同室の仲間たちからは、陽向への賞賛と共に、必ず追い付くとの熱い意志も叩き込まれたのであった。そしてそれは中々に心地良いもので、陽向もまた彼等と同階級にての再会を誓った。

 そんな淡い感慨に耽っていた陽向へと、再度案内係を請け負っていた管理員より声が掛けられる。


「闘士ヒナタ――待望の一人部屋だな」

「私としては、昨日まで住んでいた四人部屋での生活も……中々に悪くなかったですがね」

「ほぅ、珍しいな? 新人や下級の時とは違い個人の部屋が持てるようになれば、大抵の奴は喜ぶものなのだがな」

「いえ、喜びが無いわけでも――ましてや不満があるわけでもありませんよ。落ち着いて一人の時間を取ることのできる場は、この環境においては特に希少ですからね」

「そうであろうな――闘士になるような者からすれば、中々の贅沢とも言えるだろう」

「それに、シャワーや水洗のトイレが付いていることには、多少驚きましたよ」

「……多少、か。その様子だと、これより前に貴様は水洗の設備自体は使用できる環境に居たように……まぁ、良い。詮索するのも、野暮というものだろう」

「お気遣い、恐れ入ります」

「ふん――一闘士相手に、根掘り葉掘り探るような真似はせん」


 そう言って管理員は軽く鼻を鳴らすが、その心遣いが陽向としても非常に助かるものであった。

 仮に問い質されたところで、陽向としても事情の説明など出来ようも無いのだから。

 ――しかし、と。

 人知れず小さな安堵を覚えていた陽向へと、管理員は向き直る。


「しかしながら……新人から一気に第五階級にまで上がった例など、過去に遡ったとしてもまず無いだろう」

「そうなのですか?」

「あぁ、考えてもみろ。新人である形式上の第零階級を抜けた後、その実力に応じて上の級へと割り振られることとなるが――通常は、第一階級へと歩を進める。見込みのある……少しばかりできる(・・・)輩でも、一つ飛び級で第二階級というところだ」

「成程――普通は、精々一つ飛ばしということですか」

「そうだ――それでも十二分に、優秀であることの証明になる。だからこそ、この度第三階級まで一足飛びに駆け上った……貴様と同室の者であったスキンヘッドの大男はおろか、第五階級まで飛んで来た貴様は……」

「大変な……イレギュラーである、と?」

「ふふっ、きちんと自覚しているではないか。いいぞ――判ってはいたが、顔だけでは無く、頭の方も良好な男は実に良い」


 そう言って、顔を近づけ――艶めかし気な指先で陽向の頬を撫でる管理員の彼女(・・)は、その青摺(あおずり)瞳を細めて、妖艶に微笑む。

 瑰麗(かいれい)花瞼(かけん)……言葉に劣らず。

 されど、蛾眉(がび)の下には熊鷹眼(くまたかまなこ)――美しさを携えながらも、獲物を狙う猛禽のそれに等しい様。

 先までの案内時における、事務的にも似た冷たさは、最早何処にも見られない。

 空気が膨張する、空間が沸騰する。陽向がこの世界(・・・・)に墜とされて、久しく感じることの無かった焦燥感が、全身の血管を駆け巡る。

 燃えるような代赭(たいしゃ)の長い髪を艶やかに揺らし、瑞々しい潤む花唇(かしん)を陽向の耳許へと近付けて――彼女は、こう言った。


「消えてくれるなよ、潰れてくれるなよ、死んでくれるなよ?」

「……何を、仰りたいので?」

「貴様は粒、だ。久しく私の前に現れなかった有能で、優秀で、稀有なる――粒だ」

「――成程。私は、貴女の御眼鏡に適ったというわけですか。やはり、只の案内係の管理員というわけでもなさそうだ」

「あぁ……自身で貴様への接触を申し出たからな。得てして昨今は、何処も彼処も凡夫ばかりだ。誇示する武勇は、偽りだらけではないか」

「貴方と言う日華(にっか)の前では、薄氷(うすらい)のような男は相対するまでも無く消え逝く、と……」

「良く――本当に、貴様は良く解っているな」

「男という生物は、女性の前でこそ理解を示したいものです。それが好みであれば、尚の事」

「口が回りよるわ――ならば貴様は、私を理解(・・)することが出来るとでも? この身を――この魂を蕩けさせる紅焔(こうえん)の如き熱情を……!」

「えぇ――それが、貴女の()でしたら。貴女と言う輝く紅鏡(こうきょう)の火照りを鎮めるために、私は何者にも耐え難い氷塵(ひょうじん)を纏った凍霞(いてかすみ)と成りましょう」

「私を抱き留めてくれると……貴様は、そう口にするのか。生半可な上っ面では、私の極夜(きょくや)は終わらぬぞ?」

「美女の前でこそ、この身体を張る価値がある――それが、男というモノですよ」


 ――ふわり、と。甘い香りが、陽向の鼻孔を擽った。


「ふふっ……うふふふふっ。楽しみにしているぞ、ヒナタ――早く、私の戦場まで上がって来い」

「畏まりました――私の愛しい斜陽(しゃよう)の姫君」

「ふふふふふっ……もう逃がさんぞ? 貴様は――私のモノだ」


 さらり、と。

 最後に赤日(せきじつ)のような情熱的な台詞と笑みを残して、彼女は身を翻して立ち去った。

 其処に残された陽向の前には、何処と無く残暑のような熱とが残留していた。

 彼女の姿が完全に見えなくなってから、陽向は自室の扉を閉じ、新しいシーツが敷かれたばかりのベットへとその身を投じて――一人、呟いた。

 真顔で、真摯に――切実に。


「……エライことになってしまった」


 それは、運命か――はたまた、悪目立ちした陽向の自得に依るものか。

 陽向が遭遇した初めての驚異――第十階級闘士。

 リュミエール・ディ・ソレインレミナスとの、邂逅であった。


        *


 ☞ 外的……が、ガ、ガガガ、……がいて外的……外敵――。

   不正な処理が為されました――プログラムを再実行します。

   ……。

   ………。

   …………。

   ……処理完了。

   新規プログラムを適用します。

   外的要因に伴い、ステータスが変化します。


 ┏〖 ひなた の すてぇたす 〗━


  【力】25

  【技】30

  【耐】10 → 5

  【体】20 → 10

  【魔】40

  【精】40 → 60

  【知】40

  【速】30

  【運】5 → 1


 ┗


 ☞ ステータスの変化及び外敵――修正、外的要因に伴い、

   アビリティーが変化します。


 ┏〖 ひなた の あびりてぃ 〗━


  【木鶏(もっけい)】+【白眉(はくび)】+【謫仙(たくせん)】+【明珠(めいしゅ)

  =NEW!【三蔵(さんぞう)

   環境適応性、知識・技術の吸収率、自己の成長性、

   スキル・アビリティの発現率が極めて高い。

  【帝釈天(たいしゃくてん)】→【✖LOST!】

  【末那識(まな)】→NEW!【阿魔羅識(あまら)

   自身の性質の成長に伴って、最適なスキル・アビリティに変化する。

  【阿那含(あなごん)】→NEW!【阿羅漢(あらかん)

   何者にも、動じない。

  NEW!【魄奇夜皇(ひゃっきやこう)月凛宮殿(チャンドラマハル)――崩落】

   赤烏(せきう)の輝きに、月の宮殿は焼け落ちた。

  NEW!【四諦(したい)】捻じ曲げ有られた運命は、好機と災禍を引き寄せる。

  【抖籔(とそう)】→NEW!【厭離(えんり)

   ――害悪的灰汁該飽敵摘……… →【✖LOST!】

  NEW!【飛輪(ひりん)の偏愛】

   知覚外からの悪意・害意・敵意を含む現象を遮断する。

   ニガサナイカラ――。


 ┗


 ☞ 新規アビリティ習得により、新たなスキルが発生します。


 ┏〖 ひなた の すきる 〗━


  【愛河(あいが)】自身の魔力を物理エネルギーを有した現象に変換し、操作する。

  【我空(がくう)】自身の身体能力を一時、飛躍的にUPさせる。

  【火雷(ほのいかづちの)大神(おおかみ)黒雷(くろいかづち)】→【✖LOST!】

  【禊黄泉穢(みそぎのよみけがれ)焚甦禍津陽守(やそまがつひのかみ)】→【✖LOST!】

  【天建誓約(あまたけうけい)編鴛圃(あめのおしほ)深薇命(みみのみこと)】→【✖LOST!】

  NEW!【天照武速(あまてらすたけはや)天津陽弧涅命(あまつひこねのみこと)

   日中のみ、行使可能。

   対象を圧倒的な熱量で焼き尽くし――消滅させる。


 ┗


 ☞ リザルトを終了します。

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