勇者(元)床の気持ちを知る
.
.
.
「ねぇシオン。もう機嫌直してよぉ。」
ティアが俺の肩をユサユサと揺らしている。
「大丈夫だよティア。俺は村人だし気にしてないよ。」
「もう~。パパも悪気はないと思うんだけどさぁ、何千とある世界を創ったから、覚えてないのよ~きっと。」
ティアは一生懸命俺を慰めてくれている。
やっぱりティアは優しい。
たまには、見た目の通り優しい女の子もいるんだな。魔王だけど・・・
今まで俺の事を想ってくれた女の子だなんて・・・
『シオン!私ね、貴方と共に生きていく。』
『ねぇシオン・・・私のこと、少しでも愛してくれた?私・・・貴方と、ずっと一緒にいたかった――――』
ふと、記憶を過ったのは俺の幼馴染みだった。そう言えばいたんだ俺には。ずっと一緒に育ってきた。彼女はいつも微笑んでいた。彼女はいつも俺を支えてくれた。
教会の庭で拾われた運命の子供。あの辛い世界の中を二人で支えあって生きてきたんだ。
彼女は魔王の金の塔を目前に、魔物の刃に倒れたんだ。
「なぁティア。人は死ぬとどうなるんだ?やっぱり天国に行くのか?」
「天国?」
彼女はキョトンとした顔をしていた。
「お嬢・・・ティア姉様。天国とは人間の中で、死んだら行くとされている、理想郷のことです。」
ティアは、キサラが愛称で呼んだことに喜び、キサラを思い切り抱き締めた。
「ち、ちょっと苦しいです。」
キサラが頬を染めているのをみると、やはり彼女自身も嬉しいのだろう。
「シオンさん。人間はその生を終えても魂は消えませんよ?記憶が消去され、器を変えて再び生を受けます。ですが、貴方の思っている女の子はいませんよ?」
「ママ!!」
いつの間にか椅子にすわり、共にお茶をすすっている精霊の女王がティアの変わりに答えた。
ってか、いつからいたんだこのヒト。
そんな事を考える俺を見て優しく微笑む女王。
ヤバイ。俺、新しい道を開いちゃいそうですよ・・・
ズガガガン!!!
とんでもない衝撃の稲妻が目の前に落ちた。
横を見ると笑顔だけど、目の笑っていないティアがいた。
「あらあら。ダメよぉ?ティア。お部屋では稲妻はメッ!!」
女王は笑顔のままにティアをたしなめた。
「ん?ちょっと待ってください女王様。今、死んだ彼女がいないと仰りませんでしたか?」
その時だった。
「ただいまぁ~」
一人の女の子がションボリとしながら部屋に入ってきた。
「あ!ユウ姉さん!おかえりなさい。」
そこにいたのは、背まで伸びた輝く銀色の髪。透き通るような白い肌に、ほんのりと青みのかかった瞳。
間違えようがなない。
「ユーシス!!」
「え?シオン?なんで・・・」
彼女は涙を一杯にして俺に抱き付いてきた。
柔らかな肌。甘い香り。彼女は柔らかな唇を俺の頬にそっと添える。
あぁ・・・死なせてしまった大切な幼馴染みのユーシス・・・
「って!!何でここにいるんじゃーーー!!!」
俺の魂の叫びがティアの豪邸に響き渡る。
「まさか、シオンと共にパーティを組んでいたとはね?私も、いくらなんでもシオンの力でこんなに早く私の処まで辿り着くなんて変だと思ったのよねぇ。」
今サラッと100くらいのダメージくらいました。
「どうりで、シオンのパーティを追えなかったわけよね?ユウ姉さんがいたのなら納得ね。」
「私は会ったわよねぇユウ。最後のオーブをシオンに授ける時にあなた、目を一生懸命反らしていたものねぇ。」
笑顔のままユーシスに近付く女王と、真っ青になって逃れるように少しずつ後ずさるユーシス。
「まぁ、デューリシアも帰って来たからいいわ?」
パン!っと女王が両手を叩くと、それまで部屋を充満していた圧力が開放される。
それにしても、俺はアホか?よく見ればこの二人はソックリじゃないか。双子と言うのだから、似ていて当然なんだけど、魔王の塔手前まで一緒にいた仲間と、性格や雰囲気は違うものの、よく見れば同じ顔だ。
清楚な見た目のくせにヤンデレなユーシスと、見た目が小悪魔的な優しいティア・・・
「デューリシア!!!」
とんでもない怒号とともに頭上に現れた筋肉ダルマがユーシスを抱き締めて泣きわめいている。感動的な親子の再会だ。
「娘を連れてきてくれたテオン君にはお礼しなきゃだな?って、テオン君?どこだ?テオンくーん。」
おいダルマ・・・あんた絶対にわざとだろう。
あんたが今踏んでいるのが、そのテオン君ことシオンですよ。床の心地好い暖かさをかんじる。きっと回りが冷たすぎるから。
遠ざかる意識の中で、最後の力を振り絞って突っ込みをいれた。
「アホ」
キサラの最後の一言がトドメの一撃だった。