勇者(元)心……折れる
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「改めて紹介するね?」
ティアは笑顔で両親を紹介する。もちろん面識は二人ともある。魔王を倒すための旅路。魔王を倒すには伝説級の武防具が必要だったから。
少なくとも母さんの御先祖の勇者は伝説の剣、我が愛刀光の剣を以て魔王を下したという。魔王を倒すには、どうしたって必要だった………まてよ?
「なぁティア…昔、俺の母さんの御先祖に勇者がいて魔王を倒したんだけど、その魔王は先祖かなんかだったのか?」
それを聞いたティアは首をかしげ、先祖ってなぁに?あと何て名前?ときく。
「確か…シルヴィアって名前の女の勇者だったんだけど。」
「シルヴィア?ん~……記憶にないなぁ。」
って、何代も前の御先祖様なんだからティアが知るわけ無い……って、まさかティアの年齢って…
そう頭によぎった時、ティアの深緑の瞳が深く、そして鈍く輝いたように見えた。俺は慌てて口を閉じる。
「ん~…私が知らないから、ユウ姉さんの担当かなぁ?」
「そうだティア。お前デューリシアを知らないか?暫く何の音沙汰もなくて、パパは心配で心配で…」
それまで二人の会話を黙って見ていた創造神であるティアの父親が会話に入ってくると、妖精の女王はパン!と両手を叩き、俺をチラ見し
「そうそう。ユウなら私見ましたわよ?人間の世界で…まぁ~あの子のことだから大丈夫ですよぉ。」
そう言って女王は柔らかな、そして意味深な微笑みで俺をみる。
デューリシア?ティアにお姉さんがいるんだ。俺が初めて聞く名前に想像を膨らませていると
「シオン。ユウ姉様はお嬢様の双子の姉でございます。」
先程逃げ出してティアにお仕置きされ、大きなたんこぶをこさえたキサラが教えてくれた。
「あらぁ~キサラちゃん?お嬢様だなんてよそよそしいのは嫌だわ。あなたはもう私達の家族なのよ?ちゃんとディーヴァの事もティアお姉ちゃんと呼んであげなきゃ~」
妖精の女王こと、ティアの母が笑顔でキサラの頭を撫でる。するとキサラは女王に抱きつく。本性はドラゴンだけど、まだ子供なのか甘えん坊にみえる。
口調は悪いけど。
「…まぁデューリシアの事は一先ずおいておいて…ティア!!アルブガルドの世界の神からから苦情が来ていたぞ?今回の魔王は弱すぎではないかと。魔王くの前のドラゴンの方が遥かに強かったと。お前にしては珍しいではないか。加減の度合いを間違えるなんて。」
創造神が言うと、女王に抱きついていたキサラは俺を指さし
「アルブガルドはシオンが行きました。」
と言った。
みんな…そんな哀れな目で俺を見ないでくれ。
俺一応勇者(元)ですよ?人間最強と言われてたんですよ?
「あ~…まぁ、そのなんだ。弱くても落ち込まなくていいんだからな?リオンくん。どこの世界も村人の設定は低めなんだよ。決して君だけが弱いわけじゃないから。な?だから元気出しなさい。」
………リオンではなくシオンで、村人でもなく勇者です……なんてとても言えない。あまりの恥ずかしさに声に出すことができないでいると、
女王に抱きついているキサラが意地悪そうな笑顔で俺を見ている。
ティアはティアで、俺の方に手を伸ばしたままの状態で口をパクパクしている。
良いです。言葉が見つからないなら無理に慰めてくれなくても……
「ふぇぇぇん!!」
涙がこんなにしょっぱいものだと初めて知りました。
俺は走ってその場を逃げ出した。