勇者倒れる
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プルルルルル……
けたたましく鳴り響く音が何処からともなく聞こえてくる。魔王に聞いた話では高速移動手段の魔力機関車とか言うものだそうだ。
ゲートでは使用者の魔力を大量に使用するのに対して、この移動手段は個人の魔力を使用しない。しかも一度に数人を同時に運べると言うのだから驚く。
改めて魔界の繁栄の凄さに目を奪われた。
暫く機関車で移動したあと駅で降りた俺達を迎えてくれたのは…
「ド、ドラゴン!!」
俺は慌てて剣を抜き戦闘体勢に入ると、巨大なドラゴンはゴロゴロ言いながら魔王に鼻をすりつけている。
え……もしかして甘えているのか?
魔王が大きな鼻の頭を撫でると、一際大きな音でゴロゴロと喉を鳴らす。
猫?
魔王に促されドラゴンの鼻を撫でると……
灼熱の火を吹かれ、危なくこんがり焼けた肉になるところだった……
「って、ちょっとまてー!!なんだその偉い違いは!!」
俺はドラゴンに突っ込みを入れると、鼻で笑ったドラゴンは光に包まれみるみる小さくなっていき、やがて人形の小さな女の子の姿になる。
「お嬢様。なんですかこの貧相な男は。」
仮にも勇者の俺をつかまえて貧相とはよく言ってくれる。俺は光の剣を抜きドラゴンの少女に向けるが、彼女はまるで俺を相手にせずに魔王にはなしかける。
「お嬢様。それよりお仕事が溜まっています。スケジュールは時間通りにこなすように言ってあったではありませんか!」
鼻息荒く言う彼女は興奮しているのか、口の端から炎がちらついている。
「まぁまぁ!キサラ。私はこのあとお父様達のところへ行かないとなりません。お仕事はキサラに任せますわ?」
魔王がノンビリ口調で言うとドラゴンの少女キサラは
「ダメでございます!!」
と魔王に苦言する。
「おい…キサラとか言ったか?ドラゴンの娘。ティアが嫌だと言ってるじゃねーか!いい加減にしておけよ?」
俺がついに我慢できなくなり口を挟むと、キサラは文字通り蛇が蛙を睨むような目付きを俺にむける。
「そもそも人間が何故このような高貴なお嬢様と供にいるのだ。無礼であろうが!」
「……悪いが誰に何を言われても、俺はティアの傍から離れる気はねーぜ!!」
初恋パワーをなめんなよとばかりにいい放つ。
ふっ。決まったぜ!!
その瞬間
「もうシオンったらぁ」
と甘い声とともに俺の肩をはたく。
ズガァァァァァァァン!!
とんでもない衝撃がきた。
痛恨の一撃だった。
遠退く意識のなかうっすらと聞こえるのは、え?なんで?と慌てるティアと、哀れみの目で見下ろすキサラの瞳だった。