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勇者魔界に降り立つ。

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俺は今長い通路を歩いている。

横には鎧を脱ぎヒラヒラとした白いドレスを纏っている魔王。惚れた弱みと言えばそれまでだけど、少しは魔王としての威厳くらいは持ち合わせていてほしい。

でなければ、旅の途中で倒れていった仲間があまりにも救われない。


「なぁ魔王。どこに向かって歩いているんだ?」


少し前に出た魔王は振り向き、俺をキッと睨み付けた。

「……魔王と呼ばないでくださいと言ってるではありませんか。それとも勇者様は物覚えがよろしくないのですか?」

頬を膨らませて怒る魔王……可愛い……

「……ではティア…俺達はどこへ向かっているんだ?」

魔王に教わった愛称で名前を呼んであげると、先程までむくれていた魔王は俺の腕をとり、最高に可愛い笑顔で爆弾発言をしやがった。


「どこって…お父様とお母様にシオンを紹介しにだよ?」


≫勇者は逃げ出した

しかし、魔王は俺の服の襟を掴み行かせない。つまり回り込まれたって奴だ。

確か誰だったか言っていた。魔王からは逃げられないと。魔王は笑顔で俺の襟を掴んだまま引き摺るように歩を進めるのだった。


金の塔最上階

そこには広大な庭園になっていた。地上にも中々見られないようなきらびやかな装飾の数々。さして芸術など興味もない俺でもその凄さはわかる。

庭園の中央には大きな泉がキラキラと水を湛え、泉の中央には扉がみえた。

ゲートだ。

「ティア?どこに行くんだ?この塔に両親がいるのではないのか?」

「魔界よ?お父様とお母様に会うのにシオンの格好じゃねぇ…。あなたは私のパートナーとして相応しい服を着ていただかないとだから、一度私の部屋へ参りましょう。」

そう言うと魔王は俺を引き摺ったままゲートをくぐる。





――――――――――――――――

――――――――――

――――


魔界は暗く……闇の奥底…魔物どもが弱肉強食の争いを繰り広げる世界……

ではなかった。


「あら!そこの素敵なお兄さん寄って行かない?安くしておくわよ?」

白い二枚の羽を広げた見た目天使のような女の子が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「あ…あの…」

「フフフ。私と一緒に素敵な時間を…………げっ…ティア!」

天使は青ざめ慌てて腕を放す。

魔王の指先が光った気がした。次の瞬間、天使は物凄い速度で空の彼方へ吹き飛んでいった。

「きゃあああ!!ごめんなさいいいぃぃぃ………」

声が聞こえなくなり天使の姿が見えなくなると、魔王は俺の方に振り向き

「さ。行きましょ」

と言って手を繋いできた。

顔は笑っていたけど、目が笑っていない。そしてあの威力…まともに戦っていたら俺はどうなっていたのだろう。背筋を冷たいものが走った。


改めて魔界を見渡すと、あちらこちらに家やお店の明かりが見える。なんだ?魔界入口駅?

駅ってなんだ?俺は始めてみる魔界の文明レベルの違いに恐怖すら感じた。

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