勇者恋に堕ちる
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眼前にそびえ立つ天にも届くような金の塔。
終に俺はここまで辿り着いた。魔王が地上に現れてから数十年。大地は荒れはて海は枯れた。魔物が街を闊歩し、幾つもの国が滅んでいった。
16歳の誕生日
城から俺を迎える騎士団が家にやってきた。父さんは慌てふためくが、母さんは……静かに目を閉じ泣いていた。
「あなた…シオン…隠していてごめんなさい。」
その時始めて知る母の家系。
母の家系はかつての大魔王を倒した勇者の血筋だったのだ――――
血を吐くような戦闘を繰り返した。時には仲間の裏切りも経験した。政治的なお飾りにも使われ、何度も何度も死の淵を歩いてきた。
地底の奥深くに行き、天空の城にも行った。
苦労の末に辿り着いた大魔王の居城……金の塔。
それが何故だ……何でこうなったんだ…
「何で大魔王の居城の入口に『勇者サマはこちらへ』とか書いてあるんだよ!!しかもご丁寧に入城受付に名前を記載とか意味がわからねー!!」
「全く…何を今更言っているのですか?ちゃんと名前を記載して戴いたではありませんか。それに今は物騒な世の中ですからねぇ。それで?お話しを戻しますがどうしても私のモノにはならないと?」
「受付にバニーガールな格好の龍族の娘が笑顔でお願いするから仕方なくだなぁ…ついでに物騒な世の中にしたのはお前等魔族だぁ!!今更命乞いなんか聞かねーぜ?大魔王よ!」
俺は全霊の力を込めてこの全身真っ黒な鎧に包まれ、背中には大きな六枚の翼をはためかせた大魔王に突っ込みをいれた。
とにかく俺は勇者だ。眼前の大魔王を倒さなければ人類に平和は訪れない。俺は天空の神に授けられた光の剣を天に掲げる。すると刀身が光に包まれた。
剣を振り上げたその時、今まで死んでいった仲間達の想いが全身に流れて来た気がした。
そう…多くの無念の死を遂げた仲間達、人類の希望を乗せた光の剣を大魔王の兜目掛けて降り下ろした。
!!
「痛~い。」
兜が割れ頭に手をおく大魔王。
勝機は今しかない。俺は再び大魔王の頭部に目掛けて光の剣を降り下ろした…………
「ちょっと~傷になったらどうするのよ~」
すんでの所で降り下ろした剣を止めた。
「あの~あなたはどちら様ですか?」
「は?何を言っている?私は大魔王ディ―ヴァ・リアではないか?忘れたとは言わせないわよ?」
割れた兜を脱いだ奴は…いや、彼女は
背まで伸びた白銀の髪を揺らしている。透き通るような真っ白な肌。吸い込まれるような深緑の瞳。細く伸びた肢体……稲妻が全身を駆け巡った。
頭が真っ白になる。
大魔王は不思議そうに俺の顔を見上げ
「ん?どうした?勇者よ。問題ないのならお話しを続けるわよ?どうすれば勇者は私のモノになってくれるのですか?やはり世界の半分?」
混乱している俺を大魔王は上目遣いに言い寄る。
ふと鼻につく甘い香りが心地好い。
「あの…勇者?」
「俺の全てはお前のモノだ。」
「は?」
俺は生まれて始めて女の子に好意をもった。一目惚れだった――――
母さん……女神は地上にいたよ……
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