表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河エクスプレス  作者: 夏川 俊
8/23

8、画策

8、画策



 さて、仕事は入ったが、気乗りがしない。 ・・マータフに相談したら、きっと反対するだろう。 しかし断ったところで、あのシュタルトが、作戦の全貌を知る俺を、そのまま放置しておくはずは無い。 俺の推察通り、偏狭な領域で、いきなりミサイルをブチ込んで来るに決まっている。 例え、首尾良く仕事が無事終わったとしても、安心は出来ない。 間違いなくヒットマンが、俺を抹殺しに来る事だろう。 ヤツの性格は、よく知っている。 ヤなヤツに、見初められちまったな・・・! 万が一、作戦がうまくいって終了したら、ソッコーでトンズラだ。 しばらく、この辺りから姿をくらまそう。 オリオン辺りで、食料品の急配でもして、ほとぼりを冷ますか・・・


 シュタルトとの会食の後、再びルーゲンスが、リムジンでクーパーの宿まで送ってくれた。

 相変わらず、静かな車内・・・ 窓の外には、繁華街のネオンが瞬いている。

「 この仕事・・ 本当に請けるのかね? 」

 俺の方は向かず、窓枠に肘を掛け、外の景色を眺めながらルーゲンスが尋ねた。

「 断ったら、消されるんだろ? それくらい承知してる。 提督は、元、俺の上官だぞ? あの人が考えている事は大体、想像がつくよ 」

「 ・・・・・ 」

 ルーゲンスは、何か言いた気な雰囲気で、葉巻に火を付けた。

 俺は尋ねた。

「 請ける以外の選択肢は、はたしてあったのか? 」

 ルーゲンスは答えた。

「 ・・・無いね 」

「 だろ? 」

「 だが、提督が想像もつかなかったような結末にする選択肢は、ある 」

「 何の事だ・・? 」

 ルーゲンスは、くゆらす葉巻の煙越しに、俺の顔をじっと見据えながら答えた。

「 両方に、消えてもらうのさ・・・ 」

「 ・・・何だと? 」

 捨て置けない発言だ。 『 両方 』とは、どういう意味なのか・・・?

 俺は、ルーゲンスを見つめ返し、その謎解きを求めた。 彼も、じっと俺を見つめている。本当に、信用出来る者かどうか・・ そんな判断をしているような、真剣な目だ。

 やがてルーゲンスは、俺の目を見据えつつ、静かではあるがハッキリした口調で、驚くべき発言をした。

「 ・・閣下は、皇帝軍の品位を、著しく汚しておられる。 おおよそ、将官には相応しくない人物だ。 閣下が、ご存命であるが故に、無駄に命が失われ、無益な浪費が繰り返されていく・・・! 」

 何と言う発言だろう・・! 他人が聞いたら、ソッコーで留置・・ ヘタすると、反逆罪で銃殺だ。 一般兵士ならまだしも、ルーゲンスは親衛隊員・・ しかも、将校だ。 統制を管轄する側の人間であるはずなのに、この発言は、にわかには信じがたい・・・!

 俺は、慌てて口に人差し指を立て、小さく、ルーゲンスに言った。

「 ・・シッ! 」

 俺は、運転席と、セカンドシートを指した。 俺を見つめたまま、ルーゲンスは答えた。

「 エンリッヒとブルックナーは、大丈夫だ 」

 ・・・分からんぞ? スパイだったら、どうする? バルゼー元帥だって、部下の裏切りで失脚したんだぞ・・・?

 警戒を解こうとしない俺に、ルーゲンスは言った。

「 ブルックナーのハインツ家は、シュタルトのヤツに乗っ取られ、領地も、全て取り上げられている。 お父上のハインツ少佐は、先のM―46会戦で戦死されたうえ、兄のマインナー中尉も、タイタン会戦で戦死している。 ・・いや、両名とも『 戦死させられた 』と言った方が正解かな 」

( ・・タイタン・・! )

 俺も、過去に参加した作戦だ。 戦史上では皇帝軍の勝利となってはいるが、参加部隊のほとんどが壊滅した、典型的な消耗戦だった。 俺に言わせりゃ、立派な負け戦だ・・・ とにかく第2連合艦隊には、マヌケな貴族将官が多い。 囮にされた艦隊が、かなりいたようだ。 囮艦隊に群がって来た解放軍を、シュタルトを筆頭とする無能将官どもは、友軍ごと攻撃したのだ。

 俺は、呟くように言った。

「 タイタンか・・・ 思い出したくも無い会戦だな。 俺のいた第7艦隊は、エサにされたんだ。 確か、第5艦隊の連中なんかは、解放軍の真正面から突っ込まされてたな 」

 ルーゲンスは言った。

「 ブルックナーの兄は、その第5艦隊の護衛艦に乗艦していたんだ 」

 運転席のバックミラーに、ブルックナーの訴え掛けるような視線があった。 じっと、俺を見つめている。

 無残に全滅させられた艦隊・・・ あの囮艦隊に、彼の兄は、いたのか・・・!

 俺の脳裏に、解放軍の集中砲火を浴びながら、四散していく艦隊の姿が甦った。 『 生け贄 』にされたのは、誰の目から見ても明らかだった。 だが、誰1人、それを言う者はいなかった・・・

 ルーゲンスは続けた。

「 エンリッヒは、息子2人を、タイタン会戦で失っている。 元は、第4艦隊の副官だ。 無益・無謀な命令に背き、作戦を実行しなかった為に役職を追われ、降格されて、艦隊勤務から外された 」

( 元艦隊副官か・・・ 階級は、佐官クラスだな。 どうりで、雰囲気がある男だと思ったぜ )

 セカンドシートから前を見据えたまま、静かに、エンリッヒは言った。

「 命令に背くのは、軍人の恥であります・・・ しかし、部下の命を、無駄に危険にさらすのは、司令官としての恥じである、と私は思います。 どちらを優先するか・・・ あの時の、私の判断は間違っていなかったと、今でも私は、確信をしております・・・! 」

 佐官クラスから下士官では、かなりの降格だ。 耐え難い生活を経験したと推察される。

 エンリッヒは続けた。

「 本来なら軍法会議に掛けられ、銃殺か重営倉にて終身刑のところ、ルーゲンス殿に拾われ、親衛隊員として置かれております。 私も、軍人の家系に育ち、他の職業を知りません・・・ どのような形にせよ、軍籍を抹消されず置いて頂けた事に感謝しております 」

( ・・元は、将校だ。 本来ならば、艦隊を率いていたいのが本音だろう。 謙虚な男だ。 コイツは、信じられる・・・ )

 ルーゲンスの言う通り、この2人は大丈夫だろう。

 俺は言った。

「 あんたらの素性は、良く分かった。 どうすれば良いんだ? こんな話しを切り出したと言う事は、それなりに作戦が出来てるんだろう? 」

 ルーゲンスが答えた。

「 予定通り、君には、ヤミ商人から仕事を貰ってもらおう。 解放戦線の連中をおびき出すまでは、そのままだ 」

 俺はタバコを出し、火を付けながら言った。

「 そんでもって、シュタルトが出張って来る。 お友だちの、ゲーニッヒ君もな・・・ 」

 ルーゲンスは言った。

「 解放戦線を蹴散らした後、ゲーニッヒの艦で、シュタルト提督を抹殺する・・・! 」

 ・・何だとっ・・?

 俺は尋ねた。

「 と言う事は・・ 事前に、ゲーニッヒの艦を乗っ取ると言う事かっ・・? 」

 ルーゲンスの目が、ネオンの光に反射し、キラリと光った。

「 いかにも・・! 『 シリウス 』の主砲なら、提督の乗艦『 アンタレス 』を、瞬時に撃破出来る 」

『 アンタレス 』は、提督専用の旗艦だ。 ・・旗艦ではなく、高級大型クルーザーと言った方が良いだろう。 贅を凝らしたバースタンドや遊戯室、温水プールまである代わりに、兵装がほとんど無い。 口径の小さな高角砲が、数門あるだけだ。 大体、こんな艦で作戦に参加すること事態、バカげている。

 ルーゲンスが続ける。

「 『 アンタレス 』は、全クルーが、女性型アンドロイドだ。 提督と、運命を共にする人命は無い 」

 無駄死にする部下は、いないワケか・・・ そりゃ、好都合だな。 『 シリウス 』の60センチ 4連キャノン砲、3門で斉射してやれば、木っ端微塵だろう。 ・・問題は、『 シリウス 』の乗っ取りだ。

 俺は尋ねた。

「 どうやって、ゲーニッヒを拘束するんだ? 」

 ルーゲンスは、しばらく考え、答えた。

「 ゲーニッヒは、部下からの信頼が無い。 乗艦している将兵は、先代艦長のバルゼー元帥を敬愛していた将兵たちだからな・・・ ゲーニッヒさえ拘束出来れば、後は、うまくいくだろう。 こちらの作戦に賛同する者が出て来る可能性すらある。 ・・問題は、艦内の見取りだ。 『 シリウス 』は、ごく一部の関係者しか、内部の詳細が分からない。 ・・私のコネを使えば、潜入は出来る。 だが後は、自力で動き回ってもらうしか、今のところ方法は無い。 問題は、そこなのだ・・・! 」

「 おいおい・・! 随分、行き当たりばったりじゃないか。 誰が、それをやるんだ? 『 信頼出来る 』あんたの部下か? 肝心な、ソコがしっかりしてないようじゃ、この作戦は失敗に終わるぞ? 」

 ルーゲンスにも、それは理解出来ているようで、俺の言葉に、彼は沈黙した。

 セカンドシートに座っていたエンリッヒが、俺の方を振り向いて、静かに言った。

「 ・・・グランフォード殿。 それでも、この作戦は、やらなければならないのです。 貴殿は、このままでは、必ず死ぬ運命にあります・・・! 解放戦線の連中が、あなたの船に近付いて来た時・・ ゲーニッヒが、解放戦線の連中だけを狙って攻撃すると、お思いですか・・・? 」

( ・・何? )

 連中は解放軍を、俺の船ごと、フッ飛ばす気でいると言うのか?

 俺は、ルーゲンスに目をやった。 無言の、彼。

( ・・・そういう事か・・・! )

 読めたぞっ・・! デービスたちも、これでやられたんだ・・! 情報が、バレてるだけじゃない! エサにされたんだ! ちくしょうっ・・!

 俺は言った。

「 性懲りも無く、囮作戦か・・! 群れて来た所を敵味方関係なく、とにかくブッ放すだけの、低脳極まりない作戦・・! 俺の仲間たちは、みんなこれでヤラれたんだな・・・? 」

 ルーゲンスは、静かに頷いた。

「 ちくしょうっ! あのブタ野郎・・! 俺の仲間たちを・・! 」

 危険な運搬と知りつつ、商談を持ち掛けて来るヤミ商人も憎いが、シュタルトは、それをまんまと利用している訳だ・・・!

 俺は言った。

「 このままだと俺は、間違いなく宇宙のチリになるって事か・・・! 」

 状況は、エライ事になっている。 早急に手を打たないと、マジでヤバイ・・・!

 俺は提案した。

「 ツメなくちゃ、イカンな、早急に・・・! よし、3人とも、俺の宿へ来てくれるか? 」

 常識的に、親衛隊の連中を簡易宿に招待する事などあり得ない。 しかし、場合が場合だ。逆に、宿泊検査を執行するというシチュエーションを立ててもらおう。 宿の連中は怯えるだろうが、近付く者もいないだろうし、好都合だ。 この件に関しては、クルーの皆にも了承していてもらわなくてはまずい。

 俺は、親衛隊を宿に招待すると言う、前代未聞の行動を、実行に移す事にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ