表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河エクスプレス  作者: 夏川 俊
19/23

19、効いた保険

19、効いた保険



「 ようし! 全員、両手を挙げろッ! 」

 荒々しくドアを開け、突然、武装した兵士たちが会議室に乱入して来た。 バウアー率いる、決起部隊だ。

 ・・始まったぞ・・!

「 なっ・・ なんだ、お前らはっ! 」

 ラインハルトが立ち上がり、叫んだ。 会議室の中は、騒然となった。

 バウアーが、兵士の中から歩み出て来ると、ラインハルトに向けて拳銃を構え、言った。

「 副艦長殿、両手を挙げて頂けますかな? でないと、不本意ながら、引き金を引かねばなりません 」

 バウアーの拳銃を凝視しながら、ラインハルトは、ゆっくりと手を挙げた。

 兵士たちは、素早く部屋の各所に展開し、将校たちに手錠を掛け始める。

 ゲーニッヒが言った。

「 バウアー大佐! これは一体・・ さては貴様、謀反を起こす気だな・・・! 」

 ・・もう起こしてる、つ~の、アンタ。 さっさと、お縄、頂戴しろや・・・

 バウアーは言った。

「 ゲーニッヒ長官。 貴殿らの天下は、今日で終わりだ・・! 我々は、元帥閣下をお助けし、この艦を制圧する。 貴殿らには、軍法会議が待っておる。 覚悟せい! 」

「 ナ・・ ナンだとうぅ~・・? そうか、元帥を脱走させたのも、お前たちだなっ! おのれ、こしゃくな・・・! 」

 悔しがるゲーニッヒ。 しかし、武装した兵士が相手では、どうしようもない。 ゲーニッヒは、バウアーを睨みつけながら両手を挙げた。

 バウアーが、全員に聞こえるよう、大きな声で言った。

「 全員、拘束するっ! 後ほど吟味し、我々の仲間と判断したならば、解放する。 しばし、待たれよ! そこの親衛隊員殿も、大人しく我々の指示に従って頂こう 」

 指名されたブルックナーが立ち上がり、言った。

「 このような狼藉・・ 本部は、認めないぞ! 私は、情報局の者だ。 ゲーニッヒ長官以下、即刻、全てを解放されよ! 」

 中々に、良い演出だ。 サマになっとる。

 バウアーは言った。

「 貴殿の指示に、従う訳には参らぬ。 我々は、無血制圧を望んでいる。 大人しく、我々の指示に従って頂きたい 」

 ブルックナーは、手に掛けていた拳銃から手を離すと、両手を挙げた。 兵士2人が、ブルックナーに取り付く。

「 親衛隊候補生殿。 拳銃を預からせて頂きます 」


 間もなく、会議出席者全員が拘束された。 まずは、第1段階は成功だ。

 手錠を掛けられた1人の将官が、バウアーに声を掛けた。

「 ・・バウアー! オレも、拘束するのか・・・? 」

 どうやら、バウアーの知り合いらしい。

 バウアーは答えた。

「 3ブロックの、ガーナー大佐か・・・ お前さんは、おそらく解放されるだろうが、ここは、ひとまず拘束させてくれ。 先の、元帥の事もある。 今は、オレの部下も、全部は信頼出来んのだ。 ここにいる連中だけで、まずは、橋頭堡を築く・・・! 」

 手堅い男だ。 軍人は元来、こうあるべきだ。

 その時、決起部隊の中の、1人の兵士が叫んだ。

「 全員、動くなッ! 」

 構えられた銃口は、バウアー大佐の方を向いている。

「 ! 」

 その兵士は、将校たちに手錠を掛けている他の兵士たちを見渡しながら言った。

「 全員、銃を置き、手錠の鍵を渡してもらおうか・・・! 」

 裏切り者だ・・! やはり、内通者がいたか・・・!

 バウアーの傍らにいた兵士が、銃を床に置きながら、バウアーに言った。

「 大佐殿、コイツ・・ 我々、第八ブロックのヤツでは、ありませんっ! どこから紛れ込んで来たのか・・・! 」

 バウアーの顔面が、蒼白になる。

「 ・・くそうっ! 手下が、紛れ込んでおったか・・! 」

 内通者の兵士は、拘束されている幹部の方を向いて言った。

「 タイラー少佐殿! 伏せておきましたが、自分は、こいつらの動きを察知しておりました! 」

 警務部の職員か・・!

 手錠を掛けられたタイラーが、嬉しそうに答える。

「 でかしたぞっ・・! 2等警務官に昇進だ。 早く、私の手錠を外せっ! 私、自らが、反逆者共を射殺してくれるわ! 」

 手錠を掛けられたゲーニッヒが、不敵な笑みを浮かべ、言った。

「 どうやら、形勢逆転のようだな、バウアー・・・! 我々を、軍法会議に掛けるだと? 片腹痛いわ! 今すぐ、貴様を葬ってやる。 ・・おい、私の手錠も外せっ! 」

 男は、銃を構えたままゲーニッヒの所へ近寄り、その手錠を外し始めた。 その男の頭に、ゴリッと、拳銃が押し付けられる。

「 ・・・!? 」

 ゲーニッヒの手錠を外す男の手が、はたと停まった。 薄く開いたドアから伸びて来た手の主は、隣の部屋に待機していたシュタイナーだった。

「 2等警務官、昇進おめでとう。 ついでに、階級剥奪だ。 両手を挙げろ・・・ 早くっ! 」

 男は、ゆっくりと手を挙げた。

 ・・・ふう・・・! 念の為に、奥の手を控えておいて良かったぜ・・・!

「 貴様・・ 元帥の、侍従兵だったヤツだな・・・! 」

 ゲーニッヒが、シュタイナーを見て言った。

「 いかにも。 覚えて頂いていたとは、光栄ですな、ゲーニッヒ長官。 パーティーの予定は、キャンセルした方が良さそうですね 」

 男に拳銃を突きつけながら、皮肉たっぷりにシュタイナーは答えた。

 しかし、シュタイナーに拳銃を突きつけられた男は、手を挙げながらも不敵に笑い、言った。

「 ふっ、愚か者が・・・! 私が、ここへ単身で来たとでも思っているのか? 」

 ・・・ヤバイ。 他にも、別働隊がいそうな言い方だぞ・・・!

 男は、続けて言った。

「 先程、無線で合図を出しておいた・・! 警務隊が、やがてこちらにやって来るだろう。 お前たちも、これで終わりだ! さあ、どうする・・? 全員、ここで自決するか? 」

 この野郎・・! 用意周到なヤツだ。 事態は、二転三転している。 ヘタをすれば、銃撃戦・・ こちらには、人質もいるから、手はあるだろうが・・ 事態は、長引く事になりそうだ。 その上、他のブロックの警務官も増援に来たら、それこそ、収拾がつかなくなる。 ブロック同士の戦闘も考えられ、シリウス艦内は、内戦状態だ。 それに・・ モタモタしてたら、アーウィンに着いちまう・・! どうすればいい・・・?

 その時、ふいに、ニックの声がした。

「 残念だが、お友達たちは、お前さんを見捨てたぜ! 」

 通路側正面のドアを開け、拳銃を構えたニックが部屋に入って来た。 後ろには、男が言っていた警務官、数人がいる。

( ・・・どういう事だ? )

 ニックは言った。

「 トイレで、タバコふかしてたらよ・・ こいつらが来たんだ。 最初、銃で脅して大人しくさせてたんだがよ、事情を聞いたら、伏兵だって言うじゃねえか。 ヤバそうだったからよ、オレから全て話してやったよ。 そうしたら、こいつら、オレらの方に付くってさ。 アンタ、人気無いねえ~! 」

 男は、真っ赤な顔をして、彼らに言った。

「 きっ・・ 貴様らっ・・ う、裏切ったなっ! 」

 それに対し、銃を構えていた警務官の1人が答えた。

「 フザけるなっ! もういい加減、あんたみたいなゴマ擦り野郎には、ウンザリだ! それに・・ オレらは、大麻や横流し食料品の管理官じゃねえっ! バルゼー元帥がいた頃は・・ シリウスの乗組員である事に、みんな名誉と誇りを持っていたんだ! あんたらこそ、これでもう終わりだっ! 好き勝手しやがるあんたらには、もうついて行けんっ! 」

 ・・・これで、終了だな。 まさか、保険のニックが、こうも役立つとは思ってもいなかったぜ・・・! よし。 ここで、ダメ押しといくか・・・

 俺は、通気口の中から言った。

「 ゲーニッヒ! 投降しろ! ダクト内には、武装した連中が、お前らに銃口を向けて待機している。 蜂の巣になりたくなかったら、大人しくするんだな。 ・・まあ、コッチは、その方が手っ取り早いから、助かるけどよ・・・ さあ、どうするっ? 」

 俺の声に、手錠を掛けられた将校たちは、不安気な表情で各自、天井を見上げ、ザワつき始めた。 完璧なフカシではあるが、彼らからは、ダクトの中は見えない。 見えないだけに、連中の不安をあおるには好都合だ。

 バウアーが言った。

「 ゲーニッヒ。 観念しろ・・! これまでだ 」

 歯軋りをし、手錠を掛けられた両腕をワナワナと震わせていたゲーニッヒだったが、やがて観念したのか放心したような表情となり、力なく、崩れるようにイスに座り込んだ。

 ・・・会議室の制圧は、無事に完了した・・・!


 拘束後、ダクト内から出た俺は、バウアーに進言した。

「 大佐。 ここは、シュタイナーとニック、警務官たちに任して、ブリッジに行こう! 第2段階だ 」

「 了解! もう、ダクトの中は、通らなくていいですぞ? 我々は、事実上、シリウスを制圧している。 ブリッジを占拠し、バルゼー元帥閣下に権限委譲するまで、あなたが臨時に副艦長代理を務めて下さい。 ・・おい、バート曹長、ハドソン伍長! 一緒に来てくれ! 」

「 はっ! 」

 近くにいた下士官が、駆け寄って来る。

 俺は、ブリッジに向かう廊下を急ぐバウアーの後ろから声を掛けた。

「 お・・ おい、ちょっと待て・・! 副艦長代理だと? ナンだ、そりゃ? そんな話し、聞いてないぞ? 副艦長代理は経験済みだが・・ 軽巡だ。 佐官経験も無い者が、戦略空母の副官なんぞ出来るかよ! しかも、第1連合艦隊の旗艦だぞ? 」

「 意外と臆病なんですな、グランフォード殿 」

「 茶化すなよ・・! 他のブロックに、佐官クラスの適任がいるだろう? さっきの、ガーナーとか言う大佐は、どうなんだ? 」

 デジタル式のカードリーダーが備えてあるドアを、IDカードで開錠しながら、バウアーは答えた。

「 ヤツは、信用出来ますが・・ 元帥閣下が艦長のイスに座るまで、我々のメンバーで事を成すべきです。 ご協力、お願い致します! 」

 ・・だったらいっそ、ソフィーにしたら? アントレーって手もあるよ? だめ・・?

 俺は、渋々、代理を引き受ける事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ