11、決行
11、決行
『 接触して来たか・・! ランスと名乗ったんだな? ランス・リドラー・・ 地下組織のスパイで、指名手配 主要ナンバー3の内の1人だ。 番号が分かれば、GPS解析で居場所が特定出来る。 でかしたぞ、グランフォード! 』
「 出航は、明日の午後だ。 万事、宜しく頼む。 俺は、積荷作業が終了次第、アントレーと一緒に、組合事務所に行く。 エンリッヒとブルックナーにも、伝えておいてくれ 」
『 了解した。 組合事務所で、君の顔が、バレる事は無いのか? 』
「 クルーの緊急調達に、港湾センターに行く事はあるが、組合事務所には、行った事は無い。 大体、俺は、フランチャイズには加盟していないしな。 用が無いよ 」
『 そうか。 なら、問題は無いな。 アントレーと、君の架空身分証明書を作成しておいた。 組合担当者に渡しておくから、受け取って乗艦してくれ 』
「 親衛隊 直々の紹介者なら、身体検査もパスだな。 これからは、ヤバイ時に、その偽造証明書を使うか・・・ 」
『 悪用するなよ? 私のサインも入ってるんだ。 バレたら、私も憲兵に降格され、前線のMP指令所へ左遷だ 』
「 今度は、エンリッヒに拾ってもらう番だな 」
『 嬉しいね 』
俺は携帯を切ると、宿へ向かった。
「 はい、カエルさん。 チーズ・フォンデュよ? 熱ぅ~いうちに、召し上がれ 」
「 おお~、これはウマイ。 ソフィーは、料理が上手だねえ~ パクパク 」
「 こっちは、ハンバーグ。 目玉焼き、乗せる? 」
「 いいねえ~ ソースは、デミグラスかな? 」
「 トマトソースよ。 ソフィー、トマトソースが好きなの。 はい、どう~ぞ 」
「 う~ん、おいしいねえ~ パクパク。 ごちそうさん 」
「 デザートは、いちごのショートケーキとプリンがあるの。 カエルさん、どっちがいい? 」
「 おお~、どっちも、おいしそうだねえ~ そうだなあ~ プリンにしようかな? 」
「 カエルさん、お目が高い。 このプリンは、ソフィー特製です。 生クリームが乗ってる、カスタードなのですよ? はい、どうぞ 」
「 これは、ウマイ。 パクパク。 ごちそうさまでした 」
「 全部、食べましたね、カエルさん。 良い子は、何でもたくさん食べましょう! 」
「 は~い 」
俺はフロントで、ままごとをしているソフィーに声を掛けた。
「 ただいま、ソフィー 」
「 あ、お帰りなさい、グランフォードのオジちゃん! 」
やれやれ・・ と言った顔のクーパー。
「 今度は、ままごとか? クーパー 」
「 仕方ねえだろ? 部屋じゃ、みんな・・ あのクエイド人と、ナニやら真剣に話し合ってるしよ 」
声のトーンを落として、クーパーが聞いた。
「 ・・・会えたか? 」
「 ああ。 明日の午後、出航だ。 世話になったな 」
「 そうか・・ 気を付けろよ・・! 親衛隊と、どういった司法取り引きをしてるのかは聞かねえが、危険な事にゃ、違いねえ。 『 仕事 』が終わったら、元気な顔、見せに来てくれよ? この子と一緒にな 」
ソフィーが、ままごとに使った画材を片付けながら、クーパーに言った。
「 カエルさん、また来るね! 今度は、グラタン作ってあげる。 画用紙とクレヨン、置いといてよ? 」
「 よしよし。 今度、来る時までに、12色じゃなくて、24色のを買っておいてやる。 必ず、来るんだぞ? 」
タバコに、火を付けながら答えるクーパー。
「 わあ~い、ありがとう! カエルさん、おやすみなさい 」
クーパーの頭を撫でながら、ソフィーは、無邪気に言った。
「 はいはい、おやすみ。 ちゃんと、タオルケットを腹の上に掛けて寝るんだぞ? 風邪ひくからな。 それと、もうジュースは飲むんじゃないぞ? 夜中に、オシッコしたくなるからな 」
「 はあ~い 」
ルイスがいる部屋に入って行く、ソフィー。
タバコの灰を灰皿に落としながら、クーパーが言った。
「 ・・・貴族だな? あの子は 」
俺もタバコを出し、火を付けながら答える。
「 ああ・・・ 」
「 お前さんの、従兄弟の子と言うのは、ウソなんだろ? 」
「 ・・・まあな 」
ふう~っと、煙を出しながら、クーパーは言った。
「 まあ、どうってコたァ~ねえが・・ ヤバそうだな、キャプテンG 」
「 分かるか? 」
「 ったりめ~だろ? 上流貴族の女に、幼子・親衛隊・ヤミ商人・・・ ドコに、マトモな要点があるってんだよ? 激ヤバ状態、満載じゃねえか。 ナニ、おっ始めるつもりなんだ? 」
ここで、実は『 上流貴族の女 』ではなく、艦隊就き作戦参謀の高級アンドロイド士官だと言ったら、更に心配を掛ける事になるだろうな・・・
俺は言った。
「 知らない方がいい・・ 関わると、お前の方にも、火の粉が掛かるかもしれん 」
クーパーは、俺をじっと見つめながら言った。
「 分かった。 もう、何も聞かねえ。 気を付けろよ・・・! 」
俺は、タバコを灰皿で揉み消しながら言った。
「 ヒーローになるか、宇宙のチリになるか・・ ドッチかだ 」
クーパーが、小さく笑いながら答える。
「 そりゃ、大した賭けだ。 ・・ま、オレには出来んな。 ソフィーにすら、勝てねえんだからよ・・! 」
翌日。
ランチに行くと、ランスが運び込んで来たコンテナが、スペース一杯に並んでいた。
作業着を着込んだ、エンリッヒが言った。
「 凄い量ですな、グランフォード殿・・・! 」
ドックのクレーンオペレーターに手を振りながら、俺は答えた。
「 まだ、あと7個入るよ。 ・・それと、俺を敬語で呼ぶな。 潜入作戦は始まっているんだぞ? エンリッヒ 」
「 ・・失礼致しました。 キャプテン 」
「 この積荷作業が完了したら、キャプテンは、お前だ。 俺は、アントレーと共に、シリウスの一甲板員になる。 頼むぜ? 」
「 了解です・・! 」
動き出す、クレーン。 ニックとビッグスが、クレーンオペレーターの補佐をしている。
カルバートがマータフと共に、生活物資が入ったバスケットを台車に載せてやって来た。
「 ・・丁度、入りました、キャプテン 」
バスケットと共に、台車に載っているアルミ製の大きな工具箱を指差しながら、カルバートが小声で言った。 中には、電源を切り、分解したルイスが入っている。
「 出航したら、組み立ててやれ。 亜高速の運行コンピュータに、どうしても誤差が出る。 今回は、連続して亜高速航行をするから、着時点のズレは、最小限にしたい。 ルイスの航行コンピュータを、船のメインコンピュータと直結して計算してくれ 」
「 了解です! 」
マータフが言った。
「 うまくいくと良いですな、この作戦・・! 」
俺は答えた。
「 いかなきゃ、全員、木っ端微塵だ。 楽しい旅にしようぜ・・・! 」
港の端にある、組合事務所。 積荷作業が終了した俺は、アントレーと共に、そこへ行った。 仕事を求める失業者が、広場一杯に溢れている。 ざっと、2~300人は、いるようだ。
「 軍の保険証書を持っている者は、左の受付だっ! 乗船作業の経験がある者は、中央の受付に並べ! ・・そこっ! 座り込んでるんじゃない! 誰だッ? 火を炊いているヤツはっ! 」
管理組合の職員が、メガホンを口に当て、声を枯らして叫んでいる。 日雇いの港湾作業の仕事を求めている者もいる為、えらい騒ぎだ。 主任を示す、白いラインが入った作業帽を被った職員が港湾事務所から出て来て、肩掛けのハンドマイクのスイッチを入れると、群衆に向かって大声で叫んだ。
「 やっかましいッ! 静かにしやがれ、てめえらッ! 」
ホイイィ~ンと、耳につくハウリングが、群集を席巻する。 だが群衆の騒々しさは、若干、収まった程度である。
主任は続けた。
「 いいかァ、よく聞けえぇっ! 初心者、クエイド人・スルド人は、右の受付だっ! あと、紹介票を提出してある者は、オレの所まで来い! ・・おい、こらあっ! ケンカしてんじゃない、そこっ! 放水するぞ、てめえら! 」
「 ・・あの、主任のトコに来いってさ 」
「 グランフォード。 まるで祭りだな、ここは・・! 毎日、こうなのか? 」
「 ああ。 モタモタしてると、踏み倒されるぞ。 行こう! 」
俺は、アントレーと一緒に、ハンドマイクで怒鳴っていた主任の所へ行った。
「 親衛隊から、紹介を受けた者だ。 俺は、グランフォード。 コッチは、アントレーだ 」
俺が申告すると、額に汗をにじませた主任は、いぶかしげに言った。
「 ・・親衛隊だとう~? 」
手元にある書類を検索する、主任。 ほどなく、他の書類とは違う、水色の紹介票が出て来た。 ルーゲンスが言っていた身分証も添付してある。
意外そうな表情をしながら、主任は言った。
「 むうう・・! 確かに。 間違いなく、親衛隊からの紹介票だ。 軍の検閲印も押してある・・ 情報局からか・・・ よし、2人とも通れ! 検査も要らん。 ほれ、身分証は返すぞ 」
書類から身分証を剥ぎ取ると、主任は、俺たちにそれを渡し、事務所の奥を指差して言った。
「 あそこに、衛兵が立っているゲートがあるだろう? そこから入れ。 書類によると、お前らの勤務は乗艦勤務だ 」
「 ありがとさん・・・! 」
身分証をヒラヒラさせながら、俺は、主任に言った。
ゲート脇に立っていたデブの衛兵は、俺たちが近付くと、無言で掌を出した。
・・・ナンだ? チップでも、くれってか?
どうやら、身分証の提示のようだ。 俺は、先ほど渡された身分証を、彼に渡した。 チラッと、それを見た衛兵は、すぐにそれを俺に返し、言った。
「 3番だ 」
・・・ナニ、それ?
俺が、彼をじっと見つめると、ヤツは、俺の後ろを指した。 重連トロッコのような貨車が、何列も停まっている。 どうやら就労地点まで、これに乗っていくらしい。
アントレーも身分証を出し、指示を受けた。
「 お前も、3番だ。 ただし、最初の停車位置についたら、降りろ 」
俺たちは、3番と書かれたトロッコに座った。 周りには、既に沢山の作業員たちが座って待っている。 外にいた連中に比べると、幾分、理性的な顔立ちの連中のようだ。 アントレーと同じ、クエイド人も数人いる。
アントレーが身分証を見ながら、小さい声で言った。
「 ・・・これ、本物か? 」
「 偽造に決まってんだろ? 出身地、見てみな。 多分、テキトーだぜ? 」
「 ありゃ? メンディウスに、なっとる。 オレは、ランティス・シティーだぜ? 」
「 デカイ街の方で、良かったじゃないか。 俺なんか・・ 出身地は同じだが、番地が思っきし、下町だ。 ダウンタウンどころか、バラック街だ。 いくら、落ちぶれた貴族とは言え、この番地は無いぜ 」
しかし、まあ・・ 限りなく本物に近い偽造身分証だ。 精巧に出来ている。
俺は、上着のポケットに、それをしまった。
やがて、トロッコは動き出した。