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臆病な狂戦士

作者: 葉月はるか
掲載日:2026/10/17

「今日もランクDのままか……」


ギルドのステータス画面を見つめる。何度見てもレベルもランクも変わらない。

仕方ないわよね、だって魔物を前に逃げてしまったんだもの。


「すみません、お兄さん!俺たちとパーティ組みませんか」

「えっ!?でも俺……ランクDで」

「えっ」

「えっ?」


声をかけてくれたのは、二十代半ばぐらいの剣士だった。パーティには魔法使いと、僧侶らしき女性もいる。


「貴方たちのパーティ、もう僧侶がいるじゃない、俺の出番はなさそうです」

「えっ!?お兄さん、戦士じゃないんですか!?」

「そ、僧侶です……」


白を基調とした服に紋章の入ったベスト。髪も剃って、僧侶らしい格好をしたつもりだったのに。

俺、やっぱり父ちゃん似なんだなぁ。


二メートルを超える身長、無駄にいいガタイ。確かに重い物を運ぶのは得意だけど、こんなに根は臆病なのに。


「ダメよエキナ。ここでくじけちゃ、旅に出た意味が無くなっちゃうじゃない」


家に帰れば迷惑をかけてしまう。そう思って、故郷からはるか遠くのビスカリアまで来たのに。



翌日もギルドへ行き、受付の人に依頼を見せてもらう。


「やあ昨日のお兄さん。すぐ近くのゴブリンのボスとか、場所はちょっと遠いけど、ハーピーとかどう?」

「あ、あの……俺、まだDランクだし、もうちょっと弱い魔物がいい……です」

「そんな謙遜しなくても!ギルド未登録だったのかい?あんたが行けばすぐランク上がっちゃうよ!」


どうしよう、泣きたい。


するとにわかに後ろが騒がしくなる。そこには一人の剣士がいた。

カールした黒髪に黒髭、銀の鎧を纏ったダンディな雰囲気の中年男性。すごいイケメンだわ。


「……あの人、有名なんですか?」

「ああ、『ジオ』だね。どんな魔物の討伐依頼でもさらっとこなす、凄腕の剣士だよ」


次々と、色々なパーティから誘われている。いいなぁ、あの人はきっと『Aランク』なんだろうなあ。


「じゃ、じゃあ俺、ここから西の森の『大量スライム退治』引き受けます」

「スライム??全然儲からないけど、いいの?魔核取るの大変だよ?」

「これがやりたいんです!お願いします!」


早く強い人と組んで、僧侶の仕事に専念したい。でも『ランクD』じゃ誰も組んでくれない、少しでもランクを上げなくちゃ。


こうして森へ出かけたのが運のツキだったと思う。


「……まだ昼間なのに暗いわね……それに思ったより広い」


スライム一体すら倒したことないのに、大量になんて相手できるかしら。叩いたら『ねちょっ』とするかしら。服が汚れたらやだな。


……また、涙で目が滲む。

ダメよ、エキナ。俺の父ちゃんは立派な、Aランクの戦士なのよ。

父ちゃんみたいには成れなくても、せめて隣に並べるぐらいにならなくちゃ。


その時、茂みから何かが飛び出してきた。咄嗟に後ろへ下がり、身構える。


ぴょん、ぴょん、と跳ねる液体……スライムだ。


「あら、あら……?よく見るとアナタ、お目目がつぶらで、可愛いわね?」


これはこれで困りものである。倒すのに躊躇ってしまうではないか。

こちらからじり、じりと近寄るも、スライムはまるで警戒していない。攻撃してくる様子もなく、むしろ近付いてきている。


するとその後ろから、脚の生えた大蛇が姿を現した。


「き、キャァァァァァ!!!バババジリスクぅぅぅぅ!!!」


気付けば大量のスライムに囲まれ、俺はバジリスクと対峙する形になった。

スライムは助けを求めていたのだ、求められても困るけれど。


バジリスクの雄叫びに、俺は気を失って倒れた。



さよなら父ちゃん、ごめんね母ちゃん。

俺はDランクの僧侶のまま、旅立ちます。


「……おかしいわね、どうして俺、喋れるのかしら」


目を開ける。腕を、手を動かす。体に目立った傷はない。

恐る恐る顔を上げると、横たわったバジリスクの前に立つ、一人の剣士が目に入った。


「……ジオさん!」

「お、目を覚ましたか。手荒なことしちまってすまねえな」

「?バジリスクを倒してくれたんでしょう?ありがとうございます」

「いやいやいやいや」


ジオさんが激しく否定する。何故なのかしら。


「あ、痛」

「痛むか?悪いな、あんたの暴走を止めるためとはいえ……」

「バジリスクにやられたのね、大丈夫です、俺僧侶なので」


必死に本で勉強した治癒の術、最初に使うのは自分だなんて。

かざした手から出る白く温かい光に触れ、腹部の痛みが小さくなっていく。


ジオさんは髪をかき上げ、笑った。


「お前さん、名前は?」

「……!エキナと申します、その、ジオさん。俺と組んでくれませんか?俺、Dランクの僧侶ですけど……」

「遠慮しとく」

「っ、やっぱりDランクだから!?」

「いや、俺も命が惜しい」

「どういうことですか?」


ジオさんがす、と手を差し出す。その手の上に光るのは大きな青い魔核ーーー恐らくバジリスクのものだ。


「持ってけ」

「いえ、受け取れません」

「いいから。俺は次の依頼があるから、じゃあな」


強引に手のひらに乗せられた魔核は、日の光を浴びてきらりと光っていた。


そして俺は再び大量のスライムに囲まれた。


「きゃー!!アナタたち、バジリスクから隠れてたわね!?俺に懐かれても困るわ!分かった、分かったから離れて!!」


集団で移動していったスライムを見送り、俺は街に戻った。

ギルドで魔核を売るのは気が引けたけど、ありがたく頂いたお金で旅を続けよう。


「少しはレベル上がってないかしら、……なんて」


期待するだけ無駄よね、そう思ってステータスのウィンドウを開く。


「……え」


嘘。

ランクがCになっている。


「見間違い?え、でも……」

「ほら、お兄さんならすぐランク上がるって言ったじゃない!」

「でも俺、自分の傷を治しただけで……」


受付のおじさんが笑いながら俺の肩を叩いた。絶対誤解されてる、だから俺、僧侶なんだって。


「……まあいいか」


これからどんな人と出会って、冒険できるのか、少し楽しみになってきたわ。

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