臆病な狂戦士
「今日もランクDのままか……」
ギルドのステータス画面を見つめる。何度見てもレベルもランクも変わらない。
仕方ないわよね、だって魔物を前に逃げてしまったんだもの。
「すみません、お兄さん!俺たちとパーティ組みませんか」
「えっ!?でも俺……ランクDで」
「えっ」
「えっ?」
声をかけてくれたのは、二十代半ばぐらいの剣士だった。パーティには魔法使いと、僧侶らしき女性もいる。
「貴方たちのパーティ、もう僧侶がいるじゃない、俺の出番はなさそうです」
「えっ!?お兄さん、戦士じゃないんですか!?」
「そ、僧侶です……」
白を基調とした服に紋章の入ったベスト。髪も剃って、僧侶らしい格好をしたつもりだったのに。
俺、やっぱり父ちゃん似なんだなぁ。
二メートルを超える身長、無駄にいいガタイ。確かに重い物を運ぶのは得意だけど、こんなに根は臆病なのに。
「ダメよエキナ。ここでくじけちゃ、旅に出た意味が無くなっちゃうじゃない」
家に帰れば迷惑をかけてしまう。そう思って、故郷からはるか遠くのビスカリアまで来たのに。
翌日もギルドへ行き、受付の人に依頼を見せてもらう。
「やあ昨日のお兄さん。すぐ近くのゴブリンのボスとか、場所はちょっと遠いけど、ハーピーとかどう?」
「あ、あの……俺、まだDランクだし、もうちょっと弱い魔物がいい……です」
「そんな謙遜しなくても!ギルド未登録だったのかい?あんたが行けばすぐランク上がっちゃうよ!」
どうしよう、泣きたい。
するとにわかに後ろが騒がしくなる。そこには一人の剣士がいた。
カールした黒髪に黒髭、銀の鎧を纏ったダンディな雰囲気の中年男性。すごいイケメンだわ。
「……あの人、有名なんですか?」
「ああ、『ジオ』だね。どんな魔物の討伐依頼でもさらっとこなす、凄腕の剣士だよ」
次々と、色々なパーティから誘われている。いいなぁ、あの人はきっと『Aランク』なんだろうなあ。
「じゃ、じゃあ俺、ここから西の森の『大量スライム退治』引き受けます」
「スライム??全然儲からないけど、いいの?魔核取るの大変だよ?」
「これがやりたいんです!お願いします!」
早く強い人と組んで、僧侶の仕事に専念したい。でも『ランクD』じゃ誰も組んでくれない、少しでもランクを上げなくちゃ。
こうして森へ出かけたのが運のツキだったと思う。
「……まだ昼間なのに暗いわね……それに思ったより広い」
スライム一体すら倒したことないのに、大量になんて相手できるかしら。叩いたら『ねちょっ』とするかしら。服が汚れたらやだな。
……また、涙で目が滲む。
ダメよ、エキナ。俺の父ちゃんは立派な、Aランクの戦士なのよ。
父ちゃんみたいには成れなくても、せめて隣に並べるぐらいにならなくちゃ。
その時、茂みから何かが飛び出してきた。咄嗟に後ろへ下がり、身構える。
ぴょん、ぴょん、と跳ねる液体……スライムだ。
「あら、あら……?よく見るとアナタ、お目目がつぶらで、可愛いわね?」
これはこれで困りものである。倒すのに躊躇ってしまうではないか。
こちらからじり、じりと近寄るも、スライムはまるで警戒していない。攻撃してくる様子もなく、むしろ近付いてきている。
するとその後ろから、脚の生えた大蛇が姿を現した。
「き、キャァァァァァ!!!バババジリスクぅぅぅぅ!!!」
気付けば大量のスライムに囲まれ、俺はバジリスクと対峙する形になった。
スライムは助けを求めていたのだ、求められても困るけれど。
バジリスクの雄叫びに、俺は気を失って倒れた。
さよなら父ちゃん、ごめんね母ちゃん。
俺はDランクの僧侶のまま、旅立ちます。
「……おかしいわね、どうして俺、喋れるのかしら」
目を開ける。腕を、手を動かす。体に目立った傷はない。
恐る恐る顔を上げると、横たわったバジリスクの前に立つ、一人の剣士が目に入った。
「……ジオさん!」
「お、目を覚ましたか。手荒なことしちまってすまねえな」
「?バジリスクを倒してくれたんでしょう?ありがとうございます」
「いやいやいやいや」
ジオさんが激しく否定する。何故なのかしら。
「あ、痛」
「痛むか?悪いな、あんたの暴走を止めるためとはいえ……」
「バジリスクにやられたのね、大丈夫です、俺僧侶なので」
必死に本で勉強した治癒の術、最初に使うのは自分だなんて。
かざした手から出る白く温かい光に触れ、腹部の痛みが小さくなっていく。
ジオさんは髪をかき上げ、笑った。
「お前さん、名前は?」
「……!エキナと申します、その、ジオさん。俺と組んでくれませんか?俺、Dランクの僧侶ですけど……」
「遠慮しとく」
「っ、やっぱりDランクだから!?」
「いや、俺も命が惜しい」
「どういうことですか?」
ジオさんがす、と手を差し出す。その手の上に光るのは大きな青い魔核ーーー恐らくバジリスクのものだ。
「持ってけ」
「いえ、受け取れません」
「いいから。俺は次の依頼があるから、じゃあな」
強引に手のひらに乗せられた魔核は、日の光を浴びてきらりと光っていた。
そして俺は再び大量のスライムに囲まれた。
「きゃー!!アナタたち、バジリスクから隠れてたわね!?俺に懐かれても困るわ!分かった、分かったから離れて!!」
集団で移動していったスライムを見送り、俺は街に戻った。
ギルドで魔核を売るのは気が引けたけど、ありがたく頂いたお金で旅を続けよう。
「少しはレベル上がってないかしら、……なんて」
期待するだけ無駄よね、そう思ってステータスのウィンドウを開く。
「……え」
嘘。
ランクがCになっている。
「見間違い?え、でも……」
「ほら、お兄さんならすぐランク上がるって言ったじゃない!」
「でも俺、自分の傷を治しただけで……」
受付のおじさんが笑いながら俺の肩を叩いた。絶対誤解されてる、だから俺、僧侶なんだって。
「……まあいいか」
これからどんな人と出会って、冒険できるのか、少し楽しみになってきたわ。




