春隣 ④
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
迎えた「芝田杯ボウリング大会」の当日。
4人は国鉄(現在のJR)明石駅で待ち合わせ、揃って駅前ビルの中にあるボウリング場へと向かった。
シューズを借り、それぞれ自分に合ったボールを選び終えて、いよいよ第1ゲームがスタートする。
「ボウリングなんて、めっちゃ久しぶりやわ!」
桐通の言葉には、これから始まる時間へのワクワク感が溢れていた。
「ほな、始めよか! 順番は瓜生、川野、桐通、俺の順な」
「なんで俺が最初やねん?」
「五十音順や」
「なんやねん、それ!」
文句を言いながらも瓜生はボールを手に取り、勢いよく一投目を放った。しかし、激しい音とともに倒れたピンはたったの1本。
「瓜! 遠慮せんと倒せやー!」
後ろから3人の容赦ないヤジが飛ぶ。
「遠慮なんかしてへんわ! これはウォーミングアップや!」
言い張りながら放った2投目だったが、ボールは虚しくピンの横を通り抜け、ガターへ落ちていった。悔しそうな顔で戻ってきた瓜生に、浩一が声をかける。
「瓜、急に投げやすくなったわ。俺のための演出か?」
「そうや、そういうことや! お前、ちゃんと投げろよ!」
「任せとけ!」
勢いよくレーンへ飛び出した浩一だったが、放たれたボールは一度もピンに触れることなく、あっけなく右の溝へと吸い込まれていった。
「なにやっとんねん! 溝掃除か!?」
「ハハハ! 豪快なガターやな!」
ゲラゲラと笑う3人からの容赦ない言葉に、浩一は負けん気を出す。
「うるさいわ! 今からが本番や!」
気合いを入れ直して投げた2投目。……しかし、ボールは再び綺麗な軌道を描いて左の溝へと落ちていった。爆笑しながら出迎える3人に、浩一は顔を赤くする。
「お前、野球少年やったのに、意外に運動音痴なんか?」
芝田の煽りに、浩一はすかさず言い返した。
「音痴ちゃうわ! それに野球少年やなくて『元』野球少年や!」
「サッカー少年(芝田)に負けてたまるか!」
「全員『元』サッカー少年や!」
3人の声が見事に揃い、レーンに大きな笑い声が響き渡った。
ワイワイと騒ぎながら投げ進め、終わってみれば全員のスコアは100点前半。
「なんや、結局みんな似たようなスコアやんか」
桐通が呆れ顔で笑うと、芝田がニヤリと笑った。
「そやな〜! でもめちゃくちゃおもろいな。よし、次から本気出すで!」
2ゲーム目に入ると全員が勘を取り戻したのか、ストライクやスペアが頻繁に出始めるようになった。
瓜生がアプローチに立ち、投球動作に入ろうとしたその時。
芝田が隣の浩一にそっと話しかけた。
「お前、知ってるか? ボウリングってな、精神状態がそのままスコアに出るらしいで」
「へえ、そうなんか?」
「どんだけ上手い人でも、心が乱れてたらスコアも安定せえへんねんて」
「芝田、お前なんで急にボウリングに詳しくなってんねん」
「いや、受け売りやけどな……」
芝田は一瞬だけ表情を緩め、まっすぐ浩一の目を見た。
「でもな……今までみたいに毎日顔を合わせてたら、お前が落ち込んでる時とか、なんかあった時もすぐ気付いてやれたけど……。春からは、どれくらいのペースで会えるか分からんやろ? だから、お前の変化に気付いてやれへんかもしれん」
「だから……?」
「だからお前、自分で『なんか気分が晴れへんな』って思った時は、一人でボウリング行ってみろや。……まあ、俺らを誘ってくれてもええけどな」
隣で聞いていた桐通も、黙って深く深く頷いていた。
「……そっか。ありがとな」
(芝田のやつ……これを俺に言うために、わざわざボウリングに誘ったんか? いや、考えすぎかもしれんけど……。ほんま、芝田だけやなくて、みんな最高の仲間やな)
その時、投球を終えた瓜生がドヤ顔で戻ってきた。
「なんやお前ら、内緒話か? 俺の渾身のストライク見てへんかったんか!?」
レーンを見やると、確かに10本のピンが全て消え去っていた。
「いやいや! 見てた見てた! すごいストライクやったで!」
「ほんまかいな……まあええけど!」
16歳の4人は疲れる様子も見せず、この勢いのまま怒涛の5ゲームを消化した。
しかし……果たして彼らは、今日中に残り20ゲーム分の無料券を使い切ることができるのだろうか!?
ご覧いただきありがとうございました!
寒さの残る2月の明石駅前で繰り広げられる、4人の賑やかな週末。
無邪気に笑い転げる時間の中に、ふっと差し込まれる「別れの春」への意識と、互いを思いやる静かな絆が胸にじんわりと染み渡ります。
芝田の不器用な優しさに気づき、心の中で感謝を噛み締める浩一の表情がとても印象的な回となりました。




