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1999年からの警告:「謎を解かない系探偵」原アイラは蹴っ飛ばす!  作者: 井越歩夢


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終章:2026年7月26日日曜日・G県N市新町交差点「Barアムリタ」④

=4=


日は明けて、七月二十七日・月曜日。 朝六時三十四分〇四秒。


G県N市在住の街の御用聞き、“自称探偵”原アイラは、 久しぶりに愛車フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプターを運転し、 ドライブに出かけていた。


フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプター。 アメリカで長年パトカーとして採用された大型セダンで、 頑丈なボディと高耐久シャシーが特徴の警察専用モデル。 V8エンジンによる力強い走り、広い室内、整備性の高さから “仕事道具”として高く信頼されたこの車は、 払い下げ車両が愛好家の間で人気の一台だ。


アイラはこれを、行きつけのアメリカンダイナー Willkommen(ヴィルコメン) で目にし一目惚れ。 すぐにアメ車を取り扱う店へ片っ端に連絡し、見つけた一台がこの車だった。


見つけた一台は払下げそのままのパトカー仕様のため、装備をすべて取り外し、色も黒に全塗装。 後席も“逮捕した犯人を乗せる仕様”から一般仕様へ変更した“快適仕様”へ。


黒い存在感のある重厚な外観。 道行く姿を見ることはなかなか無いが、 ハリウッド映画や海外ドラマでは定番的に登場する車だ。


搭載されたV8エンジンのサウンドはアメ車にしては思ったより静かで、 しっかりしたボディとシャシーのおかげで大味ながら乗り心地も良好。 何よりも、アイラはこの車が持つ“雰囲気”をとても気に入っていた。


◇◆◇


一人で出かけるとき、いつもであればアイラはバイク―― ホンダ・シャドウクラシックアメリカンエディションに乗り、 乾いた排気音を静かに響かせながら走っているところなのだが――


今日、彼女が車で出かけているのには、避けようのない意味があった。


梅雨明け以降、2026年の夏はまるで【ヤァー!】と鍛え上げたマッスルボディを ナイスなポーズで見せつけるかの勢いで本気を出し、 連日、記録的な暑さが続いていた。


そんな中、バイクで出かけるのは…… 暑さから逃げることが難しい乗り物で出かけるという、ある意味“苦行”。 それを良しとするバイカーもいれば、勘弁してほしいというバイカーもいる。 その中でアイラは後者だった。


暑いときは車。 エアコンの効いた車内で音楽サブスクのおすすめリスト曲をランダム再生で聴きながら、のんびり走る。 それが、アイラの流儀。


朝早くから出かけ、昼食はアメリカンダイナー Willkommen で 七月限定バーガーの“食べ納め”。 開店時間まではまだまだ相当早い。


アイラはN市駅前ビルの駐車場から車を出すと、 南方向の首都T市方面には向かわず、車を北方向へと向かわせた。 わざと大回りをし、途中で真城ナミの友人が勤めているバイクショップに顔を出し、 Willkommen に十一時到着となるよう、時間調整をしながら向かうコース設定だ。


北へ向かうコースをとると、 程よい田舎感の残るN市駅前から一変し、 濃い田舎感を強く感じる風景が広がる。


その両脇を真っすぐ貫く、まだ朝早く交通量の少ない国道を走るクラウンビクトリア。 始業時間が早いのか、勤務先が遠いのか―― そんな車とすれ違う中、時に向こうから視線を感じるのは気のせいではない。


この画面の向こうではよく見るが、 道行く姿を見ることは珍しい車に興味を持った人の視線だろう。


アイラ、しばし優越感に浸る。


ちょうどそのとき、カーオーディオから流れる曲が変わり、 曲名の表示が右から左へと流れていった。 その表示『1991年からの警告』が一瞬目に留まったアイラは、【あ】と目を丸くし、 そして僅かに嘲笑するように小さく口角を上げ、 曲名を思考の中でなぞった。


『現代はある意味、“1999年からの警告”の渦中の時代なのかもしれないね。 終末予言に関わる様々な陰謀論は終わっていない、注意しろ!みたいな。』


1999年からの警告という言葉。 80年代・90年代の音楽が好きなカレンは、 もしかするとこの曲名になぞって言ったのかもしれない―― アイラはそんなことを思う。


そしてこの三週間。 1999年7の月の予言、 刃物使用によるN市駅前大量器物損壊事件、 ネガティブ情報の生霊、 1999年からの警告――それらをもう一度だけ考え、 思いを巡らせることにした。


◇◆◇


寄合館での、日常的で他愛のない話の中から意識に刻まれた 月刊ヌー?の1999年7月号、 ミシェル・ド・ノートルダム“ノストラダムス”が残した予言と、終末論。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇


L’an mil neuf cens nonante neuf sept mois, Du ciel viendra un grand Roy d’effrayeur, Ressusciter le grand Roy d’Angolmois, Avant apres Mars regner par bon heur.

(1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてくるだろう。 アンゴルモアの大王を復活させるために。 その前後の期間、マルス(戦の神)が幸福の名のもとに支配するだろう。)


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇


あれから三十年近く経った現代でもこれは、 その世代の多くの人々の記憶に残り、 そして今、新世代の解釈から生まれる滅亡予言や陰謀論。 それを餌に甦ったネガティブ情報の生霊が起こす、大なり小なりの事件。


1999年7の月と謳われたあの予言は、一体何だったのか――。


G県N市駅前で起きた三週間にわたる事件は、ひとまず収束した。 それから数日が経った今のアイラの思いは……


(あのおっさん、ミシェル・ド・ノートルダムの予言は、 もしかすると1999年以降も様々な予言、陰謀論、終末論が 生まれ続けていくことへの警告をしていたんじゃないかとも、 何だか思えちまったんだよな…… それをカレンは「1999年からの警告」って言ったのかもしれないな。)


ふう……と、そんな思考にひと息を吐く。


「1999年に世界が滅亡する」という“終末論”。 それをテレビや雑誌が恐怖を強調した演出で繰り返し取り上げたことで、 未来への悲観が強まり、若者や子どもたちに 様々な心理的負担を与えることになった三十年前。


“終末ビジネス”は現代でも形を変え品を変え、確実に存在している。 事実と娯楽の境界が曖昧になり、批判的思考が弱まる傾向も依然としてある。


これが再び、様々なカルト宗教が勢力を拡大する起因となり、 様々な問題、さらには事件へとつながっていくことにならなければ――とも思う。


だが、流れに流れ、湧き上がりに湧き上がるそんな言葉たちを、 アイラは【ドュァアアアアアン】と、いい笑顔で一蹴した。


「ま、世界は今日も終わらねぇし。 みんなと笑っていられりゃ、それで十分だろ。」


◇◆◇


見かけによらないジェントルで心地よい排気音を響かせる フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプターを気持ちよく運転するアイラ。


目的は、アメリカンダイナー Willkommen の七月限定バーガーの“食べ納め”。


程よい田舎感の残るN市駅前から、濃い田舎感を強く感じる風景へ。 山間を走る国道を、月曜の通勤車が目立ち始める中、その流れに乗って車を走らせる 七月二十七日の朝。


2026年。今年の夏も、どうやら猛暑になりそうだ。



1999年からの警告 「謎を解かない系探偵」原アイラは蹴っ飛ばす!【完】


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