この時代の55歳は現代の65歳と同じ 辞めたくなっても不思議ではない
この時代の王国ドリトル周辺では、寿命そのものよりも「消耗速度」が問題だった。
接続戦・資源管理・インフラ維持・外部干渉対応。
どれも一見静かだが、長期的には精神と認知を削る仕事だった。
特に攻撃担当要員だった世代は、
長年「意味が変化しない仕事」を続けてきた。
・結果が出ない
・手応えが更新されない
・構造だけが維持され続ける
・終わりが設計されていない
これが一番の負荷になる。
55歳という年齢は、この世界ではすでに“引退適齢”に近い。
現代で言う65歳どころではなく、
体力ではなく“意味耐性”が限界に達するラインだった。
ある元攻撃担当要員は記録にこう残す。
> 体は動く
> だが意味が動かない
> だから先に心が辞める
別の者はもっと短い。
> もう十分やった
> 何を守っていたかは分からないが
> 守り続けたことだけは覚えている
この時期、各国で一斉に起きたのは「自然退職」だった。
命令ではない。
崩壊でもない。
反乱でもない。
ただ、
“やめてもいい空気ができた”
それだけだった。
王都ドリトルの側では、それは特に問題視されない。
資源管理ロボは、人員の感情を認識しない。
出来ません
売りません
守ります
この三語は、担当者が変わっても変わらない。
だから王クラークは淡々と判断する。
「世代交代の時期だ」
側近が問う。
「防衛力に影響は?」
王は首を振る。
「防衛ではない」
「維持だ」
そして維持は、
個人の気力ではなく構造で成立している。
優利恵はその話を聞いて、少し黙る。
「じゃあ辞めても崩れないんだ」
ロイが答える。
「たぶん、最初から“人が主役じゃない設計”なんです」
夜。
かつて攻撃担当だった55歳の男は、
静かな部屋で外を見ている。
もう命令は来ない。
もう報告もいらない。
ただ一つだけ残る感覚がある。
「自分がいなくても動く世界」
それは安心でもあり、
少しだけ寂しさでもある。
王都ドリトルは今日も変わらない。
水は流れ、光は灯り、契約は更新される。
中心には鉄機械。
出来ません
売りません
守ります
それは今や、
誰かの意思ではなく、
“世代を超えて残る動作仕様”になっていた。




