師と三年と理解
「アルフォード、私は3年しか此処に留まれない」
エルディオンは静かに告げた。
森の空気が一瞬、張り詰める。
「3年ですか……」
短い。あまりにも短い。
俺はまだ幼い。
3年後でも、7歳に過ぎない。
だが――
「十分です」
エアナが目を丸くする。
俺はエルディオンを見上げた。
「3年あれば、基礎理論は一通り学べるはずです。属性構造、魔力循環、複合式の組み方。応用はそのあとナード大学で鍛えられる」
言葉にすると、胸の奥が熱くなる。
未来を掴む感覚。
エルディオンの口元が、わずかに上がった。
「ほう。では聞くが、なぜ3年で足りると思う?」
試す声。
だが、戦闘ではない。
理論の土俵だ。
「僕はすでに風魔法の上級まで使えます」
森が、わずかに静まる。
エルディオンの瞳が細まった。
「……つまりお前は、何を私から学びたい?」
迷わない。
「風以外の四属性。中級以上の魔法です」
沈黙。
エアナがぽつりと呟く。
「――何それ」
エルディオンはゆっくりと息を吐いた。
「3年で足りる、と言ったな」
一歩、近づく。
「甘い」
だがその声には、怒りではなく、熱がある。
「3年で足りるかどうかは、私が決める」
静かに告げる。
「3年で、お前に四属性を叩き込む」
胸が強く打つ。
「ただし」
空気が重くなる。
森の奥で、小さく雷鳴が鳴った。
「私の稽古は厳しいぞ。ついてこい、アルフォード」
迷いはなかった。
「はい」
即答。
エアナが苦笑する。
「ほんと即答好きね、あんた」
エルディオンは目を閉じ、そして開いた。
「よろしい。では最初の授業だ」
青白い雷が地面を走る。
「今から魔法について教える」
「魔法について、ですか?」
「魔法とは――基本詠唱が鍵、魔力は材料。そう考えているな?」
俺は頷く。
「だがそれは、理解しやすいよう単純化されたものに過ぎん」
そう言って、エルディオンはゆっくりと立ち上がる。
森の空気が変わる。
「息吹よ、撃て」
詠唱は短い。
だがその瞬間、空気が一点に圧縮された。
指先に集束した風が、弾丸のように解き放たれる。
轟音。
遠くの木の幹を、正確に穿った。
葉が舞い落ちる。
「すごい…」
詠唱が、短すぎる。
あれだけの威力を、あの一言で?
――いや。
「詠唱を、端折った」
思わず呟く。
エルディオンは横目で俺を見る。
「これはさっきアルがドラゴンに撃っていた魔法と同じだ。構造を理解していれば、詠唱は補助に過ぎん」
指先に、まだ微かな風が残っている。
「詠唱とは、魔力の流れを安定させるための“型”だ」
「型ですか」
だったら詠唱なしでもーー
「だが構造を完全に把握していれば、型は不要になる。しかし、私はそこまでは理解していない」
空気が震える。
「魔法とは言葉ではない。現象だ」
胸が強く打つ。
「言葉で起こすのは三流。理解で起こすのが二流。意志で起こす者が一流だ」
森が、静まり返る。
「今日からお前は、魔法をただ“使う者”ではない」
一拍。
「魔法を理解し、設計し、操る者だ」
理解――。
その言葉が、胸の奥で重く響く。
「これからは、私のことは先生か師匠と呼びなさい」
三年は短い。
だが――
十分だ。




