表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

稽古と師匠と弟子

4歳になった。

気づけば、文字も読めるようになり、簡単な文章なら書ける。身体も以前よりずっとしっかりしてきた――とはいえ、まだ子供の範疇だ。高い棚には手が届かないし、父の背中は相変わらず大きい。

それでも、一人で森へ行くことを許された。

これで本格的に魔法の練習ができる。

「今日からここが俺の魔法の修練場だ」

そして同時に、もう一つの“始まり”があった。

剣の稽古だ。

やはりこの家は、魔法よりも体術を得意とする家系らしい。特にガーナモンド家は、体術の中でも剣を最も得意としている。父の背中を見れば、それは嫌でも分かる。朝の空気を裂く剣の音。無駄のない踏み込み。

どうやら、俺もその道を歩くことになるらしい。

しかし、歩く気は端からない。というか歩きたくない。俺は剣より魔法のほうが得意だからだ。

だが、父は魔力を使えない。これは非常にまずい。魔法を教えてくれる人がいないからだ。転生前の俺は風魔法を上級まで使えたが、それだけだ。他の属性は覚えていない。

以前から家の書斎に忍び込み、いろいろな属性の魔法を覚えようとしたが、独学では初級までが限界だった。中級も時間をかければ使えるが、非効率でとても難しい。とはいえ、父が教えられるのは剣だけで、母は学問だけだ。

「誰か魔法を教えてくれる人がいたらな」

独り言をぽつりとこぼしながら森を歩く。

しかし、この森は何か変だ。動物が一匹もいない。前に来たときは、もっとたくさんの動物で溢れていたはずだ。

嫌な予感がする。赤い瞳のドラゴンが急に現れる、なんてことはないよな。

そのとき、木が揺れだした。

魔物か? それとも――

木の影からドラゴンが姿を現した。瞳は赤くない。それに、まだ小さい。

ふう……よかった。よくはないけど。こいつなら倒せそうだな。

深く息を吸い、詠唱を唱える。あまり被害を出さずに倒せる魔法を選ぶ。

「聖なる天の息吹は、風の弾丸となりて目の前の敵を撃て――ウィンドブレット」

腕を伸ばし、人差し指をドラゴンに向ける。指先で風が圧縮され、弾丸へと変わり、ドラゴンへと放たれた。

中級魔法程度でも、あのドラゴンを倒せるはずだ。

土煙が上がり、やがて視界が晴れていく。

「嘘だろ」

そこには、無傷のドラゴンが立っていた。

中級魔法が効かない!? いや、そんなはずはない。

だったら――

前世で聞いた女神の言葉を思い出す。

こいつも雷属性でしか倒せないのか?

試す価値はある。ちょうど練習のために森へ来たんだ。まだ初級しか使えないが、足止めくらいはできるはずだ。その隙に逃げよう。

もう一度、深く息を吸う。

「気高き光よ、今ここに力を見せつけろ――サンダー!!」

雷が一直線に走り、ドラゴンへと落ちた。

眩い閃光とともに轟音が森に響く。

衝撃で土煙が舞い上がる。

どうだ?

煙の向こうで、何かが崩れる音がした。

やがて視界が晴れる。

そこには――倒れ伏したドラゴンの姿があった。

「勝った?」

足が震えている。正直、逃げる準備はしていた。

だが、立っているのは俺で、倒れているのはドラゴンだ。

初級雷魔法でもいけたのか?

胸の奥で鼓動が速くなる。魔力はほとんど空だが、確かな手応えがあった。

そのとき。

「今の雷魔法、詠唱の組み立ては悪くない」

背後から、低い声がした。

振り向いた瞬間、全身の毛が逆立つ。

いつからいた?

木の影から、一人の男が姿を現した。黒いローブをまとい、鋭い眼差しでこちらを見ている。

「だが、あれはお前の魔法では倒せていない」

「えっ?」

「初級なら、せいぜい雷球を放つ程度だ。あそこまでの威力は出ん」

男はゆっくりと倒れたドラゴンに視線を向ける。

「雷が当たる直前、心臓を貫いたのは私の魔法だ。少し手を貸した」

頭が真っ白になる。

俺が倒したんじゃない?

「無謀だ。あの個体は幼体でも風属性耐性が高い。雷も初級では仕留めきれない」

男の目が細くなる。

「坊主、今いくつだ」

「4歳です」

「4歳で中級風魔法と初級雷魔法を扱うとはな」

その視線は、試すようであり、どこか楽しんでいるようでもあった。

「誰に魔法を教わった?」

喉が鳴る。

――来た。

俺が欲しかった存在。

魔法を知る者。

森の空気が張り詰める。

「独学です」

男の口元が、わずかに歪んだ。

「面白い」

静かに、しかし確信を持って言う。

「私の弟子に――」

「僕を弟子にしてください」

男の口元が、さらに歪む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ