紋章と器と発見
母がにこやかに笑いかけ、膝に赤子のアルを抱き上げる。体は小さく、膝にちょこんと収まると、心地よい揺れが伝わってくる。
「アル、さあごはんだよ。ママと一緒に食べようね」
母の手が胸から離れる瞬間、赤子の目と体は自然に察知した。その隙に、父が朝の剣の稽古を終え、部屋に戻って膝の横に腰を下ろす。
「グーミト、お疲れ様」
「ああ、ありがとう。チップはアルにご飯をあげていたのか」
母は微笑みながら答える。
「えぇ、でもなかなか食べなくて」。
胸元で淡く光る家紋の紋章が視界の端に映る。赤子の目にはただの装飾に見える。だが、どうしても手を伸ばしたくなる衝動が自然に湧く。
赤子のアルは両手をぱたぱたと動かしながら、膝の上で父の胸元へ手を伸ばす。
『無邪気なおもちゃ遊びのふりをすれば、疑われないはずだ。』
指先が紋章に触れた瞬間、胸の奥に微かな魔力が走る。小さな風のような感覚。あ、これが手応えか。
赤子の体はまだ幼く、魔力を受け止められる量もわずかだ。器である体内の魔力量は限られている。
無意識のうちに魔力を吸い上げる。赤子の体では量はごくわずかだが、触れた感覚は胸の奥に確かに残る。父も母も、まったく気づかない。赤子としての自然な動作に見えるからだ。
母は優しく微笑みながら抱き寄せ、話しかける。
「ママとご飯、食べましょうね」
微かに触れただけの紋章から流れ込む魔力。その感覚は、俺だけが感じられる初めての魔法としての手応え。この魔力を、俺は誰にも教わっていない、なんなら前世でも聞いたことない。赤子の小さな体という限られた魔力量の中で、初めて理解できた魔法。
これが、俺だけの魔法、名付けるとしたら『ドレイン』だ。
視界の端に父の笑顔と母の優しい手が見える。誰も気づかないまま、赤子の遊びは安全に進行する。胸の奥で小さく震える魔力の流れを感じながら、赤子アルは静かに微笑んだ。
さて、朝ごはんでも食べようかな。




