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転生と選択と葛藤

この森は、どんな迷宮よりも広大だった。しかし俺は三ヶ月もの間、彷徨っている。右腕はもげ、食料は底を尽きた。

「俺はここで死ぬのか…?」

真っ暗な森に一人。青年と呼ぶには老けすぎ、中年と言うには若すぎる。足を一歩踏み出すたび、全身に重さが響く。

「まだ死にたくない…」

そうだ、まだ死ねない。いや、死にたくない。

「俺は皇に届いていない。それに、まだ童帝だぁぁ!」

俺の声は暗闇に溶けていく。すると同時に、ドラゴンの唸り声が森中に響き渡った。

「クソッ…こんなことになるなら、もっと鍛錬を真面目にしておけば…」

右腕を失ったのも、そのせいだ。悔恨が胸を締め付ける。唸り声が、とうとう目の前まで迫ってきた。

「聖なる天の息吹は、空気の刃となりて目の前の敵を貫け――ウィンドブレイド!」

詠唱と同時に、無数の刃が空中を歪め、ドラゴンに向かって飛んでいく。しかし、ドラゴンは何事もなかったかのように立ち、無傷のままだった。

「嘘だろ…これでも上級魔法だぞ。効かないわけがない…」

足がすくむ。怖い。逃げたい。ドラゴンの禍々しい赤い瞳が、恐ろしくてたまらない。

ドラゴンが顔を上げ、炎を吐こうとする――直感が告げる。

「ああ、死んだな」

次の瞬間、白く四角い部屋にいた。

「ばぁ、初めましてだね」

人の形をしているが、顔は見えない。

「君は死んだよ」

やっぱり死んだか。なりたかった自分になれなかった後悔、日々の鍛錬を怠った自分への恨み。しかし、もう諦めるしかない。

「君には選択肢がある。このまま死ぬか、転生して人生をやり直すか。さぁ、どっちがいい?」

答えは即答に決まっている。

「このまま死ぬ!!」

もう怖い思いは懲り懲りだ。なりたいものになれなかったのは残念だが、恐怖心が勝った。カッコ悪いのは分かっている。

「えぇぇ!!」

耳をつんざくような大声。

「君なら転生してやり直すと言ってくれると思ってたよ」

――なんだ、こいつ。俺のことを知っているのか?

「まず、この部屋は何だ。君も何者なんだ?」

「ここは君をどうするか決める場所。そして私は全治の女神だ」

真っ白だった部屋が書斎へと変わり、女神の顔が徐々に現れた。長い金髪、赤い瞳――あのドラゴンと同じ赤い目だ。

思わず後退りする。

「なぁに、君を取って食おうとは思っていないよ。僕は君に興味があるだけさ」

そう言うと女神は、ペンとインクの置かれた机に腰を下ろす。

「それで、君はこのまま死ぬの?」

現実が押し寄せる。俺はまだ、なりたいものになれていない。しかし、また死ぬのは御免だ。

「僕には野望がある。それは――神になることさ」

――は?女神じゃないのか?それに神になることに俺は関係ないだろ。

「そうなんですね。それは私に関係ないですよね?それに、敵に立ち向かう勇気がありません」

怖いんだ。戦う気力がない――ただそれだけだ。

「うーん、怖いのは心の持ちようだけど、僕が神になるには君が必要なんだ。なんにせよ、僕には眷属がいないからね」

眷属?なんの話だ……

「まさか」

「嗚呼、その、まさかだよ」

――俺を眷属にするのか。そんなの、まっぴら御免だ。

「眷属の誘いは嬉しいですけど、私には役に立ちませんよ」

「そんなことないよ。ここから見てたけど、ドラゴンへの攻撃、この歳で凄かったじゃないか」

「効きませんでしたけどね」

「そうだね。あのドラゴンは雷の魔法しか効かないんだ。風魔法が効いていたら瞬殺だった。それに、右腕さえ失っていなければ、君の剣技で倒せたはずだ」

あれは不注意だった。ドラゴンの攻撃を防ぎきれず、喰われてしまったのだ。

「悔しくないのか?あのドラゴンに負けたままで。それに、君はまだ童帝だろ?」

そうだ、俺はまだ童帝だ。死んだのは、日々の鍛錬を怠ったせいだ。

「君にはまだ成長の余地がある。だから、眷属として転生し、僕の手助けをしてくれないか?」

暖かく優しい声――諦めていた心から恐怖が消えていった。

「分かりました。僕で良ければ、眷属にしてください」

覚悟はできた。恐怖はもうない。あるのは自信と勇気だけだ。

「ふぅ…よかった。このまま死ぬと言われた時は、流石に僕も驚いたよ」

「あはは、すみません。そういえば、眷属って何をすればなれるんですか?」

「それは君を僕の手で転生させればいい。えーと、君の名前は何かな?」

「アルフォード・フリーランスです」

「アル、君は名前を残したいかい?」

名前か――別に残したいわけではないが、心残りはある。

「そうですね。この名前は気に入っているので、できれば残したいです」

「そうか。じゃあ今から君にはガーナモンド家の子供として新しい命を授けよう」

突然、足元に魔法陣が形成され、引きずり込まれる。――転送陣か、転移の類か。今はどうでもいい。転生後に考えればいい。

「そうそう、言い忘れていた。10歳になったらナード大学に入学しなさい。そうすれば、さらなる学びを得られるだろう」

「今、ナード大学と言いましたか…?」

唐突に吸い込まれる。情けない声を出しつつ落ちる。

痛い、痛くない?いや、落ちてはいない。辺りを見渡すと、お偉い大人たちがたくさんいる。

「奥様、産まれましたよ」

「えぇ、産まれましたね」

右腕は生えている。――転生したのか。

「旦那様、お名前はお決まりですか?」

「嗚呼、決まっているさ。『アルフォード』。アルフォード・ガーナモンドだ」

なるほど。だから女神は名前を残したいかを尋ねたのか。あの女神――名前は聞き忘れたが、とりあえず今は「全治の女神」としておこう。全治の女神によれば、10歳になったらナード大学に入学すればいいらしい。

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