第3話 昼ごはんと、思い出と、幼なじみ爆弾
【超速報】記憶が昼ごはんで大爆発!?
― 大沢ハルミ、“ただのご近所ランチ”で幼少期を一気に思い出す衝撃展開! ―
平和なはずの田舎ライフ、まさかの急展開!!
清水家でのほのぼのランチ――
その一口が引き金だった。
「懐かしい味」→「日曜日の記憶」→「え、ここ昔来てた!?」
そしてついに――記憶、完全復旧!!
幼なじみ・いつきの存在も浮上。
さらには“近々帰ってくる”という爆弾情報まで投下!?
温かいご飯と一緒に蘇る過去。
笑いと混乱、そしてちょっとの動揺。
これはただのランチじゃない。
人生の伏線回収イベント発生!!
清水家の庭は。
醤油のCMみたいだった。
古い木の下。
低い木のテーブル。
妙に整いすぎている家庭菜園。
小さな池では、
鯉が優雅にぐるぐるしている。
のどか。
完璧に、
のどか。
治美は座るなり、深呼吸した。
「……スローライフ感が強すぎる」
泉はもう食べていた。
「罠でも、おいしいなら許す」
さくらが料理を並べていく。
炊きたてのご飯。
焼き魚。
畑の野菜。
湯気の立つ味噌汁。
治美は、最初のひと口を食べた。
――そして。
止まった。
大げさにではなく。
内側だけ。
味。
匂い。
縁側の木の感触。
池の水音。
全部。
妙に、
懐かしかった。
「どう?」
さくらが、優しく聞く。
「……なんか」
治美はゆっくり答えた。
「日曜日の味がする」
泉が顔を上げる。
さくらは、
少しだけ目を細めた。
「毎週来てたものねぇ」
沈黙。
泉の箸が止まる。
治美は瞬きをした。
「……私が?」
「春美ちゃんと、いつきちゃんと、みーんなでねぇ」
その瞬間。
泉が、ゆっくり箸を置いた。
「やっぱり」
治美が振り向く。
「何が?」
泉は庭を指差した。
「この家。
この木。
この池。
なんか見覚えあった」
治美は、さくらを見る。
さくらは、
まるで「思い出してごらん」とでも言いたげな顔をしていた。
――その時。
記憶が。
全部じゃない。
でも。
断片的に。
ぱっと、
浮かんだ。
土の上を転がるボール。
誰かの笑い声。
「はるー!」と呼ぶ声。
池に落ちる自分。
怒ってるふりをして笑うさくら。
治美の目が、
大きく開いた。
瞬き。
もう一回、
瞬き。
次の瞬間。
ガタッ!!
勢いよく立ち上がる。
テーブルが揺れた。
泉が即座に押さえる。
味噌汁外交危機、
回避。
「さくらさん!?」
沈黙。
池で、
鯉がぽちゃんと跳ねた。
さくらが、
ゆっくり笑う。
「遅かったわねぇ、はるちゃん」
治美は頭を抱えた。
「なんで気づかなかったの私!?
全然変わってないのに!!」
そのまま、
テーブルを回り込む。
ぎゅうっ。
さくらに抱きついた。
「ごめんなさい!!
顔って、予想してない場所で会うと分かんなくて!!」
泉はまだテーブルを支えていた。
「私は五回くらい察してた」
治美は、
さくらの手を握ったまま笑う。
「家は忘れてたのに、
空気は覚えてたんだ……」
さくらが、
優しく頷く。
「記憶ってねぇ。
頭より先に、
体が思い出すこともあるのよ」
泉はまた食べ始めた。
「いつき、
昔ひろしさんのトマト盗んでたよね」
「違うよ!」
治美が即反応する。
「農業的レンタル!!」
「最低な言い換え」
さくらが笑った。
「ほんと、二人とも毎日騒がしかったわぁ」
その名前が。
ふわっと、
空気に浮かぶ。
――いつき。
治美は、
ゆっくり座り直した。
「……元気にしてる?」
さくらは、
少し困った顔をした。
「元気よぉ。
なんか色々してる」
「色々?」
泉が聞き返す。
「勉強したり、
働いたり、
どこか行ったり、
また勉強したり」
「写真送ってくるんだけどねぇ」
「ビルだったり」
「パソコンだったり」
「空港だったり」
治美は真顔になった。
「……職業なに?」
さくらは両手を広げた。
「私もよく分かってないの」
泉が真剣に頷く。
「いつきっぽい」
治美は吹き出した。
「まだあの、
“宇宙の真理考えてます”みたいな顔してる?」
「してるわねぇ」
「まだ泣き虫?」
「昔ほどじゃないわね」
二人は笑った。
懐かしくて。
少しだけ、
くすぐったい笑いだった。
治美は頬杖をつく。
「うわぁ……
何年ぶりだろ」
さくらが、
さらっと言った。
「そのうち帰ってくるわよ」
沈黙。
治美が止まる。
「……へ?」
「夏休みだから」
「来るの!?」
「来るわよ?」
泉は、
火事を眺める顔をしていた。
治美は平静を装う。
失敗した。
「へぇー。
そっかぁ。
普通だねぇ。
全然、
池に落ちたところ見られた相手とかじゃないし」
さくらが笑う。
「押したの春美ちゃんだったけどねぇ」
「そこ重要じゃないから!!」
庭に笑い声が広がる。
風が気持ちよかった。
空気が、
柔らかかった。
――だから。
次の質問は。
少しだけ、
不意打ちだった。
「お母さんは元気?」
泉が、
そっと目を逸らす。
治美は一瞬だけ止まり。
でも、
すぐ笑った。
「元気だよ。
いつも通り」
さくらが懐かしそうに笑う。
「変わってるものねぇ」
「めちゃくちゃ」
「まだ海外?」
「うん。
でも、そろそろ戻ると思う」
さくらは、
どこか嬉しそうだった。
「会いたいわぁ。
お父さんにも」
治美は頷いた。
ほんの少しだけ。
静かな顔をした。
でも。
すぐ戻る。
「帰ってきたら、
絶対この家にも来るよ」
泉がぼそっと言う。
「三時間くらい掃除の話する」
「正論だから!!」
昼食のあと。
さくらは町を案内してくれた。
畑。
道。
昔、
遊んでいた場所。
治美は、
葉っぱに触れながら歩く。
「うわぁ……
ここ走ってた気がする……」
「人参、勝手に抜いてたわよ」
「細かいことは!!」
泉が爆笑した。
遠くには、
花森湖が見える。
青空を映して、
きらきら光っていた。
八月。
なのに。
風が、
少し涼しい。
「なんか今日、
涼しくない?」
治美が言う。
さくらは頷いた。
「今週、
急に冷えるらしいわよ」
泉が眉をひそめる。
「八月なのに?」
「この町、
たまに変なことするの」
嫌な予感みたいに。
その言葉だけが、
少し残った。
夕方。
二人は家へ戻った。
疲れていた。
満腹だった。
情報量も、
すごかった。
泉は、
そのまま畳へ倒れ込む。
「つまり、
お姉ちゃんは幼少期を部分的に忘れてた」
治美は天井を見る。
「忘れてたっていうか」
胸に手を当てた。
「別の場所にしまってた感じ」
静かな沈黙。
心地いい沈黙。
そして。
「……いつき、帰ってくるんだ」
泉が寝返りを打つ。
「もう緊張してる?」
「してない」
間。
「……ちょっと」
さらに間。
「めちゃくちゃ会いたいんだけど!!!」
家が、
ぎしっと鳴った。
夕日が、
ゆっくり傾いていく。
泉がぼそっと聞く。
「連絡先とか知らないの?」
「知らない。
引っ越した頃、
まだ携帯持ってなかったし」
「あー」
泉が頷く。
「昔って、
それで普通だったよね」
治美は、
静かに目を閉じた。
ここは。
知らない町じゃない。
帰ってきた場所だ。
そして。
何かが、
また動き始めようとしていた。
……まあ。
それは。
明日の治美が頑張る話である。
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