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第27話 — 武が出て行った日

緊急ニュース!?】

深夜の大事件発生!?


「兄、家出!」「保護者、大パニック!」

しかも妹はカンガルー方式で連行!?


水曜日の静かな夜。

いつものように平和…のはずだった春海の家で、まさかの事態が発生!


なんと、しっかり者(だけどまだ子供)の武が、真夜中にこっそり家を出てしまったのだ!


理由は――

責任感?

罪悪感?

それともただの思春期の暴走!?


一方その頃、春海は――

寝起き五秒で「捜索ミッション開始!!」


妹の芽衣をカンガルーの子どもみたいに抱えて、

真夜中の街を全力疾走することに!?


果たして武はどこへ行ったのか!?

そしてこの家族(仮)は、また一緒に笑えるのか――!?


今夜、物語は少しだけ痛くて、

でも確かに前へ進む。

水曜日の夜は、妙に静かだった。


芽衣はクマちゃんをぎゅっと抱きしめて、すやすや眠っている。

春海は仕事でくたくたになり、帰宅してすぐ畳の上でそのまま寝落ちしてしまった。


そして武だけが――

眠っていなかった。


暗い居間の中、手を組んだまま床を見つめて座っていた。


家を出る考えは、何度も捨てようとした。

芽衣のためにここに残ろう、と自分に言い聞かせてもいた。


でも、その夜――


彼は夢を見た。


母親の夢だった。


母が家を出ていく夢。

そして振り返って言うのだ。


「芽衣のこと、お願いね」


幼い自分が、芽衣の小さな手を握っている。

そのまま、扉が閉まる。


武は目を覚ました。


胸が締めつけられるようだった。

汗をかいていた。


そして、はっきりとした感覚が胸を刺した。


――「俺は、芽衣を置いていった。」


母親が先に自分たちを捨てたのだとしても。

彼女が一度も戻ってこなかったとしても。


それでも――


痛かった。


武は静かに立ち上がった。

音を立てないように、ゆっくりと。


キッチンへ行き、水を飲もうとしたとき。


それに気づいた。


テーブルの上に、封筒が置かれていた。

春海が昼間に置いたままのものだ。


電気代。

水道代。


金額は高かった。

とても高かった。


その瞬間、現実が拳のように胸に落ちてきた。


(俺たちのせいだ)


(春海さんが疲れてるのも、俺たちのせいだ)

(働きすぎてるのも、俺たちのせいだ)


武は封筒をぎゅっと握りしめた。


部屋の奥では、芽衣が幸せそうに眠っている。

春海は小さくいびきをかきながら、布団の上でぐったりしていた。


でも、その顔はどこか穏やかだった。


まるで――

すべて大丈夫だと信じているような顔だった。


武は思った。


(俺がいなくなれば…)


(芽衣は春海さんといられる)


(子供一人なら、きっと大丈夫だ)


(芽衣は…幸せになれる)


その考えは、胸を引き裂くほど痛かった。


それでも彼は――


芽衣を見た。

春海を見た。

そして机の上の請求書を見た。


そして、決めた。


今夜、出て行くと。


起こらなかった別れ


武はコートを着た。

スニーカーの紐を結んだ。


芽衣のクマちゃんを手に取ったが――

そっと彼女の隣に戻した。


「……ごめん、芽衣。」


小さくささやく。


「大丈夫だよ。お前は。」


それから、布団で変な体勢のまま寝ている春海を見た。


「あなたのせいじゃない。」


「でも、俺がいると迷惑なんだ。」


そして――


家を出た。


静かに。


ドアを強く閉めることもなく。


まるで、最初からいなかったかのように。


数時間後。


春海は喉の渇きで目を覚ました。


「武ー?」


キッチンへ向かいながら声をかける。


「明日仕事なのに…私の目覚ましどこ――あれ?」


「電気、全部消してくれてる?」


静まり返っていた。


春海は畳に座り込み、少し大きな声で呼んだ。


「武? なんか食べる?」


返事はない。


寝室をのぞいた。


芽衣は眠っている。


でも――


武がいない。


春海の体が凍りついた。


「……武?」


「武?」


「武!?!?」


家の中を走り回った。

全部の電気をつけた。


トイレを開ける。

箱の後ろを見る。


どこにもいない。


心臓が喉まで跳ね上がった。


そして――


恐怖が押し寄せた。


罪悪感が。


そして、ずっと考えないようにしていた言葉が頭に浮かんだ。


(あの子…)


(私が見捨てると思ったんだ)


(あの時の言葉…きっと…)


一気に重さがのしかかった。


「追いかけなかった…」


「何も聞かなかった…」


「この子たちのこと、私…何も知らない…」


声が震えた。


「武が辛そうなの、分かってたのに…」


「ゲームすれば大丈夫だろうって…」


「バカだ…私…ほんとバカ…」


彼女は芽衣のところへ行った。


優しく起こす。


「芽衣…」


「ミッションを開始するよ。」


芽衣は眠そうに目をこすった。


「……武?」


春海は大きな布を持ってきて、体に結びつけた。

スリングみたいにして芽衣を抱える。


まるでカンガルーの子どもみたいに。


「探しに行こう。」


真夜中の街、捜索ミッション


春海は走った。


人生で一番の全力疾走だった。


髪はぼさぼさ。

足元はサンダル。

しかも凍えるような寒さ。


暗い道を。

路地を。

公園を。

コンビニを。


「武ーーーー!!!」


「武ーーー!!!」


「お願いだから返事して!!!」


芽衣は胸元で震えていた。


角を曲がるたび、息は荒くなる。

空っぽの道を見るたび、絶望が増えていく。


駅へ行った。

店を閉めているおじさんに聞いた。


湖の近くも。

学校の前も。

図書館の周りも。


それでも――


いなかった。


どこにも。


何時間も探したあと。


春海は、道の真ん中で立ち止まった。


息が荒い。

手が震える。


芽衣は、また彼女にしがみついたまま眠ってしまっていた。


春海は笑った。


壊れたような笑いだった。


「私…ちょっとおかしいよね…」


「きっと…帰ってくるよね…」


「はは……帰って…くるよね…」


でも。


通りには誰もいなかった。


静けさだけが、胸を刺した。


春海はふらふらしながら家に戻った。


芽衣をベッドに寝かせる。

そっと額にキスをした。


そして、自分に言い聞かせるように呟いた。


「街にいないなら…」


「あと一か所だけ。」


深く息を吸う。


覚悟を決めた。


(おじいちゃんの家に行こう)


武がそこへ行ったのかもしれない。


何か手がかりがあるかもしれない。

何か残っているかもしれない。


思い出でも。

物でも。


何でもいい。


だって――


春海は、彼を失うつもりなんてなかった。


絶対に。

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