第26話 — 制服を着た災難と、恋する上司
今日の午後、会社を自然災害が襲った。原因は大沢はるみだった。
今日もまた、すべてが静まり返っていた。
深刻だ。
不道徳だ。
灰色だ。
まるで壁が「感情は入り口に置いておけ」と言っているかのようだった。
そして――
ドカーン!
ドアが勢いよく開いた。
「おはようございます! 社員の皆様!」
声が廊下に響き渡った。
鉢植えが揺れた。
67歳の受付嬢は、お茶をこぼしそうになった。
机の後ろで。
黒沢ケイは顔を上げた。
そして――
彼女は笑った。
ほんの一瞬。
無意識に。
あまりにも自然すぎる笑顔。
高橋葵は後ろの席から呟いた。
「終わった。日が昇った。」
バッグを置く前に始まる。
「田中さん!!今日の髪型最高です!!高級シャンプーのCMいけますよ!!」
78歳の田中、赤面。
「そ、そうかねぇ…」
「大塚さん!!そのマフラー素敵!!抱きしめていいですか?!」
「どうぞどうぞ〜!」
もう抱きついている。
止める者なし。
「え、新人さん?!はじめまして?!ようこそ市役所へ!!今日絶対うまくいきます!!私が保証します!!」
新人、感動でほぼ泣く。
「三木さん、そのネイル可愛すぎません?!」
「梅原さん!!今日寝ました?!顔がいいです!!」
「金山さん!!そのヒゲ…芸術です!!!」
普段は静かな庁舎が、少しずつ明るくなる。
清掃員がぽつり。
「大沢さんが来ると、蛍光灯まで明るくなるねぇ。」
黒沢、聞いてしまう。
笑うな。
笑うな。
――無理だった。
「……大沢さん。」
咳払い。
「おはようございます。」
その0.2秒後。
バサァッ。
バッグ落下。
書類飛散。
名札が目に直撃。
「痛ぁああああ!!これ違法じゃないですか?!」
黒沢、吹き出す。
すぐ咳で誤魔化す。
高橋、完全に目撃。
「へぇ〜。部長、朝からご機嫌ですね。」
黒沢、瞬間冷凍。
「高橋。」
「はい。」
「始めるな。」
高橋、悪魔の微笑み。
「“大沢さんが入るたびに恋する高校生みたいに笑ってる”なんて、僕は絶対言いませんよ?」
「高橋。」
ペンを握る手が強い。
大沢春海・仕事編① ポンコツ豪華版
パソコン起動。
フリーズ。
春海、天井を見る。
「私もフリーズしたい。」
黒沢、書類を持って近づく。
「先週分の身分証の確認をお願いします。」
「はいっ、黒沢部長!!」
「それと。コーヒーをこぼさない。紙を破らない。自分の手に判子を押さない。」
「一回だけです!!」
「今朝です。」
「……あ。」
書類の山を渡す。
「整理するだけでいいです。」
「任せてください!」
――15分後。
「黒沢部長ぉおおおお!!」
「何ですか。」
「書類を真っ二つにしました!!」
黒沢、目を閉じる。
7秒数える。
開ける。
怒らない。
なぜか笑う。
「…でしょうね。」
「ハサミが裏切ったんです!!」
「整理にハサミは使いません。」
「役に立ちたかったんです!!」
黒沢、無言でクリップをつける。
「はい、直りました。」
「天使ですか?」
「上司です。」
「天使上司。」
視線回避、過去最速。
プリンター戦争
春海、プリンターの前。
「爆発しないでね…お願い…」
ボタン。
ガガガガ。
ギギギ。
シュッ。
熱い紙が顔に直撃。
「ぎゃあああああ!!」
黒沢、即ダッシュ。
「何をしましたか?!」
「存在しただけです!!」
機械確認。
「中に5枚詰まってます。」
新人、青ざめる。
春海、気づく。
「あーー!!私でした!!すみません!!」
新人、生存確定。
高橋、再登場。
「部長、奥様の管理大変ですね〜。」
「違います。」
「まだ。」
「高橋。」
深呼吸。
でも笑ってしまう。
また。
休憩時間
春海、椅子に倒れている。
魂半分抜けている。
黒沢、通り過ぎる。
止まる。
迷う。
そして――
そっと。
前髪を整える。
一瞬。
春海、目を開ける。
黒沢、凍結。
「え。」
「虫が…いました。」
「私の髪に?」
「巨大で…突然変異の。」
じーーー。
「黒沢部長、嘘つくと鼻動きますよ。」
「動きません。」
「動いてます。」
沈黙。
春海、笑う。
黒沢、また負ける。
終業後
「大沢さん、送ります。」
「大丈夫です!足あります!」
「それが一番心配です。」
「ひどい!」
彼女が去る。
黒沢、立ち尽くす。
高橋、飴を噛みながら。
「部長。」
「始めるな。」
「大沢さんのこと、限定版アニメみたいに見てますよ。」
「高橋。」
「息するだけで笑ってます。」
黒沢、真っ赤。
高橋、大爆笑。




