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第25話 — すべてを変える小さなこと

ゲームは得意だと豪語する春海。

でも本当に強いのは彼女?それともボス戦より手強い現実?


今夜はただのゲームのはずだった。

——けれど、小さな時間が、誰かの心を少しだけ変える夜。

春海は息を切らし、ふらふらで、心までボロボロの状態で帰宅した。

まるで敵の城に突撃するみたいにドアを開ける。


「ただいまーーー!!私の大事な子どもたちーー!!会いたかったーー!!助けてーー!!」


武瑠はキッチンで夕食の皿を片付けていた。

芽衣はいつものように走ってきて、春海に飛びつく。


「ハルミ!ハルミ!ねえ、武瑠がまたチキン作ったよ!」

「愛してるーー!!でも…はぁぁ…今日ほんとサーカス火事だった…」


春海はその場で頭をかきむしる。


「上司に怒られるし、プリンターは私のこと嫌いだし、電車は顔の前で閉まりそうになるし、泉から“生きてる?”って15通もメッセージ来るし…」


武瑠は黙ってそれを見ていた。


春海はリュックを床に落として、ぶつぶつ続ける。


「まだ洗濯して、おやつ準備して、芽衣の明日の服出して、武瑠の宿題確認して——あ、宿題ないんだっけ——それでも石けん買わなきゃだし、明日のご飯も作って、お弁当も準備して、ああもう私早く寝なきゃ——」


そこでようやく息切れして止まる。


芽衣はケラケラ笑った。


「ハルミ、顔ゆがんでる!」


「いつもあんな顔だよ。」武瑠が小さく言う。


春海は深呼吸して、


「でも大丈夫!」と髪を整えた。

「全部やればいいだけ!…真夜中までにね…そのあと気絶するだけ!」


そして当然のように明日の予定を読み上げ始める。


「朝起きて、朝ごはん作って、芽衣を準備させて、武瑠のご飯置いて、米も買わなきゃ、石けんも、洗濯も、それから——」


武瑠の手が布巾をぎゅっと握る。


その言葉ひとつひとつが、彼の中で膨らんでいた考えを叩く。


(…ハルミ、疲れてる。すごく疲れてる。…僕のせいで。)


春海は何も気づかない。

彼女はいつも通り、“明日まで生き延びるモード”。


でも武瑠は思う。


(ハルミは芽衣だけなら大丈夫だ。芽衣はハルミが好きだ。…僕は邪魔だ。

芽衣の幸せを優先するって、約束した。

…僕がいなくなれば、楽になる。)


その瞬間、彼は静かに決めた。


春海はただ、少し表情が固いのを見て、眠いだけだと思った。


就寝時間のはず


芽衣は布団に入る前にそのまま寝落ちした。


春海はへとへとで武瑠を探す。


「武瑠?もう寝——」


襖を開ける。


武瑠は畳に座っていた。

小さな携帯ゲーム機。

電気は消えたまま。

音もない。

画面の光だけが、真剣な顔を照らしている。


「武瑠?」

「まだ寝ない。」彼は画面を見たまま言う。

「武瑠…もう10時だよ。」

「先に寝て。朝早いでしょ。僕はあとで寝る。ちゃんと早く起きて準備もするから。」


春海は少し不思議に思った。


怒っているわけでも、機嫌が悪いわけでもない。


ただ——

静かすぎる。

閉じすぎてる。

ひとりすぎる。


そこで彼女は、人生で一番“プロっぽい”決断をした。


「私も一緒にゲームする。」


武瑠がぱちっと瞬きする。


「…なんで?」

「したいから!」春海はどさっと座り、前に自分で壊して直した2つ目のコントローラーを掴む。

「それに、あんた今、変なこと考えてる顔してる。」

「してない。」

「してる!!その顔知ってる!!私が学食でフラれた時と同じ顔!!」


武瑠は恥ずかしそうに目をそらす。


春海はスタートを押した。


「はい開始!私が負けたら寝る!」

「意味わからない。」

「いいから黙って負けなさい!!」


ゲーム開始。


最初は武瑠の勝ち。

次は春海がまぐれで勝ち。

次は武瑠が手加減して春海の勝ち。

その次は、春海が2センチの穴を飛び越えられず即死。


ふたりで笑った。

ちゃんと笑った。


武瑠の、めったに出ない小さな笑い声が、奇跡みたいにこぼれる。


春海はじーっと見て、


「武瑠…明日もやろっか?」

「…たぶん。」

でも口元は少し上がっていた。


そのまま1時間。

いや、2時間。

いや…3時間。


時計を見た春海:


「ぎゃああああ!!私もう寝る時間すぎてる!!」

「早く寝るって言ってたの忘れてたね。」

「私はいつも忘れるの!!武瑠のせい!!」

「ここにいたのは自分でしょ。」

「だってあんた私のゲーム少年なんだから応援しなきゃでしょ!!」

「僕はあなたのじゃない。」

「そこ否定されると傷つくーー!!」


ふたりは競争みたいに部屋へ走る。


春海は電気を消し、


笑ったまま眠った。


武瑠も。


でも目を閉じる前に、思った。


(…もしかして。

…まだ、出ていかなくてもいいかもしれない。)

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