表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

第23話 — 春海家の“ちょっと怪しい静かな日曜日”

速報!


今朝、

とある静かな町の、どこにでもありそうな一軒家で――


珍しい現象が確認されました。


鍋は一つも爆発せず。

子どもが叫びながら走り回ることもなく。

料理の大惨事も発生していません。


しかし――


一人の女性が…


ソファに寝転び、

天井を見つめながら、

「私、もしかして死んだ?」と本気で疑っていました。


目撃者によると、


「ただ…静かすぎるって気づいただけらしいです。」


とはいえ、


その空気はまるで、

何かが盛大に起きる直前の数秒間のよう。


これは平和なのか?


それとも罠なのか?


——真相は、まだ誰にも分かりません。

日曜日の朝は、びっくりするほど静かだった。


本当に、

静かすぎて——


ソファにおしゃれに倒れていた春海は、疑うように片目だけ開けた。


「……いずみ……」

天井に向かって小声でつぶやく。

「私、もしかして死んだのに誰も教えてくれてない?」


……返事なし。完全な静寂。


芽衣は畳の上でくまちゃんを抱きしめて熟睡中。

武瑠は机に座って、本人いわく「重要」らしい謎の工作を組み立てている。

春海から見れば、どう見ても“ゴミから生まれた現代アート”。

泉は……たぶん地震レベル7でも起きないくらい爆睡中。


春海は机の上の仕事の書類を整え始めた。

まるで古代ルーン文字を解読するみたいに。


「よし…これは左…これはゴミ箱…これは別のゴミ箱…これは見なかったことにして…

あ、これは可愛い。花瓶の下に置こう」


パン、と手を叩く。


「整理完了!私、めっちゃ大人!」


武瑠は顔も上げない。


「全然片付いてない」


「武瑠くんね、大人になったら分かるの。

“片付いて見えたら片付いてる”の」


「そんなルールない」


「私の世界にはあるの!」


その時、芽衣があくびをして起き上がった。

もぞもぞ歩いてきて、机にたどり着く。


「……春海ぃ……髪やって…?」


春海の心が内側でキラッと輝く。


「任せて!それなら出来る!

スープとご飯と卵以外なら!」


「もういいから!」

武瑠が慌てて止める。

(料理の失敗談が20個並ぶ前に)


春海はブラシを持って、芽衣の髪を優しくとかし始めた。


……その時。


思い出してしまった。


あの恐怖。


良い映画の途中に急に入る不快なCMみたいに、

あの恥ずかしい記憶がフラッシュバック。


ブラシが空中で止まる。


「……泉……」

魂が口から抜けそうな声。

「めちゃくちゃ痛いこと思い出した…」


ちょうど寝起き顔で現れた泉がため息。


「今度は何…?」


春海は胸に手を当て、ドラマ全開。


「金曜日…圭が門のところに来た時…」


「春海、やめて」


「私、部屋着だったの!!」


「やめてって」


「しかもシミ付き!!何のシミかも分からないやつ!!」


「春海ほんとに無理」


「しかも固まったの!!トラック見たニワトリみたいに!!」


泉は深呼吸。


「春海、ほんと恥ずかしい人ね。誰も気にしてないって」


「私は気にするの!社会が気にするの!宇宙が気にするの!」


芽衣が首をかしげる。


「圭ってだれ?」


春海、額に手。


「トラウマよ、芽衣。

私の人生の黒歴史の1ページ」


武瑠が淡々と:


「春海さん、いつもだらしないし」


「武瑠!?今日やけに私を刺してくるね!?」


「事実言ってるだけ」


「事実はいらない!情緒的サポートが欲しいの!」


泉が笑う。


「で、その話ちゃんと説明しなよ。子どもたち分かってないでしょ」


春海は真面目な講義を始める顔になる。


「いい?ここにはね、三つの町があるの。

すごく近くて…二歩歩いたら別の町、さらに三歩でまた別の町。ほぼ境界線ない」


「なるほど…」

芽衣は分かったふりでうなずく。


「私の職場は隣町。圭もそこに住んでるの」


芽衣、自然に:


「その人、春海の彼氏?」


武瑠、即座に振り向く。


春海、目を見開く。


「違う違う違う!!絶対ない!!神様お願いだから!!私そんな—いや—無理!!」


「わ、落ち着いて」泉が笑う。

「そんな必死だと逆に好きみたい」


「好きじゃない!!一生ない!!

だって…遠いし…」


「隣町ね」


「十分遠いの!!」


勝ち誇る春海。


武瑠は少しムッとしながら工作に戻る。


芽衣の髪が整い、本人は満足げにニコッ。


春海は伸びをして、ふと周りを見る。


……静か。


完璧に静か。


「……変だな」

小声。

「静かすぎる。何か爆発する前触れ?運命が何か準備してる?それとも—」


泉が口を手でふさぐ。


「春海。日曜だよ。みんな休むの」


「信用できない」

春海、目を細める。

「宇宙が私にこんな静かな日くれるわけない。絶対罠」


「はいはい」泉が笑う。


そして、ほんの少しの間——


家はそのままだった。


穏やかで、

やわらかくて、

あたたかくて、

朝のお茶とパンの匂いがして。


春海は机に座り、

芽衣は色鉛筆でお絵かき、

武瑠は“別に楽しくないけど”みたいな顔でそこにいて、

泉はコーヒーを淹れる。


ほんの数分。


本当に、家族みたいだった。


春海は小さく微笑む。


「……いいなぁ、これ……」


武瑠が気づかれないように横目で見る。


そして。


ここから始まる。


小さくて、

見えなくて、

でも確かに始まる。


彼の不安。


この幸せが、

長く続きすぎるんじゃないかという、

静かな恐れ。


……それは、水曜日の話。


今はまだ。


ただの、

普通の日曜日。


それだけで、十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ