初めての停電の夜(尊厳も一緒に消えました)
新しい家での初夜は、心地よい眠りを約束していた…
しかし、到着したのは暗闇の中。つまずき、電気代を忘れていた。
危険なろうそく、屈辱的な転倒、そして劇的な決断の中で、
晴海は危うく二人の子供と、そして自身の正気を失うところだった。
明かりのない家、必要以上に傷つく過去、そして、様々な息吹に満ちた夜の静寂。
もしかしたら電気はなかったのかもしれない…
しかし、そこではもっと大切な何かが灯り始めた。
買い物袋は5つ。
中身は12個の記憶にない商品。
体力はゼロ。
太陽はすでに山の向こうへ消え、家は静かで、あたたかくて、木の香りがして――
そして、異様なほど暗かった。
春美がドアノブに手をかけ、扉を開けた瞬間――
パチッ。
……。
電気が一度、二度、瞬いて。
――死んだ。
「……いずみ?」
春美は家を驚かせないように、そっと呼んだ。
いずみはスマホのライトを顔に当て、
「言ったよね?」という顔をしていた。
「春美……電気代、払った?」
沈黙。
春美は瞬きをした。
いずみは腕を組んだ。
子どもたちは二人を見上げていた。
まるで“ダメな大人の生態”のドキュメンタリーでも見ているかのように。
「……その……」
春美は前髪を直す。
「最初の週から払わないといけないとは……知らなくて……」
「当たり前でしょ!!」
いずみが叫ぶ。
「電気は“愛と善意”では点かないの!!」
春美は深呼吸をして、
なぜか前向きに言った。
「だ、大丈夫!ろうそくを使えばいいの!
侍映画みたいな、和風で落ち着いた夜――」
「それ“雰囲気”じゃない。“エネルギー貧困”だから。」
その瞬間――
ドンッ!!
「いったぁぁ!!」
「春美!?」
ライトが向けられる。
「だ、大丈夫……これは……ストレッチ!!」
床に倒れたまま言う春美。
尊厳は完全に消滅していた。
芽衣が走ってくる。
「ハルおばちゃん、生きてる?」
「プライドだけ死んだ。」
武流は深いため息をついた。
年齢に似合わない、慣れすぎたため息。
「……僕、家に戻る。」
「え?」
春美は片目を開ける。
「“家”って、どこ?」
「おじいちゃんの家。
今日はここに泊まらなくていい。」
――その瞬間。
春美、心停止寸前。
「え、え、え、え!?
か、帰るの!?!?」
「やだぁぁぁ!!」
芽衣が泣き出す。
暗闇の中、春美は芽衣を探して転び、物にぶつかり、完全に迷子。
武流は妹の不安に気づいた。
「毛布を取りに行くだけだよ。」
空気が少し落ち着く。
「へぇ〜?」
春美が妙に詰め寄る。
「あったかい?ちゃんとした家?」
「……家だよ。」
「電気は?」
「……一応……」
「それ答えになってない!!」
結局、向かった“おじいちゃんの家”。
古い。
とにかく古い。
幽霊ですら「リフォームしよ?」と言いそうな家。
ドアを開けると――
ギィィィ……。
「……ここに住んでたの?」
春美は青ざめる。
「他に選択肢がなかった。」
壁にはカビ。
生態系が成立しているレベル。
「病気になるでしょ!!」
芽衣が小さく言った。
「暗かったけど……武流が、くっついていいって……」
武流の顔が一瞬で真っ赤になる。
春美の胸が、じわっと熱くなった。
「……必要なものだけ持って帰ろう。
二度と、ここでは寝ない。いいね?」
武流は視線を逸らした。
宝箱の中には――
毛布二枚。
歪んだ枕。
そして、古くて継ぎはぎだらけのぬいぐるみ。
「いた!!」
芽衣が抱きしめる。
「クラちゃん!!二度と逃げないで!!」
「……名前、クラちゃん?」
「うん!」
「ちょっと待って!
クマちゃんとクラちゃん混乱する!!」
帰宅後も真っ暗。
ろうそく。
また転ぶ春美。
「火事にする気!?」
「床が私を嫌ってる!!」
結局――
みんなで布団。
「今日はお風呂なし!」
「最高!」
四人の呼吸が、暗闇で重なる。
光はない。
でも――心は、明るかった。
※5分後、
最後まで横にならなかった“元侍”が
人間ブリトーの中心で爆音いびきをかいた。




