後編――高すぎる店の伝説。
本日、地方都市にて――
一人の一般女性が「大人になる瞬間」を目撃されました。
その名も、ハルミ(社会人・ドジ・計画性ゼロ)。
彼女の本日の任務はただひとつ!
「子どもたちの服を買う」
――それだけのはずでした。
しかし!
・子ども服はなぜか大人より高い!?
・サイズ感覚、完全崩壊!
・「可愛い=買う」は国家級の危険思想!
・財布、静かに死亡!
現場には――
✔ 冷静なツッコミ担当・イズミ
✔ 無口だが現実的な兄・タケル
✔ 「それ可愛い!」ですべてを破壊する妹・メイ
そして追い詰められていく主人公、ハルミ!
果たして彼女は
「必要最低限」だけを買って帰れるのか!?
それとも
「親バカ覚醒ルート」へ突入してしまうのか!?
「高すぎる店の伝説」**
大きな街はにぎやかだった。
低いビルが並び、簡単なショッピングモールがあり、
「セール開催中!」と書かれた旗が揺れている――
なお、全然セールではない。
ハルミは歩道の真ん中で腰に手を当て、大きく深呼吸した。
「よし。作戦はシンプルよ」
「……いつからあなたの作戦がシンプルだった?」とイズミがぼそっと言う。
「今から!」とハルミは堂々と宣言した。
「必要なものだけ!最低限!それ以上は買わない!」
―――10分後。
「イズミィィ!!
この子ども用ジャケット、千円もするのぉぉ!?」
「ハルミ。街は大きくても、慈善事業じゃないの」
「小さいのよ!?プリンくらいのサイズよ!?」
「高級プリンって知ってる?」
メイは色とりどりの服が並ぶラックを、目を輝かせながら指でなぞっていた。
タケルは少し距離を取り、腕を組んで無関心を装っている……が、
その目は素早く値段と実用性を計算していた。
ハルミは服を三枚持って近づく。
「よし、サイズ確認ね!メイ、まずはこの可愛いワンピ――」
「ハルミ」イズミが布をつまむ。「これ、12歳サイズ」
ハルミは瞬きした。
「メイって……何歳だっけ?二歳?三歳?」
「7歳!!ハルミ、7歳!!」
「あぁ……じゃあ……ちょっと大きいかも……」
イズミは鼻筋を押さえた。
「“ちょっと”じゃない。
彼女、布の海に沈むわ。アメーバになる」
メイは巨大なワンピースを見つめ、
「着れるよ?」と言いたげな目をしている。
タケルがついに口を開いた。
「……サイズ、全然分かってないですよね」
「“おばさん”って言わないで!!」
ハルミは心に致命傷を負った。
「私は若くて、今どきで、フレッシュなの!」
「確かにフレッシュそうですね」とタケルは真顔で言った。
イズミは笑いをこらえてむせた。
■試着室:ファッション悲劇コント
試着室で、ハルミはメイにTシャツを着せようとする。
……しようとした。
なぜなら、
メイは袖に頭を入れ、首の穴に腕を突っ込んでいたからだ。
「違う違う、メイ。そこは異世界への入口じゃない」
五回の挑戦と二回の転倒の末、
ようやく正しく着られた。
ハルミがカーテンを開ける。
「じゃじゃーん!」
「ハルミ……」イズミが冷静に言う。
「またサイズ違い。肩が肘にある」
「大丈夫!成長するから!」
「五分では成長しない!!」
タケルは
『確定申告してる方がマシ』
という顔をしていたが、
妹が嬉しそうにくるっと回るのを見ると、少し表情が柔らいだ。
「……まぁ、可愛いけど」
「ほら!」ハルミが勝ち誇る。
「男性からの精神的サポート!」
タケルはそっと顔を背けた。
■日用品コーナー:石けん戦争
ハルミはカートを押し、成分表示を真剣に読む。
「子ども用シャンプー……低刺激石けん……歯磨き粉……」
止まる。
「なんでこれ、私の昼ごはんより高いの!?」
「子どもは肌が敏感なの」
「私だって敏感!!」
「あなたは風にもアレルギー出るでしょ」
メイが一本を嗅ぐ。
「甘いにおい」
「じゃあ三本ね」
タケルは普通の歯ブラシを取る。
「これでいいです」
「ダメ!」ハルミはキラキラのを取る。
「こっちの方が楽しい!」
タケルは
“人生とは……”
という顔をしたが、文句は言わなかった。
■靴屋:ハルミの魂が砕けた瞬間
可愛い子ども用ブーツを見つけたハルミ。
値札を見る。
「……イズミ……
今……二千円って……書いてあった……?」
「普通よ」
「普通!?
ハンバーガーに入るサイズよ!?」
メイが大事そうに触る。
「……きれい」
ハルミは胸を押さえた。
「……分かった。買う!」
「ハルミ!?」イズミが止める。
「正気!?」
「子どもの夢は壊せない!!それは一生残るの!!」
タケルがぼそっと言う。
「……裸足でも――」
「黙りなさいタケル!!」
ハルミは感情が限界だった。
「あなたも靴は必要!!」
「……はい」
■ハルミの心を破壊した光景
歩いていると、ハルミは見てしまった。
小さな子にコートを着せようとする母親。
子どもは泣き叫び、蹴り、噛みつき、三回脱いだ。
母親は完全に敗北していた。
ハルミは固まった。
イズミはすぐに気づく。
メイは高いブーツを持ったまま、静かに手を握る。
タケルは黙って見ていた。
ハルミは小さくつぶやいた。
「……叫ばないでくれてありがとう……
蹴らないでくれてありがとう……
どうか……このままで……」
イズミが笑った。
「母親みたいな思考ね」
「言うな!!」
数時間後。
メイ:新しい服、靴下、フルーツの匂いのシャンプー、高級ブーツ。
タケル:シンプルな服と丈夫な靴。
ハルミ:心のダメージと恐怖の請求額。
イズミ:お菓子。
ハルミは袋を顎まで抱えて店を出た。
「イズミ……これ……いつ払えるの……?」
「一生無理」
「正直で助かる」
「どういたしまして」
メイは疲れながらも幸せそうに手を握る。
タケルは黙って袋を持つ。
ハルミは二人を見て、深く息をついた。
疲労困憊。
金欠。
たぶん冷や汗。
それでも――
「……新しい服、すごく似合ってた……」
イズミが微笑む。
「完全に親バカね」
「黙って!!」
こうして彼女たちは帰路についた。
計画された家族ではないけれど、
即興でも、ちゃんと機能している家族として。




