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近視リスト

 ジャンルについての話に悩んでいた。そもそもジャンルなんていうのは門外漢が理解した気になるための区分けであって、実際は常にそれらの複合したものが立ち並んでいる。必ず言えることとしては、自分や知識量の同等な仲であればジャンルというのはむしろ語弊を生む種にしかならない。たとえば今夜の演奏に呼ばれていたジャズトリオなんかは、トランペットソロの大事な最後をピアノが勝手に掻っ攫っていくと、トランペットは演奏を中断し怒りと悲しみでチカチカ点滅した顔を浮かべ、ステージを降りてそのままバックヤードの闇へと消えてしまった。まったく大した腕前でもなかったくせして、ソイツが居なくなったあとはすぐに代役を見繕ってきたのか、裏の方から聞こえた別のトランペットの音によって残り2人のトリオジャズをギリギリで成立させていた。この店では飲み物を芋焼酎以外頼む選択肢がなかった。別にジャズだから芋焼酎という決まりはないだろうに、だが芋焼酎を愛している僕にしてみれば一向に構わないことだった。以降ステージ上には欠けて初めてトリオという気迫が漂いだすのだが、僕は自らの酔いと眼前の音楽の高揚とが並走して両者決して譲らないデッドヒートがすでに電気信号やニューロンの処理速度を限界値付近まで急上昇させ、手足の筋肉の震えは多少の未来を予知する際の副作用に過ぎなかったことを予感の前触れとして受け取っていた。全てを終えた今だからこそ言えることは、このトリオは誰も敵わないくらい凄いということ。そして芋焼酎はいつどんな時でも美味いということだ。ここで注意したいのは、特定の時間と場所に立ち会わなければならない生演奏と、いつでもそこで待っていてくれるアルコールとを本質的に混同してはならない。だが事実それらの合わせ技は強烈であり、生物としてのリミッターは解除され、あとは発生した時空の粘度に自らの身体を飛び込ませるだけなのだ。身体は器であり借り物なので意識して大切に扱わなければいけない。社会人である以上物は物であり物として我々は分類されどその物には溶け込めず、明日という日が不滅であることを誓いに本社ビルを見つめる必要があるからだ。ああ、なんて神々しいんだろう。後光が3つ差している。人間にはそれら3つの光が同じ姿に見えるだろうが、だからといって3つを同一視することは固く禁じられている。すると初めから1人欠けることさえも筋書きのうちあるいは欠けたように人間の目には映ったということなのだろう。本社ビルの後光は正三角形に位置し、各点から焦げたスーツ姿の僕を見下ろしていた。僕は正三角形の内側へ貧弱な視線を通す。するとやっと欠けたトリオの裏の真の3人目の姿が浮かび上がってきて、僕は震える手を抑え芋焼酎の残りを一気にかけ流し、顔全体がびしょ濡れになった。そして僕の挙動不審は現実世界にて功を奏し、店主から次の1杯は無料という条件付きでさっさと追い出されることとなった。出禁だ。■■■■■■ック!!

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