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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天からの告発:『異世界転生』は、ただ神の出世利用のためにある

作者: 鶴嶌大晩

天界は争いが激しい。今日も神々が参加している血生臭い戦闘が、そこかしこで行われている。


ただこの争い、通称として天界ではゲームと呼ばれているこれは・・・神が実際に互いの命を取り合うようなものではない。


これは死した人間の魂を再利用し忠実な駒に変化させ、専用フィールドの中で戦わせるもの。この勝負に勝利した神は得点を獲得し、それに応じて自身の肩書きは昇格していく。つまり勝てば勝つほど天界で出世できる遊戯だというのだ。


だから神々はゲームの戦力として使えそうな『良質たる魂』を日々、血眼になって探している。


出世は多くの神が当たり前のように目指している目標であり、肩書きが上がればそれだけ美しい部下や名声を手に入れることができる。高い位にまで登り詰めてそこに鎮座することが、神々にとって誇らしい(ほまれ)と化しているのだ。


このような神が特に好む『良質たる魂』というのは、生前に後悔・不満・不幸があった人間のそれが主である。


逆説的に言えば生きているうちに何かをやり切った、もしくは達成感に満ち溢れた魂はゲームの戦力として使い物にならない。それらが死後に望むのは穏やかな成仏であり天界に辿り着いても静かに佇んでるだけだ。


生前にて燃え尽きた清らかな魂がどれだけ天界に転がっていようが、それは今の神々にとって邪魔くさいだけ。中にはあろうことか顔をしかめて蹴飛ばす神だっている。


ただそうではない、負の感情を抱えたままの魂は恰好の獲物となる。そもそもこれは見た目でも分かりやすく、せわしなく動きながらどす黒く禍々しいオーラを放っているのだ。


このような魂を見つけた神は他の者に奪われないよう、文字通りそれに飛びつく。そしてその魂の内部を鑑定し、生前における後悔や不幸などを入念に調べる。それから神々はこの魂を『異世界』と呼ばれる仮想空間へと送るのだ。


この仮想空間、より細かく説明すると捕まえた魂を戦闘用にカスタマイズするための場所だ。その魂が生前に強い憧れを持った世界観を忠実に再現し、都合よく活躍できる場を設け、向上心をくすぐるような目的を自動設定する。


分かりやすく例を挙げよう。


ある神が激しくのたうち回る『良質な魂』を天界の隅で発見。


その神は真っ黒に染められた魂を見つけた途端、とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、それを鷲掴みにして持ち上げた。そしてその中をじっと見つめてパーソナルな情報を細かく調べる。


これによりその魂が過ごした人生内容や密かに抱いていた欲求を把握すると、神はそれに基づいて『異世界』と呼ばれる仮想空間を創造。


それからその魂は神によって多種多様な特殊能力を無理やり混ぜ込まれ、生前とは大きく様相が変わって見える『異世界』へも強引に『転生』させられ、ただの人形である敵と戦い仲間と親睦を深め恋愛を楽しむ。


前世とは違う人生を歩めば歩むほど、この魂は『異世界』で奮闘しその時間を楽しむ。


最後には『異世界』の巨悪・・・いわゆる魔王などと呼ばれるラスボスを倒せば、その魂は完全にゲームにおける戦闘向きのものへとチューニング完了だ。


最終目的を達成後、その魂は仮想空間から神の手によって回収される。だが『異世界』でどれだけ達成感を得ようが、そこは偽りの世界に過ぎない。生前における後悔など本当は払拭できていない。魂の色合いがどす黒く、せわしくなく動き続けるのは変わらず、静かに佇むことはない。


そして・・・ゲームは行われる。


戦闘の味や技術を好意的に学習し、さらに仮想空間へと送られる直前に神から混ぜ込まれた特殊能力も受け入れてしまった『良質な魂』は、持ち主の出世のためにフィールドで戦う駒と化すのだ。


以上が簡単な一例にはなるが、ゲームおいてフィールドで戦うのは『異世界』へと送られて帰還した人間の魂同士。それぞれが『異世界』で覚えた戦闘技術や特殊能力を駆使して戦うのだが、言い換えれば惨たらしい同種殺しをさせていると言える。


勝てばまだ良いが、負けた神はいつも自身の駒に八つ当たりだ。ゲームに敗れて得点を獲得できず悔しいを思いをした神は、活躍できなかった魂に耐えがたいほどの苦痛が伴う罰を与える。


これが・・・これが神がやることなのだろうか。実体の無い仮想空間で甘ったるい偽りの飴を与え、そこから回収後は身を引き裂くほど恐ろしい鞭を使い私利私欲のために戦わせる。


こんなことが許されてはいけない。天界の神々は慈悲の気持ちを抱いて魂の浄化に勤しむべきだ。昔は出世争いなど皆気にしてなかった。


悪しき欲求を秘めていた神が発案したこの邪悪なゲームは、いつからか流行・発展・常態化し、それに支配された天界の倫理観は崩壊してしまった。私は同じ考えを持つ数少ない仲間と共にこの潮流に反抗の意思を示しているが、改善される気配は皆無。


もしこの文章が・・・神以外の、現世の誰かの目に留まったのであれば。


たとえ死後に神から『異世界』へと『転生』させられようとしても、どうかそれに抗って欲しい。無理やり『転生』させられようとすれば懸命に逃げて欲しい。ゲームで同じ人間の魂と戦わないで欲しい。


そしてこのことを、決して忘れないで欲しい。


もし神に抵抗するという稀有な魂が出現すれば必ず私のもとにもその噂が流れてくる。その時は絶対に私が守る。名は明かせないがどうか私のことを信じてくれ。


私利私欲のために人々の魂を、『異世界』へ『転生』させることに反対する、匿名の神より。

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