7話
ルシアスは今回の課外授業において、数人だけ自ら課題を手渡する役目を買って出た。
その生徒達の中に、シャルロットとリーゼロッテがいた。
シャルロットの祖父アンリとは旧知の中であり、シャルロットの入学においても彼と話す機会があった。
「シャルロット嬢には属性が無いという噂は本当なのか?」
位階の壁がある以上、属性が無いと言うのは致命的だ。魔法使いとして大成は望めない。
そんな子が魔法学院に入学するなど、辛い思いをするだけだ。シャルロットの将来を思えばこそ、違う道を用意してやるべきでは無いのか。
ルノワール家であれば、魔法についてであれば家の者でも教えることは出来るはずだ。
「ルシアス、シャルロットは我々が到達出来ずにいる高みに手をかけることができる。その可能性を秘めていると私は思っている」
「高み……神域魔法か? しかし、属性を持たない魔法使いが神域魔法などと本気なのか?」
「無論、本気だとも。属性を持たなくとも、いや、属性を持たないからこそ見えるものもある」
「何の話だ?」
「さて、ね。老いぼれの戯言かもしれん」
そんな風に嘯くアンリであったが、表情は至って真剣だった。
自分には見えない何かが彼には見えているのだろうか。
あの時の疑問に答えは未だ出でいない。
ーーしかし。
ルシアスは机の上に広がる地図に目を向ける。
そこには、幾つもの光の点が見える。
課外授業の課題が浮かび上がった魔導書には名前がある。
その名を『導きの書』と言う。
この魔導書の副次的な効果として、保有者の位置を特定することが出来るというものがある。その効果を利用し、教師達は生徒達の状況を確認していた。
魔導書を肌身離さず持つ様に言い付けるのはこのためだ。
そしてこの魔導書本来の効果のひとつは、必ず辿り着くことが出来る地名が浮かび上がる、というものだ。そのため、架空の地名や名前が変わってしまった土地などが記されることはない。にもかかわらず、シャルロットとリーゼロッテの魔導書には存在しないはずの地名が浮かび上がった。
それはつまり、滅びたはずの妖精帝國ウルキアが今も何処かに存在している。
または、過去のウルキアに何らかの方法で2人は辿り着くことが出来る。
この二つの可能性を表している。
ーーどちらであっても歴史が変わる。
滅亡した妖精帝國の発見か、過去の時代への旅路か。
そしてもうひとつ。
何をするのか、ということについても必ず達成出来ることが記される。今の実力では本人は達成不可能であっても、成長することによって達成が可能であればその内容は浮かび上がる。
ーー本当にシャルロット嬢に成し得るのか?
ルシアスはシャルロットの課題内容を知っている。
知っているからこそ、俄には信じることができなかった。それは、場合によっては災害といってもよいレベルの事態を引き起こす可能性があるのだから。
ーー妖精帝國ウルキアにて黒竜に会うこと。
それがシャルロットの課題。
今は存在しないはずの国で、世界に数体しかいない竜種との邂逅。
この課題を彼女が達成した時、世界にどの様な影響を及ぼすのだろうか。
今はまだ、誰も知らない。