?話
聖女は、一言で言えば『白い女』だ。
透き通るような白い肌に白い髪。白を基調とした修道服の様なローブには、赤い刺繍がアクセントになっている。
「どうかされましたか?」
こちらの視線に気が付いたのだろう。首を傾げながら問いかける。
常に閉じられた瞳は、どの様な色をしているか魔王はまだ見たことがない。目が見えないと言うことではない様だが、開いている姿を見たことがなかった。
「いや、何でもない」
何となく気まずくて、そっぽを向く様に答えた。
そんな魔王の姿を見て、全てお見通しというかの様に微笑む聖女。
「こんな美人と一緒で嬉しい、と素直に言って良いのですよ?」
「そんなことは思っていない」
聖女の軽口をバッサリと切って捨てる。
いつの間にか軽口言い合うような関係になったことに自分でも驚きだった。
ーー手を取るというコイツの言葉は当たったわけか。
少しだけ癪に触るような気もしたが、おおむね悪い気はしなかった。
そもそも聖女とは明確に敵対していたわけではなかった。魔王からすれば、相手が襲ってこないのであればこちらとしても相手をどうこうするつもりもない。
「それで? 貴様の目的は何だ?」
魔王は単刀直入に尋ねる。
そもそも彼女はなぜ自分と手を組もうと思ったのか。
はぐらかすことは許さないと言う思いを込めた視線を聖女に向ける。
そんな魔王の視線にこそ、彼女はどこか嬉しそうに微笑む。
「どうしても取り戻したいものがあります」
「それは?」
「私の半身です」
微笑みを貼り付けているが、彼女の態度は真剣だった。
まるで、このことだけは嘘は付けないとでも言うように。
聖女のことを語る際に無視できない存在がいる。史上最悪と言われた魔女だ。
魔女と聖女はセットで語られることが多い。
しかし、ある時から魔女の存在について語られることが無くなった。
曰く、魔女は死んだ。
曰く、魔女は異界へと旅立った。
曰く、魔女は不死であり、赤子へと転生した。
曰く、曰く、曰く。
多種多様な噂が飛び交っているが、真偽は不明だった。
「赤の魔女、か」
魔王の言葉に、聖女が一瞬悲しそうな表情をしたのは気のせいだろうか。
「それで具体的な計画はあるのか? まさか『赫の日』を再現でもするつもりか?」
「それで彼女が取り戻せるなら」
聖女は迷いなく断言した。
ーー赫の日。
妖精帝國ウルキアの滅びた日である『赤の日』にちなんで付けられた日。
魔女と聖女が歴史に名を刻んだ日。
とある都市がひとつ壊滅した日。
「それほどの犠牲を払ってもか」
「たったそれだけの犠牲です」
いつもと変わらぬ、甘い甘い蕩けるような声で聖女は即答する。
ぞくり、と悪寒が走った。
聖女は嗤う。
たったそれだけの犠牲で叶うのであれば、本当に安い代償だと言うように。
夢見る少女のように。