5話
――課外授業。
フィオレ魔法学院入学者にとっての最初の難関。
この課外授業での評価によって、所属する教室が決まると言っても過言では無い。
所属する教室は自分で選択することができると同時に、その教室を受け持つ教師が生徒を選ぶことができる。
課外授業の評価は、教師が生徒を選ぶ基準にもなるということだ。
課外授業は、
①何処で
②何をするのか
という2点が生徒ごとに課せられる。
課題内容は当日までわからない。
そのため生徒たちは、何処に行くことになるのか、何をすれば良いのかなど不安に思いながら当日まで過ごすことになる。
ーー流石に全く情報がないのは不安ね。
シャルロットは鞄に荷物をつめながら、課題の内容について思いを馳せる。しかし、考えたところで分からないと言う結論に辿り着く。
ーーリーゼロッテは大丈夫かしら?
自分のこともあるが、友人のことも気にかかる。以前のシャルロットであれば、こんな風に他人を心配などしなかっただろう。
シャルロットは、その変化を何処か心地よく感じていた。
リーゼロッテは自室で鞄に荷物を詰め終えて、明日からの課外授業用に着替えを用意していた。
いつもの学院の制服ではなく、修道服のようなデザインのローブ。白を基調として赤い刺繍がアクセントになっている。
ーー悩んでもしょうがないのは分かってるけど、どんな課題なんだろう……
見知らぬ土地に行くことになるかも知れない。
学院に入学が決まったときも、こんな風に不安だったことを思い出す。
ーーあの時は、シャルロットのような友達ができるなんて思わなかったな。
学院で出来た初めての友人。
シャルロットにしばらく会えないと思うと、どうしても憂鬱な気持ちになるリーゼロッテだった。
課外授業当日。
生徒が1人ずつ順番に呼ばれ、普段は空き教室となっている部屋に入っていく。
空き教室には担当教師が待っており、ここで課外授業の課題が言い渡される。
シャルロットの順番が回ってくる。少しだけ緊張しながらドアを開ける。
「ーーっ⁉︎」
思わず驚きで声が出そうになった。
空き教室で待っていた担当教師は、学園長だった。
フィオレ魔法学院学園長、ルシアス・ヴァン・エッセン。直接目にするのは、入学式の挨拶以来だ。
印象は好々爺。
ーーなんだけど、なんだか一癖ありそうなのよね。
「⁉︎ 失礼しました!」
思わず学園長を観察してしまった事に気づき、シャルロットは頭を下げた。
「あぁ、良い。楽にしてくれて構わないよ」
ルシアスは優しく微笑みながら、シャルロットに一冊の魔導書を差し出した。
「この魔導書に魔力を込めると課題が浮かび上がってくる。それを確認したら、課外授業へと向かいなさい」
「ありがとうございます」
シャルロットは魔導書を受け取り魔力を込める。魔導書が淡く光り始め、一度強く輝いた後に光が消えた。
魔導書を開くと、そこには課題の内容が浮かび上がっていた。
シャルロットは少しの間それを見ていたが、意を決したようにページを閉じて本を返そうとした。
ルシアスは静かに首を振りながら、シャルロットにゆっくりと告げた。
「あぁ、そうそう。その魔導書は肌身離さず持ち歩くように」
「はい!」
期待しているよ、と優しく微笑むルシアスに見守られながら、シャルロットの課外授業は始まりを告げた。
ーーウルキア。
空き教室を出て、歩きながらシャルロットは自分の向かう地名を思い出す。
ーーどこにあるのよ。
シャルロットが行くべき場所は、存在しない場所だった。
歩き出したは良いが、何処に向かうべきか分からず途方に暮れた。