13話
リーゼロッテの見立ては正しかった。
アイクル村の村人達は一人たりとも生きてはいない。
魔女メリッサによって全員殺されている。
メリッサは、殺害した村人の魂を捕らえ、森の中の自身の結界内に閉じ込めている。そのうえで、村人を模したゴーレムを作成し、その中に一部の魂を入れて動かしていた。
ゴーレムとなった村人達は、結界から解放されたことを喜び、村から出られないことに絶望した。
ただただ同じ日常を繰り返す人形。
村から出ることも許されず、自ら死ぬことも許されない。ゴーレムの身体が壊れれば、魂はまた結界へと戻るだけ。
ーー空気が美味い。
それは結界から出られたことに対する、無意識の喜びの言葉だった。結界内よりはマシだという。
悲しい喜びだった。
メリッサにとって、それは天からの恵みであった。
長年追い求めた場所へと繋がる鍵。それが偶然にも手に入ったのだから。
ーーあと少しなんだから。
自身の願いを叶えるために、長い年月を生きた身体と魂。アイクル村の住人達の魂を使い、研究実験の末に得た寿命。
しかしそれも、限界を感じていた。
願いを叶えるために時間が必要だった。他人の命を犠牲にしても。
そうして得た時間でも足りないかもしれない。
不安を抱えながらも研究を続けていたある日、彼女の前にそれは現れた。
ーーこれで願いが叶う!
メリッサは喜んだ。
自分の力だけでは到達できない最後の1ピースが手に入ったと。
しかし、今度は別のイレギュラーが発生した。
ーーどうして邪魔が入るの! もうすぐなのに!
目の前の白い女を睨み付ける。
視線だけで殺せそうな程に殺意をこめながら。
リーゼロッテが魔法を編み上げようとすると、周りの子供達が一斉に反応した。
首だけをぐりんと回し、こちらを見る姿勢は異様な光景だった。
リーゼロッテが少し躊躇した隙に、子供達が襲いかかって来た。
「随分優しいのね」
魔女の声が聞こえた瞬間、慌てて障壁を展開する。
ーーフレイムランス。
魔女の魔法が、子供達もろともリーゼロッテを飲み込んだ。
障壁で魔法を防ぎながら、リーゼロッテは子供達が炎に焼かれていく姿を見た。
ーーた、す、け、て。
一度殺されて魂となった子供は、その魂すらも魔女によって火刑に処された。
見ず知らずの子供達だった。
似ていると言うわけでも無いのに、教会の子供達の顔が浮かんだ。
「……私、あなたのこと、嫌いです。」
リーゼロッテもまた、目の前の魔女を睨み付けた。絶対に許さないという意志を込めながら。
宣戦布告だった。