10話
シャルロットが森の中を進んでいると、途中何度か違和感に襲われた。
例えば道が左右に分かれていた時、どちらか一方から嫌な感じがするのだ。そして、もう片方からは何も感じない。そのため、嫌な感じのするほうを避けて道を選んでしまうのだ。
森に詳しい訳でもない、特別感が働く訳でもない。そんなシャルロットが、なぜこのように感じるのか。
ーー違和感。すっごい違和感。
嫌な方を避けているというより、嫌な感じがする方に行かせないように誘導されているかのようだ。
「……よし」
深呼吸を何度かして覚悟を決める。
敢えて、嫌な予感がする方に向かって進んだ。正直、かなり神経が擦り減る。
怪しいと分かっていても、嫌な感じのしない方に行きたくなる。本当にこちらでよかったのか、と心のどこかで引き返して違う道を選びたくなる。
ーーこれも魔法の一種かしら。だとしたら相当な腕ね。
罠にかかったことすら気付かせない罠。
静かな毒。
おそらく結界の一種であろうこの魔法は、地味ではあるがとんでもなく優秀だ。
この魔法を考えた魔法使いは間違い無く一流。
ーーこんな時じゃなければ、詳しい話を聞きたいわ。
魔法使いとしての向上心が顔を覗かせるが、今はそんな時ではないと気持ちを切り替える。もしかすると、この罠を仕掛けた張本人と対峙することになるかもしれないのだ。
この様な人為的な仕掛けがあるということは、行方不明になった人達は何者かの意思によってそうなったということだ。
森の魔女がその犯人かどうかはわからない。しかし、必ず犯人はいる。
行きたくないという感覚に逆らいながら、シャルロットは森の奥へと進んだ。
随分と歩いた様にも、割とすぐに着いた様にも感じる不思議な感覚だった。
急に開けた場所に出た。
「……何、ここ」
シャルロットは思わず息を呑んだ。
そこは一本の巨大な樹を中心に、暖かな光に満ちた空間だった。
今までの森の中とは異なり、花が咲き、小鳥が鳴く、穏やかな庭園とでも言う様な場所。木々の葉に覆われて、空は見えないはずなのに明るい光に満ちている。
「お伽噺にでも出てきそう」
いや、まるで自分がお伽噺の中に迷い込んだかの様な気分だった。
先ほどまでの警戒心が解けてしまいそうな光景だ。
ーーもしかして、あの結界はここを隠すためのもの?
だとすると、ここに行方不明になった人達がいるのだろうか。
何か手掛かりがないかと大樹の元へと歩くシャルロット。その背後で大きな何かが動いた。
「……っ⁉︎」
そこには巨大なゴーレムが、まさにこちらに襲い掛かろうとしていた。